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前立腺がんとは? 原因・検査・診断・ステージごとの治療

前立腺がんとは? 原因・検査・診断・ステージごとの治療
黄 英茂 先生

横須賀市立うわまち病院 泌尿器科部長

黄 英茂 先生

目次
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前立腺は男性だけに存在する、生殖にかかわる臓器の1つです。前立腺で作られる前立腺液は精液の一部として精子に栄養を与え、精子を保護する役割を持っています。

前立腺は膀胱の出口近く、恥骨の裏側に位置しています。大きさは栗の実程度であり、中には尿道が通っています。この前立腺の細胞ががん化して異常増殖する病気が前立腺がんです。

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素材提供:PIXTA

前立腺がんの患者さんは年々増加しています。2017年の統計では、がんにかかる患者さんの数(罹患数)を部位別に集計した結果、男性では前立腺がんが胃がんを上回り第1位です。前立腺がんは高齢の方に多く発症するため、人口における高齢者の占める割合が高くなるほど前立腺がんの患者さんも増加します。また、血液中の前立腺特異抗原(PSA)の値を調べるPSA検診が普及したことも影響していると考えられます。

全世界での前立腺がん罹患数は、2008年のデータによれば年間約90万人と報告されています。これは男性における全てのがんの中で2番目に多く、13.7%を占めています。年間死亡数は約26万人で6番目に多く、6%を占めています。

前立腺がんは世界的に見ると2番目に多いがんです。ただし、地域によるばらつきが大きく、先進国では全てのがんの中で最多であるのに対し、発展途上国では5番目となっています。

前立腺がんの年齢調整死亡率は全世界で10万人あたり7.5で、世界で6番目に高いがんです。先進国では10.6で3番目の高さですが、発展途上国では5.6で6番目となっています。米国では1990~1992年をピークに死亡率の減少が続いており、2007年には死亡率が39%低下しています。

前立腺がんの罹患率の国際比較においては、がん症例登録の精度やスクリーニング(ふるい分け)の普及の度合いが異なるため正確に比較することはできません。2002年のデータではアメリカが119.9、ヨーロッパが61.6であるのに対して日本は12.6と報告されていますが、最新の研究では日本とヨーロッパの罹患率の差は2倍程度と予測されています。

前立腺がんの危険因子(リスクファクター)としては、以下の要素が挙げられます。

・加齢(患者さんの多くが60歳以上)
・遺伝的要因
・食生活の欧米化
・人種による相違(生涯罹患率で比較すると、アジア人1:白人2:黒人4の割合)

前立腺がんの原因として決定的なリスクファクターは特定されていません。しかし、遺伝的要因が重要であることが分かっています。親子や兄弟といういわゆる第一度近親者の中に前立腺がんになったことがある方がいると、がん発症のリスクが高まります。またその家族が前立腺がんと診断された年齢が若いほど発症リスクは高いとされています。

たとえば第一度近親者に1人の前立腺がん患者さんがいた場合、前立腺がんの罹患率は2倍になり、2人以上いた場合は前立腺がんの罹患率が5~11倍に増加します。

また、父親が60歳以上で前立腺がんの診断を受けている場合は1.5倍、兄弟が60歳以上で前立腺がんと診断された場合は2倍、父親が60歳未満で前立腺がんと診断された場合は2.5倍、兄弟が60歳未満で前立腺がんと診断された場合には3倍もリスクが増加します。

さらに祖父・叔父・甥・異父母の兄弟などの第二度近親者を含む親族の中に前立腺がんにかかったことのある人が2人いる場合は4倍、3人以上の場合は5倍リスクが増加します。

このほか、最近では細胞増殖に関係しているたんぱく質の一種であるIGF-1によって前立腺がんのリスクが高くなる可能性が指摘されています。

また、明確なエビデンス(科学的根拠)はないものの、環境要因としては食生活の欧米化に伴う、乳製品などの動物性脂肪の摂取量増加が、前立腺がんの発症リスクにかかわっているとの指摘があります。食品・栄養素では砂糖・乳製品・肉類・油脂類が前立腺がんの罹患率を高めます。一方、豆類・穀物・コーヒー・魚・野菜は前立腺がんの罹患率を下げると考えられています。

