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HER2陽性原発性乳癌の治療の現状と展望〜術前治療からのアプローチ 第26回日本乳癌学会学術総会レポート

HER2陽性原発性乳癌の治療の現状と展望〜術前治療からのアプローチ 第26回日本乳癌学会学術総会レポート
メディカルノート編集部  [取材]

メディカルノート編集部 [取材]

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この記事の最終更新は2018年06月25日です。

去る2018年5月16日(水)〜18日(金)、国立京都国際会館(京都市左京区)にて第26回日本乳癌学会学術総会が開催されました。本学会では、連日プレスリリースが実施され、注目演題の概要や乳がん領域におけるトピックが発表されました。座長は大会長である戸井雅和先生(京都大学大学院医学研究科外科学講座 乳腺外科学教授)が務められました。本記事では、国立病院機構大阪医療センター乳腺外科の増田慎三先生の発表をお伝えいたします。

かつてHER2陽性原発性乳がんは予後の悪いタイプの乳がんでしたが、近年は分子標的薬の登場によって予後がよいものとなってきました。JBCRG-C01の研究では、HER2陽性原発性乳がんの3年DFS(無病生存率)は92.6%、3年OS(全生存率)は98.3%と良好な結果を収めています。

そこで、HER2陽性原発性乳がんの治療における次のステップとして、Escalating とDe-Escalatingに着目し、リスクに応じて治療の個別化を図るための臨床研究が各所で行われています。

ここでいうEscalatingとは、治療の強度を上げて、生存率100%を目指すことです。たとえば、トラスツズマブを使用した抗HER2療法に、ラパチニブやネラチニブ、TDM-1(トラスツズマブエムタンシン:抗体薬物複合体)を追加することで、治療の効果をさらに高めていく試みがなされています。

一方、De-Escalating とは、現状と同じ治療成績を維持し、副作用やコスト削減を目指すことを指します。たとえば、トラスツズマブの投与期間を短くしたり、心毒性の強いアンスラサイクリン系の抗がん剤の使用を軽減したりして、治療成績などを評価する研究が行われています。

これらの臨床研究では、一定の有効性が示されていることがわかっています。しかし、患者さんごとに個別化した治療はなかなか行われていないことが現状です。そのため、今後は患者さんごとのリスクや薬の効きやすさなどを見極めることで、それに応じて治療の内容や期間を調整することが大きな課題といえます。

HER2陽性原発性乳がんでは、pCR(術前の薬物療法でがん細胞が完全に消失すること)が得られれば、良好な予後を得ることが可能です。そして、pCRを得るには、術前薬物療法の効果をいかにあげるかと同時に、薬物療法による副作用をいかに軽減するかを考えることも大切です。

JBCRG-20(Neo-peaks) 試験では、HER2陽性原発性乳がんの術前薬物療法にTCbH +P(ドセタキセル・カルボプラチン・トラスツズマブ+ペルツズマブ)とT-DM1(トラスツマブ エムタンシン+ペルツズマブ)を使用してpCR率を調査した試験を行いました。試験ではグループを以下のように分けています。

 

グループA…TCbH+P ×6サイクル

グループB…TCbH+P ×4サイクル→T-DM1+P× 4サイクル

グループC…T-DM1+P ×4 サイクル→著効例はT-DM1+P× 2 サイクル追加(グループC1)

→無効例は FEC ×4サイクルに移行(グループC2)

 

また、HER2陽性原発性乳がんでは、ホルモン感受性が陽性か陰性かで薬剤感受性に違いがあり、ホルモン陰性タイプのほうが高いpCR率を得られることがわかっています。そのため、本試験でもホルモン陽性タイプと陰性タイプでpCR率を分けて結果を示しました。

こちらが術前薬物療法によるpCR率を示した試験結果です。

ホルモン陰性タイプに関しては、TCbH+P を6サイクル行ったグループAでもっとも高いpCR率が得られています。しかし、ホルモン陰性タイプに比べて薬剤感受性が低いとされてきたホルモン陽性タイプでは、TCbH+P を行ったあとにT-DM1+Pを行うことで(グループB)、60%を超える高いpCR率が示されています。

この試験結果から、脱毛などの副作用が少ないT-DM1を術前薬物療法に上手に使用することで、治療による害を軽減するDe-Escalatingが実現できる可能性があります。そして、患者さんの状態や乳がんのタイプに合わせて、治療を個別化することで予後改善が期待されます。

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