原発性胆汁性肝硬変は、英語表記であるPrimary Biliary Cirrhosisの頭文字をとってPBCと呼ばれています。患者数は、全国に約5~6万人と推定されていて、難病に指定されている自己免疫疾患です。病名に肝硬変とついていますが、多くの場合肝硬変にまで至ることはなく、一部の患者さんで進行が進んだ場合、肝硬変へと移行します。福岡山王病院で難病治療に取り組む石橋大海先生にPBCにおける肝移植の現状についてお話を伺いました。
PBCは、症状のない「無症候性」と、症状を呈する「症候性」の二つのタイプに分類され、「無症候性」から「症候性」へと進みます。PBCと診断された患者さんの7~8割は自覚症状がない無症候性タイプで、診断後も無症状のまま生活されている方が少なくありません。
またPBCは、その進行の度合いによって、長い期間の無症候期を経て徐々に症候期に進行する「緩徐進行型」と、黄疸が現れることなく食道静脈瘤が比較的早くに出現する「門脈圧亢進症先行型」、早期に黄疸が出現して肝不全に至る「黄疸肝不全型」の3つのタイプに分けられます。肝不全型は比較的若い方に多くみられる傾向があって、進行が早いのも特徴です。
PBCと診断されると、ほとんどの患者さんにウルソデオキシコール酸(UDCA : ursodeoxycholic acid)という薬剤が第一選択薬として投与され、多くの患者さんがこのUDCAに有効性を示します。反応がみられない場合はベザフィブラートという薬が投与されます。しかし、それでも効果がなく、肝硬変へと進行し、総ビリルビン値の持続的な上昇、肝硬変による難治性の胸腹水や肝性脳症、食道胃静脈破裂を繰り返すといった場合には、肝移植が考慮されることになります。
肝臓移植を行う時期については、患者さんのQOLと予後予測(病気や治療の見通しの予測)などによって判断されます。予後を判断するものとしては、アメリカのメイヨークリニックで使われている「メイヨーモデル」と呼ばれるものが使用されます。日本の肝移植適応研究会が作成したモデルも使われています。メイヨーモデルで、予後予測が5年とか1年といった場合に肝臓移植が検討されます。
ただ、移植といっても、日本においては、まだ脳死移植がなかなかできない現状がありますから、どうしても生体肝移植ということになります。生体肝移植というのは、健康な方のからだにメスを入れて肝臓の一部を提供してもらう治療法です。多くの場合、血縁者からということになりますが、そうなると生体肝臓を提供する方の負担も当然出てきますので、必ず行われるわけでもありません。
提供者については、三親等までが原則ですので、通常は、夫婦、あるいは親や子どもになります。とはいっても、PBCの発病年齢が高いということもあるので、子どもさんが提供することが現実的には多いようです。
日本肝移植研究会の肝移植登録報告によると、日本では 2014年末までに7,937件の生体肝移植が行われています。そのうちPBCの患者さんに対する生体肝移植は666例でした。移植後の生存率に関しては、1年生存率81.9%、3年生存率79.4%、5年生存率77.7%、10年生存率72.5%と比較的治療成績は良好です(日本肝移植研究会の報告[『移 植』50巻, 2・3号、2015年]による)。
国際医療福祉大学 名誉教授
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