日本では前立腺がんが男性がんの1位になったとはいえ、日本を含むアジアの国々は欧米と比較して前立腺がんの発症率が低いといえます。酸化ストレスやそれによって引き起こされる炎症は、前立腺がんを含む多くのがんの発症に深くかかわっていると考えられています。

アジアの伝統的な食生活で多く摂取されてきた豆類などのポリフェノール類が前立腺がんの予防につながるのではないかと注目されています。特に大豆イソフラボン・イクオール・茶カテキン・リコピン・セレニウム・ビタミンE などの機能性食品に前立腺がんの予防効果があるかどうかが研究されています。有効性を証明するにはさらなる研究が期待されるところです。

前立腺肥大症と前立腺がんはいずれも年齢とともに患者さんが増え、男性ホルモンであるアンドロゲンが関係しているなど、いくつかの共通点があります。しかし、それぞれの病気の発症に関して相互にどのような影響があるのかは分かっていません。

尿が出にくい・切れが悪い、あるいは頻尿や尿失禁などの前立腺肥大症の症状は、前立腺がんにも共通するものであるため、このような症状がある場合には鑑別診断が必要です。

早期の前立腺がんには特徴的な症状は見られません。しかし、同時に発症していることの多い前立腺肥大症による症状が現れることがあります。

前立腺肥大症の症状〉

  • 尿が出にくい
  • 尿の切れが悪い
  • 排尿後すっきりしない(残尿感)
  • 夜間にトイレに立つ回数が多い
  • トイレまで我慢できずに尿が漏れてしまう(尿失禁

症状がないうちに発見できれば、がんが前立腺の外に広がっている可能性は低いです。しかし何らかの症状が出てくると、がんが前立腺の外に広がり始めている可能性が高くなります。

前立腺がんが進行すると、このような排尿の症状に加えて、血尿や骨への転移による腰痛などが見られることがあります。腰痛のために骨の検査を受けた際、骨転移がきっかけとなって前立腺がんが見つかることもあります。

前立腺がんの検査・診断はPSA検査によるスクリーニングに始まり、下図のような流れで行われます。

前立腺癌診療ガイドライン2012年版(日本泌尿器科学会)より引用

PSA(Prostate Specific Antigen:前立腺特異抗原)は、前立腺で作られるたんぱく質の一種で、前立腺がんがあるとその分泌量が増加します。PSA検査は血液中のPSAの値を測定する検査であり、まだ症状が現れないうちにがんを見つけることができます。ただし、PSA検査によって危険性の低いがんも発見される可能性があります。

前立腺がんがある場合、PSA値の上昇が見られますが、前立腺がんでもPSA値が上昇しない場合もあります。また、前立腺肥大症や前立腺の炎症でもPSAが高い値を示すことがあります。

PSA検査で基準を超える値が出た場合は泌尿器科専門医の診察を受け、前立腺がんが疑われる際は、前立腺の組織を採取してがん細胞の有無を調べる前立腺生検を行います。

前立腺生検では超音波(エコー)で前立腺を見ながら、直腸から細い針を刺して前立腺の組織を採取します。その際、直腸からの出血や血尿が見られることがありますが、重い合併症はほとんどありません。

前立腺生検でがん細胞が見つからなかった場合でも、がんの疑いが完全にないとはいえないため、定期的に泌尿器科専門医の診察を受け、経過観察を継続します。

前立腺生検でがん細胞が見つかった場合は、画像診断などさらに詳しい検査を行い、がんの病期(ステージ)を診断します。画像診断では骨シンチグラフィーに加えてCT(Computed Tomography:コンピューター断層撮影)やMRI(Magnetic Resonance Image:核磁気共鳴画像)のほか、必要に応じて胸部X線撮影を行う場合もあります。

がんが前立腺の中にとどまっているものを「限局性がん」といい、低リスク群・中間リスク群・高リスク群の3つに分類されます。がんが前立腺の被膜を破って外側へ広がっている場合は「局所進行がん」といい、超高リスク群と分類されます。

がんがさらに進行すると、前立腺に隣接する膀胱や直腸に浸潤(しんじゅん)(がんが広がること)し、骨盤内のリンパ節への転移、さらには離れた臓器への転移(遠隔転移)が見られるようになります。

