ジストニアの治療法には内科的治療法と外科的治療法があります。ではどの治療法が患者さんにとって最適なのでしょうか。東京女子医科大学 脳神経外科の平孝臣先生に詳しくお話し頂きました。
・抗コリン剤・・・古くから使われているパーキンソン病の治療薬。また振戦(筋肉の収縮と弛緩が繰り返された時に起こる無意識な震え)にも効果がある。
・レボドパ(L-dopa)製剤・・・脳内に不足したドパミン(神経伝達物質)を直接補充・増加させる、パーキンソン病の治療薬。手足の震えや筋肉のこわばりなどを改善する。
・抗てんかん薬・・・脳の神経細胞における過剰な興奮を抑制する。
特定部位の筋緊張を緩和する目的でボツリヌス毒素を注射する。
脳の写真をもとに、症状に関わる神経細胞を働かないように壊したり、活動するように刺激するための電極を埋め込んだりする手術。
・淡蒼球(たんそうきゅう)内節凝固術:脳の淡蒼球という部位の一部に電気凝固などを行い、人工的にその機能低下を生じさせる手術法。
・視床凝固術:上記同様、脳の視床部の一部に電気凝固などを行う手術法。
・脳深部刺激療法:電極を脳内の特定の場所に留置し、胸の皮膚の下に刺激発生装置を埋め込み、それらを皮膚の下でリードによってつなぎ、脳内の刺激を行う方法。
そもそも定位脳手術はジストニアの治療ための手術として始まったわけではありません。1947年にアメリカのシュピーゲル氏とワイシス氏が精神疾患の治療のために定位脳手術を行ったのがきっかけです。定位脳手術がとりいれられるまでは直接脳を切除する手術を行っていましたが、効果はあっても一体どの部分を切除することで効果があったのかが不明瞭であり、また重大な合併症・副作用が生じることも多々ありました。
しかし、効果が得られる特定の部位を彼らが発見し、その部位に正確に細い電極の針を入れ熱で焼く・電気刺激を与える・ピンポイントで薬を注入することにより症状が改善することがわかりました。しばらくして世界中で精神疾患以外にも、パーキンソン病・手足の震え・不随意運動などにも定位脳手術が行われるようになりました。
日本では1950年代に楢林博太郎氏によって定位脳手術が取り入れられ始めました。それから1990年代の終わりくらいまでは、症状を発生させている脳の特定の部位に針を入れ、電気で焼いてその部位を壊す手術が中心でした。この手術はジストニアにも多く適用されました。
ただその当時はMRIやコンピューターなどの機材も無く、CTも普及していない時代でしたので、特定の部位に正確にアプローチすることが非常に難しかったのです。手術を行っていても、どの部位にアプローチできているのかわからない状況でした。ですから、症状が改善することもあれば、改善されないこともあり、むしろ悪化してしまうこともありました。脳の神経を一度電気や熱で焼いてしまうと、もう元の状態には戻せないですし、どの部位にアプローチしたことで悪化したのか判断できないので、リスクが高い手術でした。
そして1990年代後半からは、脳の中の狙うべきポイントに細い電極を留置し、胸の皮膚の下には刺激発生装置(心臓のペースメーカーのように脳を慢性的に刺激する、脳のためのペースメーカー)を埋め込む「脳深部刺激療法(Deep Brain Stimulation :DBS)」が登場しました。装置から発せられる電流を変え、脳への刺激の強弱を調整することで症状を緩和します。いわば、神経を麻痺させてしまうような効果が得られるのです。もし異常が起こったら電流を弱めるまたは止めればよいわけですし、そのように調節ができることがメリットです。
1990年代後半からは、パーキンソン病・手足の震え・ジストニアにも定位脳手術の脳深部刺激療法が主流になり、今ではもう20年が経ちました。なお、日本では2000年にパーキンソン病や振戦を含む不随意運動の治療法として国内でも保険適用されています。
三愛病院 脳神経外科
平 孝臣 先生の所属医療機関
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