女性の罹患率が高いがんの1つに乳がんがあります。乳がんの主な治療法である薬物療法と手術にはどのような特徴があるのでしょうか。
今回は、乳がんの治療に携わっていらっしゃる埼玉県立がんセンター 乳腺外科の松本 広志先生と乳腺腫瘍内科の永井 成勲先生に、乳がんの薬物療法と手術の特徴についてお話を伺いました。
手術は一般的に、0~IIIA期の比較的早期の乳がんに適応となります。IIIB~IIIC期は、乳房あるいは腋の下のリンパ節の病変が進行している段階で切除不能のため、薬物療法が一般的です。
ただし、切除不能であっても薬物療法によってがんが縮小し、その後切除可能となる場合もあります。たとえば、HER2陽性の乳がんやホルモン受容体陰性の乳がんでは、効果のある薬があるため、薬物療法によってがんが縮小し切除可能になることが比較的多いと考えられます。
離れた臓器などに転移がみられるIV期乳がんは、一般的に手術の対象にならないと考えてよいでしょう。
乳がんの手術の大きな目的は、病変の完全切除です。また、切除した病変を病理学的(顕微鏡)検査で調べ、そこで得た情報を元にその後の治療方針を決めていきますので、治療のための情報を集めるという目的もあります。
乳がん手術では、乳房と腋の下(腋窩)の手術を行います。乳房の手術には主に病変部分を切除し乳房を温存する乳房部分切除術(乳房温存手術)と、病変を含む乳房を全て切除する乳房全切除術があります。さらに、腋窩リンパ節転移がある場合には、リンパ節を系統的に切除するリンパ節郭清を行います。
リンパ節郭清を行った場合には、上肢の浮腫(むくみ)や神経障害が起こることがあります。臨床的にリンパ節転移がない場合には、センチネルリンパ節(がんが最初に到達するリンパ節)生検のみにとどめ、この有害事象を避けるようにしています。
乳房部分切除術と乳房全切除術のどちらを行うか、考慮すべきもっとも大きな要素は乳房の中でのがんの広がりです。乳がんのしこりの周りに乳管に沿ってがんの広がりがみられることがあります。このような乳管内進展も含めてがんの広がりを診断し、乳房部分切除か全切除かを決めていきます。
がんが広範囲に広がっている場合には、たとえ初期の段階であっても乳房全切除術を行うことがあります。反対に病変が限局している場合には、乳房温存手術を行うケースが多いと考えられます。
また、遺伝性乳がんの場合には、乳房を温存すると同じ乳房に再度がんが発生する可能性が比較的高いため、一般的には乳房全切除術を行います。
さらに、術後の乳房の形も考慮し、術式を選択していくことになります。乳房温存手術では、整容性(乳房の形)に患者さんが満足できることも非常に重要だからです。たとえば、病変のある位置によっては同じ大きさを切除しても変形が大きくなり乳房温存が難しいことがあります。また、全切除術の場合には再建術を併用することがあります。
乳房部分切除術の特徴は、自分の乳房が残るということです。がんの病変を十分に切除することができ、予後も悪化しないようであれば、患者さんにとって大きな利点になると思います。ただし、乳房部分切除術では、術後に放射線療法が必要です。
乳房全切除術の特徴は、乳房内の病変に関しては、ほぼ切除することができる点です。局所のがんの残存がほとんどなくなることが大きな利点であると思います。ただし、患者さんによっては自身の乳房がなくなったことによる強い喪失感を抱く方もいらっしゃると思います。近年は、乳房再建手術も行うことができるようになったので、乳房を全切除しても再建によって乳房の形を保ちながら根治性が得られる治療法が検討されます。
全切除したからといって部分切除と比べて合併症の頻度が高くなることはないと考えられますが、まれに疼痛を強く感じられる方で薬物療法が必要となることもあります。
術後の合併症として上肢の強い浮腫が現れた場合には、治らなくなってしまうことがあります。このため、なるべく浮腫が起こらないよう注意することが大切です。当院では、手術が終わり退院するときに、リンパ浮腫を予防する方法や、どのような症状が現れたら受診すべきということを必ずお伝えするようにしています。