限局性がんの低リスク群には、PSA監視療法のほか手術療法・放射線療法・ホルモン療法など、さまざまな治療のオプションがあります。

限局性がんの中間リスク群および高リスク群に対しては、手術療法と放射線療法が中心です。ただし、放射線療法を行う場合、放射線療法単独よりもホルモン療法を併用したほうが生化学的再発率や遠隔転移発症率が低いとされています。これらのリスク群の患者さんにおいては各治療を組み合わせることも必要です。

局所進行がんでは今のところ放射線療法とホルモン療法の併用療法が標準的な治療法とされています。しかし、症例によっては局所進行がんでも手術療法が選択肢の1つとなりえます。

骨盤内のリンパ節への転移が見られる症例では、単独の治療手段では進行を抑えることが難しく、複数の治療法を組み合わせた集学的治療が必要です。

他臓器への遠隔転移がある場合は、ホルモン療法が標準的な初期治療となります。前立腺がんの進行はアンドロゲンという男性ホルモンの影響を受けています。ホルモン療法は精巣や副腎からのアンドロゲンの分泌を抑え、そのはたらきを妨げることによって、前立腺がんの増殖を抑える治療法です。

前立腺がんは、早期発見・治療が肝要です。

前立腺がんの検査として用いられるPSA検査は、前立腺がんの検診の1つとして多くの自治体で50歳以上の方を対象に実施されています。しかし、50歳未満の時点でのPSAの基礎値が将来の前立腺がん発症リスクの予測因子となることが報告されており、検査を希望される方は人間ドックなどで40歳代のうちにPSA検診を受診することが望ましいでしょう。

一般的に多くの検診で用いられるPSAの基準値は、4.0ng/mL以下が正常とされています。

年齢階層別PSA基準値として、

50~64歳:0.0~3.0ng/mL

65~69歳:0.0~3.5ng/mL

70歳以上:0.0~4.0ng/mL

とする検診も行われています。

日本では前立腺がんを早期のうちに見つけるためにPSA検診を実施してきました。横須賀市でも2001年からPSA検診を導入しており、現在も多くの自治体でPSA検診を含む前立腺がん検診を行っています。

横須賀市におけるPSA検診の意義を検証するため、市のPSA検診を受けたことから前立腺がんと診断された患者さんと、それ以外をきっかけに診断された患者さんの2群を比較した研究が行われました。その結果、前立腺がんの診断において統計学的に明らかな有意差があったことが報告されています。このことから、横須賀市ではPSA検診が前立腺がん死亡率の低下に役立っているといえます。

しかし、検診の受診率が10%に満たないという問題があり、本当の意味でのPSA検診の有効性はまだ分からないという面もあります。また、治療の対象とならない方がPSA検査によって見つかり、不必要な治療につながる可能性も否定できません。

前立腺がんとして治療の対象とすべき方たちなのか、それとも治療しなくても余命に対して問題がない方たちなのか、それは現在私たちが持っている手段では診断することが難しいといえます。その点が前立腺がん診療の難しいところでもあります。

しかし、PSA検診の結果、早期がんだけではなく、がんが進行してしまった状態で見つかる方が相当数いらっしゃることも事実です。そういった患者さんたちをどのように救済していくかということが、大きな課題です。

ですから、PSA検診のあり方や有効性については議論の分かれるところではありますが、泌尿器科学会としてはPSA検診を推進する立場を取っていますし、私自身もそうすべきであると考えています。

私たち泌尿器科医としては、前立腺がんが進行した状態で寿命が短くなってしまうということをなんとか食い止めたいと考えています。今はよい治療薬も出てきていますし、手術の適応にならない患者さんに対しても、さまざまな治療法をうまく組み合わせることで治療効果を上げることができるようになりました。

しかし、できることならば、かなり進行してしまった超高リスクの状態でがんが見つかる患者さんをその前の段階で見つけ、なんとかしてそこで食い止めたいという思いがあります。それがこれからの前立腺がん診療の課題であり、検診をどのように役立てていくのかという意味でも重要なポイントであると考えています。
 

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