概要
後腹膜腫瘍とは、胃や腸、肝臓などのおなかの臓器を包む膜である腹膜の後ろ側の空間(後腹膜腔)に発生する腫瘍の総称です。“後腹膜腔”と呼ばれるこの空間には、腎臓、尿管、膀胱、副腎などのさまざまな臓器が存在します。しかし、後腹膜腫瘍は後腹膜腔内のこれらの臓器以外の組織から発生するものを指します。このため、“後腹膜腫瘍”自体がひとつの病名というわけではなく、さまざまなタイプの腫瘍が含まれます。
後腹膜肉腫は後腹膜腔の筋肉や脂肪、血管や神経などの軟部組織から発生する悪性腫瘍(軟部肉腫)であり、脂肪肉腫や平滑筋肉腫が有名です。またこれ以外にも、悪性リンパ腫や胚細胞腫瘍などの“悪性”腫瘍や、神経鞘腫や脂肪腫などの“良性”腫瘍などがあります。
後腹膜腫瘍は比較的まれな病気ですが、早期段階では症状が現れないことも多く、進行した状態で発見されるケースも珍しくありません。悪性の場合は、周囲の重要な臓器などにダメージを与えながら大きくなったり、ほかの部位に転移を引き起こしたりするため重篤な状態になるケースもあります。
原因
後腹膜腫瘍は、後腹膜腔の筋肉、脂肪、血管などの組織ががん化したり、異常増殖したりすることによって引き起こされる病気です。しかし、どのようなメカニズムで組織のがん化や異常増殖が引き起こされるのか、明確には解明されていません。
症状
後腹膜腫瘍は早期の段階では症状が現れないことが多いとされています。しかし、進行して腫瘍が大きくなると周囲の臓器を圧迫するようになります。そのため胃や腸を圧迫されることによる腹痛・吐き気・嘔吐・食欲低下・便秘のほか、尿管や膀胱を圧迫されることによる尿閉(尿が出にくくなる)・頻尿、神経を圧迫されることによる下肢のしびれや痛みなどの症状が引き起こされます。また、非常に大きくなるタイプの腫瘍では、おなかや腰、背中にしこりが触れるようになることも少なくありません。さらに、悪性の場合には肝臓や肺などに転移を引き起こすケースも報告されています。
一方で、悪性リンパ腫など腫瘍のタイプによっては発熱や寝汗、体重減少など特徴的な症状が現れるのも特徴の1つです。
検査・診断
後腹膜腫瘍に対しては次のような検査が行われます。
画像検査
腫瘍の位置、大きさ、周辺臓器への影響、転移の有無などを調べるための検査です。主にCT検査やMRI検査が行われます。全身の転移の有無をより詳細に調べるためにPET検査やシンチグラム検査などを行うことも少なくありません。
また、初診時には短時間で簡便に腫瘍の有無などを大まかに観察できる超音波検査を行うこともあります。
血液検査
腫瘍のタイプによっては、乳酸脱水素酵素(LDH)の上昇、“AFP”や“HCG”などの腫瘍マーカーが血中に検出されるようになるものもあるため、診断の手がかりとして血液検査が行われます。一方で、肉腫の場合には特異的なマーカーはありません。
また、貧血や発熱などの症状を引き起こす腫瘍もあるため、炎症や貧血の有無を調べる目的で一般的な検査項目も調べられます。
病理検査
後腹膜腫瘍の確定診断を下すために行われる検査です。また、腫瘍のタイプによって効果のある抗がん剤の種類や放射線治療なども異なるため、治療方針を決定するうえでも重要です。
検査としては、治療開始前に皮膚から腫瘍にめがけて針を刺したり、腹腔鏡などを挿入したりして腫瘍の組織の一部を採取し(生検)、顕微鏡で詳しい観察が行われる場合と、手術により摘出された腫瘍を用いて検査を行う場合とがあります。
治療
後腹膜腫瘍の治療は、基本的に手術による切除が行われます。良性タイプの場合には周囲の組織や臓器への影響が少ないためスムーズに切除することが可能です。しかし悪性タイプの場合は周囲に癒着やダメージを引き起こすことも少なくありません。このため、腎臓や尿管などの臓器を同時に摘出しなければならないケースもあります。また大きな血管を摘出しなければならない場合は人工血管を埋め込む手術も必要となるなど、大がかりな手術になる可能性があります。
一方で、すでに他部位への転移を引き起こしている場合や全身状態が悪い場合など手術ができないケースでは、抗がん剤治療や粒子線治療を含む放射線治療が行われることも少なくありません。しかし、腫瘍のタイプによって抗がん剤や放射線療法の効果は異なり、適切な治療がないケースもあります。
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