概要
アミロイドニューロパチーとは、アミロイドと呼ばれる異常な線維状の構造を持つ不溶性タンパク質が末梢神経に沈着して生じる末梢神経障害のことを指します。
末梢神経は、脳や脊髄などの中枢神経から枝分かれして全身に広がる神経のことで、運動神経(全身の筋肉を動かす機能)、感覚神経(感触や痛みなどを感じる機能)、自律神経(血圧、消化管の動き、排尿、発汗など内臓機能を調整する機能)からなります。アミロイドニューロパチーでは、末梢神経が障害されることで、しびれ、痛み、筋力低下、歩行障害、起立性低血圧、嘔吐、腹痛、下痢、便秘、排尿障害、勃起障害、発汗障害などさまざまな症状が現れます。
原因
アミロイドニューロパチーの原因は、アミロイドーシスのタイプにより異なります。トランスサイレチンが原因となる“ATTRアミロイドーシス”(遺伝が関連する“遺伝性ATTRアミロイドーシス”と、遺伝は関連せずに加齢とともに生じる“野生型ATTRアミロイドーシス”にさらに分類されます)と、免疫グロブリン軽鎖が原因となる“ALアミロイドーシス”、極めてまれにゲルソリン遺伝子の変異による“ゲルソリンアミロイドーシス”による場合があります。
遺伝が関係する場合
遺伝が関連するアミロイドニューロパチーの代表的なものが遺伝性ATTRアミロイドーシスであり、以前は“家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)”と呼ばれていました。トランスサイレチンの遺伝子変異は、親から子に遺伝する可能性があります。両親のどちらかに遺伝子変異がある場合、理論的には50%の確率で子どもに受け継がれます。
遺伝が関係しない場合
後天的なものでは、“免疫グロブリン軽鎖型(AL)アミロイドニューロパチー”が代表的です。多発性骨髄腫に伴う場合と伴わない場合があります。いずれの場合も異常に増加した形質細胞から産生される免疫グロブリン軽鎖がアミロイドを形成することが原因と考えられています。
症状
アミロイドニューロパチーでは、末梢神経にアミロイドが沈着することで、以下のような末梢神経(運動神経・感覚神経・自律神経)に関連した症状が現れます。
- 運動神経障害……筋肉の痩せ、筋力低下など
- 感覚神経障害……手足のしびれ、温感や痛みの鈍化など
- 自律神経障害……起立性低血圧(立ちくらみ・失神)、胃腸症状(下痢と便秘を繰り返す・吐き気・腹痛)、膀胱直腸障害(排尿障害・尿失禁など)、心障害(不整脈・心不全)、勃起障害、発汗障害など
ただし、症状の種類や現れ方には個人差があります。また、アミロイドは末梢神経だけでなく、体のさまざまな臓器に沈着することもあり、その場合には障害された臓器に応じた症状もみられるようになります。
検査・診断
アミロイドニューロパチーでは、まず問診や身体診察で家族歴や症状を確認します。そしてもしもこの病気が疑われる場合には、組織の一部を採取する生検が行われます。
診断を確定するにはアミロイドの沈着を証明する必要があるため、腓腹神経などから組織を採取して顕微鏡で調べられる場合があります。アミロイドが脂肪組織や全身の微小な血管、消化管にも沈着しやすいという性質を利用して、皮下脂肪、皮膚、消化管、口唇などから負担が比較的少なく簡便に実施できる生検による病理検査も広く行われます。アミロイド沈着がみられたら、アミロイドを構成するタンパク質の種類を検査し、どのようなアミロイドーシスのタイプであるか確認する必要があります。
また、遺伝性ATTRアミロイドーシスが疑われる場合は、トランスサイレチン遺伝子の変異を調べるために採血により遺伝子検査が行われます。
そのほか、障害の程度を評価するためや原因疾患の有無を調べるために、心電図や心臓超音波検査、心筋シンチグラフィー、神経伝導検査、骨髄検査、骨X線検査などが行われる場合もあります。
治療
近年では、特に治療効果が高い“疾患修飾療法”が多く開発され、いくつかの薬はすでに一般的に使用できるようになっています。特に“遺伝性ATTRアミロイドーシス”に対する先進的な核酸医薬やタンパク質安定化薬、“ALアミロイドーシス”に対する分子標的薬などは、早期に使用することで病気の予後を改善する高い治療効果が見込めます。しかし、これらの新しい治療法でも進行した症状を改善することは難しい場合が多いです。さらに、次世代の核酸医薬、ゲノム編集治療、抗体治療などの研究も進んでおり、将来的にはさらに高い効果を持つ多くの新規治療法が選択できるようになることが期待されています。従来は症状を緩和する“対症療法”が治療の中心でしたが、医療の進歩に伴って現在では病気の初期であれば治療できる病気になりつつあります。
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