
蕁麻疹の患者さんの中には、治療を続けているものの症状が改善せず悩みを抱えている方も珍しくありません。しかし近年は治療が進歩し、なかなか治らない蕁麻疹が改善するケースも増えてきています。
昭和大学医学部皮膚科学講座 主任教授の猪又 直子先生は「新しい薬も登場しているので、諦めずに治療を受けてほしい」とおっしゃいます。今回は猪又先生に、原因の分からない発疹やかゆみを繰り返す “慢性特発性蕁麻疹(CSU)”の特徴や治療、よりよい改善のために心がけてほしいことなどについてお話を伺いました。
蕁麻疹は赤く腫れた発疹が現れ、強いかゆみを伴うことの多い皮膚の病気です。この発疹は一見すると虫刺されのように見えますが、時間とともに大きくなって地図のような形になったり、体中に広がったりすることがあります。症状は、24時間以内に消えるのが一般的です。また、疲れがたまってきたり、食事や入浴で体温が上昇したりする夕方から夜に症状が悪化しやすいという特徴があります。
蕁麻疹が起こる仕組みには、皮膚の中にある“マスト細胞(肥満細胞)”が関連しています。何らかの刺激によってマスト細胞内の“顆粒物質”という物質が放出されると、血管が広がって赤みが出たり、神経を刺激してかゆみが生じたりします。この顆粒物質の中でも、特に有名なものがヒスタミンです。
蕁麻疹には急性と慢性があり、発疹が体のどこかに現れては消えるという状態を繰り返す期間が6週間以内であれば急性蕁麻疹、6週間を超えた場合は慢性蕁麻疹と呼ばれます。また、特定の食品など原因が特定できる場合もありますが、原因が特定できない場合は“特発性”と呼ばれます。
今回の記事で取り上げる慢性特発性蕁麻疹(CSU)とは、6週間以上慢性的に繰り返し、かつ明確な原因が分からない蕁麻疹のことを指します。
慢性蕁麻疹の患者さんの中には、原因を突き止めたいという思いで医療機関を受診される方も多いでしょう。しかし慢性蕁麻疹の原因を特定できる例はごく一部で、さまざまな検査を行っても原因が分からないことが多いのが現状です。せっかく検査をしても徒労に終わってしまう例も珍しくありません。
もちろん何かしらの原因があって蕁麻疹の症状が現れるのですが、多くの場合、原因は1つではなく複数の要因が重なり合って発症すると考えられます。
しかし、原因を特定できないからといって治らないわけではありません。適切な治療を行うことで症状が改善する例もあります。原因を見つけて対処することも重要ですが、慢性の蕁麻疹については原因の特定にこだわりすぎず、発想を切り替えて症状を改善するための治療に取り組んでほしいと思います。
慢性特発性蕁麻疹の最終的な治療目標は“薬を使用しなくても蕁麻疹が出ない状態”にすることです。そのための中間ステップとして、まずは“薬によって症状が抑えられる状態”を目指します。このように、2段階の治療目標があると考えていただくとよいでしょう。
症状の強さにかかわらず、初回治療では抗ヒスタミン薬という飲み薬を使用するのが基本です。抗ヒスタミン薬は昔からあり、以前の抗ヒスタミン薬は副作用として眠気が出たり、集中力が低下したりすることがありましたが、現在では副作用が改善された“非鎮静性(第2世代)”の抗ヒスタミン薬が第一選択となっています。
抗ヒスタミン薬の内服で蕁麻疹の症状が出なくなった場合、一定期間服用を続けながら徐々に薬の量を減らしていきます。症状が消失しても自己判断で治療をやめることなく、医師の指示どおりに内服を続けることが重要です。
1〜 2週間抗ヒスタミン薬を服用しても十分な効果がみられない場合には、抗ヒスタミン薬を増量したり、別の抗ヒスタミン薬に切り替えたりします。また、抗ヒスタミン薬と組み合わせてH2拮抗薬、抗ロイコトリエン薬などの補助的な飲み薬を使用することもあります。これらの補助的な治療薬には、蕁麻疹の症状を引き起こす体内の物質のはたらきを抑制する効果が期待できます。
それでも症状をコントロールできない場合や、症状が強く日常生活に支障をきたしている場合は、ステロイドやシクロスポリン*の飲み薬、生物学的製剤の使用を検討することがあります。
*シクロスポリン:T細胞の活性を抑える免疫抑制薬の1つで、蕁麻疹に対する保険適用は未承認。
生物学的製剤は、遺伝子組換えや細胞培養などの技術を活用し、生物が産生するタンパク質から精製された薬です。蕁麻疹の症状を引き起こす物質をターゲットとして、そのはたらきを抑制する効果が期待できます。注射により投与し、投与頻度は薬の種類によりますが2〜4週間に一回ほどです。
