去る2018年5月16日(水)〜18日(金)、国立京都国際会館(京都市左京区)にて第26回日本乳癌学会学術総会が開催されました。本学会では、連日プレスリリースが実施され、注目演題の概要や乳がん領域におけるトピックが発表されました。座長は大会長である戸井雅和先生(京都大学大学院医学研究科外科学講座 乳腺外科学教授)が務められました。本記事では、東北大学大学院医学系研究科 乳腺・内分泌科 宮下穣先生の発表をお伝えいたします。
リンパ節転移陽性(1〜3個の転移)の乳がんに対して術後放射線治療であるPMRTを行うことで、その後10年間の局所・遠隔再発率や死亡率を下げることは明らかとなっています。しかし、術前化学療法後に乳がん全摘術を行った患者さんに対して、PMRTを行うことの有効性は明らかとはなっていません。そこで、私たちはNCD乳がん登録から術前化学療法後に乳がん全摘術を行った患者さんのデータを抽出して、PMRTの有効性を検証しました。
検証ではNCD乳がん登録のうち、2004〜2009年までの145,000例を抽出して、そこから男性乳がん、両側乳がん、術前化学療法を行っていない、T1〜4以外、M1、温存手術を行った症例などを除いた6,021例に絞りました。さらに、そこから情報が不十分であると判断されたものを除き、最終的に3,226例を対象に検証を行いました。
そして、これらの患者さんの局所再発、遠隔再発、生存率を検証しました。また、PMRTの照射グループと非照射グループで、患者さんごとに年齢やサブタイプなどにばらつきがあるため、調整をかけて多変量解析を行っています。
これらの対象患者のデータをもとに、yp-N0*、yp-N1*、yp-N2-3*ごとに局所再発、遠隔再発、生存率を検証しました。
検証の結果、yp-N0、yp-N1の症例に関しては、局所再発、遠隔再発、生存率すべてにおいて、PMRT照射群と非照射群では有意差はみられませんでした。
しかし、yp-N2-3の局所再発、遠隔再発、生存率においては非照射群との有意差を認める結果となりました。ただし、多変量解析の結果として、PMRTが有効であるかどうかについては、yp-N2-3の局所再発、生存率に有効であるとされましたが、遠隔再発に関しては有効性が認められませんでした。
yp-N0…病理所見で転移なし
yp-N1…病理所見で腋窩リンパ節転移あり
yp-N2-3…病理所見で可動性のない腋窩リンパ節転移、胸骨傍リンパ節転移、鎖骨上リンパ節転移あり
近年、乳がんの薬物療法の効果が高まっていることもあり、N0やN1の症例においてはPMRTの重要性は低くなってきていると考えます。しかし、N2以上の症例においては、術前薬物療法を行っていたとしても、PMRTを行うことで局所再発を抑制することができ、最終的には生存率向上にもつながると考えられます。
また、今回はNCDの乳がん患者登録から5年間のフォローアップを行った患者さんに対して検証を行いましたが、より精度の高い結果を示すためには10年間のフォローアップでみていく必要があると考えています。現在、私たちは本件に関して10年間の調査を行うランダム化比較試験を行っています。
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