たとえば、手術を行った側の上肢では、傷など炎症が起こるようなことをなるべく避けていただくことが大切です。採血や点滴などを受けるときにもできれば手術したほうの腕は避けるよう注意していただきたいと思います。
乳がんの薬物療法とは、主にホルモン療法薬、分子標的薬、細胞障害性抗がん薬を用いた治療を指します。薬物療法は、手術前後で行う場合には、がんを小さくしたり再発のリスクを下げたりする目的で行われます。一方、手術が難しい進行乳がんや再発乳がんの場合には、症状を緩和したり延命したりする目的で行われます。
乳がんの薬物療法では、乳がんの性質によって標準的な治療がある程度確立しています。ホルモン受容体やHER2タンパク発現の有無などは、薬剤選択を行ううえで、重要な指標となります。
このように科学的根拠に基づき標準化された治療を行うことが前提ですが、患者さんの意思も大切です。薬の副作用や費用、通院頻度などに対する患者さんのお考えを確認し、最終的な治療を決定します。たとえば、さまざまな合併症を抱えており現実的に標準とされている薬を用いた治療が難しい場合もありますし、金銭的状況によって薬物療法に費用をかけられない場合もあります。科学的根拠に基づいた治療を前提にしながらも、このような患者さんの社会的状況や経済的状況、ご希望を考慮して薬を決定していきます。
乳がんの薬物療法の副作用にはさまざまなものがあります。中でも、脱毛や吐き気をイメージされる方は多いかもしれませんが、脱毛や吐き気は一時的であることが多いです。吐き気に関しては制吐剤という吐き気を止める薬が進歩しています。吐き気が原因で治療できないケースはまれになりつつあります。
タキサンと呼ばれる薬を手術の前後で用いた場合には、手足のしびれやむくみが長期間持続するケースもあります。美容師や理容師など、職業によっては繊細な手先の動きを必要とする方では、受容できない副作用となる可能性がないか確認が必要になります。
HER2陽性乳がんで投与される抗HER2抗体による心機能の低下、ホルモン受容体陽性乳がんで投与されるホルモン剤によるほてり、関節痛、骨密度の低下などがあります。
薬物療法を行ううえで大切なことは、主治医としっかりとコミュニケーションを取ることです。また、治療に関わっている看護師や薬剤師としっかりとコミュニケーションを取ることも大切です。
特に薬物療法の対象となる再発乳がんは、治療を行ってもがんの治癒が難しい状態です。治療を続けるなかで精神的に不安になることもあると思います。なかには薬の効果が見込めないために短期間で治療を変更しなければならないケースもあります。
もしも治療方針に納得できなければセカンドオピニオンに行くことを打診することも大切だと考えています。セカンドオピニオンに行くことで、その後、納得して治療を続けられる場合もあるでしょう。まずはかかっている病院の担当医としっかりとコミュニケーションを取ること、そのうえで、もう少しさまざまな意見が聞きたいということであれば、遠慮することなく「セカンドオピニオンを聞きに行きたい」と伝えてほしいと思います。
治療を受ける際には、主治医とよく相談し、できるだけご自分の考えや希望を伝えてほしいと思います。乳がんの患者さんはよく勉強されている方が多いですが、まず主治医の説明をよく聞き、疑問点があれば遠慮せずに質問し、納得したうえで治療を受けることが大切でしょう。治療前には先が見えないと不安を感じることもあるかもしれませんが、さまざまな治療法や症状に対する対策方法があるので、少しずつ前を向いて治療に取り組んでほしいと思います。
乳がんの治療を受ける際には、患者さんが治療に関する説明を聞いて納得し「この病院で治療を受けたい」と思える医療機関で治療を受けることが重要だと思います。医師や看護師の話を聞き、治療を受けるご本人がしっかりと納得して治療に臨んでほしいと思います。
乳がんでは、効果が期待できる治療がある程度確立しています。科学的な根拠に基づいた治療を行いますが、必ずしもそれらが患者さんの考えやライフスタイルと合致しているとは限りません。ご希望をきちんと医師に伝え、折り合いをつけながら納得して治療を受けていただくことが重要です。
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