去る2018年5月16日(水)〜18日(金)、国立京都国際会館(京都市左京区)にて第26回日本乳癌学会学術総会が開催されました。本学会では、連日プレスリリースが実施され、注目演題の概要や乳がん領域におけるトピックが発表されました。座長は大会長である戸井雅和先生(京都大学大学院医学研究科外科学講座 乳腺外科学教授)が務められました。本記事では、大阪大学大学院乳腺内分泌外科の直居靖人先生の発表をお伝えいたします。
ER陽性HER2陰性の乳がんの早期再発を予測するモデルとして、95遺伝子を用いた95GCモデルがあります。95GCは再発リスクによって、ハイ(高)リスク群とロー(低)リスク群の2つに分けることができ、高い再発予測能を示していることが各試験で明らかとなっています。
大阪大学では95GCを使って実臨床と同様の運用で臨床試験を行っています。臨床試験では、ER陽性HER2陰性に対して、術中センチネルリンパ節生検でネガティブの検体に対して遺伝子解析を行いました。試験の結果は、22例がハイリスク群、43例がローリスク群となりました。
また、95GC施行前にホルモン療法を行う方針となっていた29例のうち、6例がハイリスク群と判定され、うち4例が化学療法を行いました。また、95GC施行前には化学療法を行う方針であった36例のうち、20例がローリスク群と判定され、そのうち18例が化学療法を省略しています。
つまり、合計14例(18-4例)の方が化学療法を省略することができており、95GCを行うことで、患者さんにとって最適な治療を提供することが可能となります。
私たちは、早期再発乳がんと晩期再発乳がんのバイオロジー(生物学)は異なると考えています。そこで、晩期再発乳がんを予測するために、ER陽性HER2陰性の乳がんを177例集めて、再発時間順に並べました。そして、早期と晩期の遺伝子発現を網羅的に比較することで、晩期再発予測モデル42GCを構築しました。また、42GCはレイトリカレンス群(晩期再発する)とノンレイトリカレンス群(晩期再発しない)に分かれます。
術前化学療法(NAC)後の再発を予測する155GCの構築においては、術前化学療法後の予後に差が出た検体の遺伝子発現パターンを網羅的に比較しました。試験結果では、高い再発予測能として有用であることが分かっています。
また、早期再発を予測する95GCの適応がFFPE検体へ拡大されました。2018年4月から、受付を開始しています。
95GCは、乳がん原発全遺伝子5万4000箇所の発現情報を全て記載したセルファイルを作成しました。このセルファイルを用いることで、95GC、42GC、155GCなどのER陽性HER2陰性の乳がんの再発予測モデルの解析が一度で、なおかつ低コストで可能になるかもしれません。
たとえば、ER陽性HER2陰性の乳がんの95GCでローリスクであれば42GCにてホルモン療法延長の必要性を判断し、ハイリスクであれば術前化学療法を施行して155GCで再発予後を予測します。
155GCでローリスクであれば、化学療法後の予後は良好という予測ができるため、42GCにてホルモン延長療法の必要性を判断して、ハイリスクであれば化学療法後も予後が悪いと考えられるため、追加の化学療法を検討することができます。
このように複数の多遺伝子解析を組み合わせることで、きめ細かな個別化医療の実現を目指したいと考えています。
さらに、検査の数だけ良質なセルファイルデータベースが構築され、日本全国からデータを集積することで、新たな研究開発や疾患マーカーの検索の実現も期待されます。
そして、このような三角形のシステムの構築をしていきたいと考えています。
今回お話しした、95GC、42GC、155GCそれぞれの多遺伝子解析後に、全遺伝子データを記載したセルファイルを登録してデータベースを構築します。そして、その後データベースを解析して多遺伝子解析自体を改良することで、再び検査として患者さんに使用できます。
この三角形の流れを、何度も回し繰り返していくことで、遺伝子診断の制度は我が国で上昇し、治療成績も向上するでしょう。そして、遺伝子検査を広く国産化することで、サンプルデータを国内にとどめ、国内に解析のデータベースを構築するべきだと考えています。
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