生物学的製剤が登場してから、抗ヒスタミン薬で症状を抑えられず治療の選択肢がないと諦めていた患者さんでも、症状の改善が期待できるようになっています。かゆみなどのつらい症状や、いつ症状が現れるか分からない不安から開放され、蕁麻疹を心配せずに旅行やイベントを楽しめるようになる可能性があるのは大きなメリットでしょう。
高い効果が見込めますが、ほかの治療薬よりも高額なので患者さんの希望や病状を考慮して、使用については慎重に判断します。なお、注射を打った部位の痛み・赤みや、頻度はまれですがアナフィラキシーの症状が出ることがありますので、初回の注射の後はしばらく医療機関内にとどまっていただいて、体調に変化がないか確認するのが一般的です。
蕁麻疹の発症メカニズムにはマスト細胞が産生するヒスタミンなどの顆粒物質が関連しているとお話ししましたが、マスト細胞はヒスタミンだけでなくサイトカインという体内の炎症に関わる物質も産生します。
このサイトカインによる炎症を“2型炎症”と呼び、蕁麻疹の症状を強くする原因の1つと考えられています。近年ではこの2型炎症を抑えられる生物学的製剤が登場し、2型炎症による蕁麻疹の発疹やかゆみを改善できるようになりました。アトピー性皮膚炎や喘息、鼻茸を伴う副鼻腔炎など、蕁麻疹に加えて2型炎症が関わるほかの病気がある方にも適した薬だと考えています。
また、慢性特発性蕁麻疹を引き起こす物質の1つである血液中のIgEを抑制する薬を使用することもあります。特にIgEの値が比較的高めの患者さんに効果が期待できると考えられます。
慢性特発性蕁麻疹は症状が現れたり消えたりを繰り返す病気なので、診察の際に実際の症状を見せられない場合も多くあります。患者さんには、どのような症状が出たのか医師にできる限り正確に伝えるよう心がけてほしいと思います。
発疹が出た範囲や形などは口頭での説明に加えて、写真を撮ってお持ちいただくとよいでしょう。また、症状が悪化するタイミングも重要です。蕁麻疹の特徴や普段の経過を整理して伝えていただくと、治療選択の際に役立ちます。
治療に関するご希望も、ぜひ率直にお伝えください。たとえば抗ヒスタミン薬にはさまざまな種類があり、それぞれ服用の回数や副作用の強さが異なります。「1日1回の服用ですむ薬がよい」「眠くなりにくい薬がよい」など、重視するポイントを伝えましょう。
治療を続けやすくするためには、ライフスタイルに合った薬を選択することも重要です。自動車を運転するかどうか、夜はきちんと眠れているかなど、生活の背景や困り事をぜひ教えていただきたいと思います。
一般的に、医師の指示どおりに抗ヒスタミン薬を服用してから2週間経っても症状が改善しない場合は、治療薬を変更したほうがよいと考えられます。病状が変化している実感がない場合や、あまりにも症状が重く日常生活に支障をきたしているような場合は、遠慮せずに主治医に相談しましょう。
その際には、症状や発疹の様子を具体的に伝えることが重要です。言葉だけでは伝わりづらい場合もあるため、症状の出ている部位を写真で見せていただくか、製薬会社などの信頼できる情報元が発行している指標と自分の症状を比較してお話しいただいたりするとよいでしょう。
近年では生物学的製剤をはじめとした蕁麻疹の新薬が登場し、それまでの治療で症状が改善せず患者さん本人も半ば諦めてしまっているような場合でも効果がみられる例があります。
実際に、10年以上にわたってさまざまな治療を行っても治らなかった患者さんの症状が、生物学的製剤によって改善したことがありました。その方は夜も眠れないようなかゆみに悩まされていましたが、症状が和らいだことで普通の日常生活が送れるようになり、ファッションを楽しむなど精神的にもかなり前向きになったようです。
もしも抗ヒスタミン薬を内服しても思うように効果がみられず悩んでいて、生物学的製剤に興味があるという場合は、ぜひ専門の医師に相談してみてください。ほかの薬より治療費は高額になるため、全ての方に生物学的製剤をおすすめするわけではありませんが、今まで受けた治療内容とともに、興味を持っていることをお伝えいただくとよいでしょう。
お話ししたように慢性特発性蕁麻疹の治療は以前よりも進歩しており、新薬が登場するなど治療選択肢が増えてきています。過去に蕁麻疹で受診したことのある方にも、以前とは別の治療選択肢がご提示できるかもしれませんので、まずは専門の医師がいる医療機関でご相談ください。
新薬によって蕁麻疹のつらい症状から解放される患者さんも増えてきていると感じています。ぜひ諦めずに治療を受けていただきたいと思います。
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