淋菌感染症とは、性行為等により淋菌に感染した際におきる性感染症のひとつです。厚生労働省によると2014年にあった淋菌感染症患者9805件の報告のうち、男性では7710件の報告があったのに対し女性は2095件と、感染者数には明らかな差が生じています。
性器クラミジアに次いで感染者が多いと言われている淋菌感染症の潜伏期間などについて、親身な対応と豊富な経験や知識をいかした診療に定評のある尾上泰彦先生に伺いました。
淋菌感染症の原因となる淋菌とはナイセリア属のグラム陰性双球菌のことです。このナイセリア属は11種あり、そのうち病原性のものは淋菌と髄膜炎菌のみです。ナイセリア属の菌には、粘膜から離れると数時間で感染力を失うほか、日光や温湿度の変化などにより死滅してしまうという特徴があります。
性交渉などにより男性が淋菌に感染すると、2日から7日ほどの潜伏期間を経た後に症状が出始めます。このとき、排尿時に痛みを感じたり、尿道から白色もしくは黄色の膿が出て下着を汚すほか、尿道の出口が赤く腫れあがるといった比較的激しい症状があらわれます。
感染から1週間くらいでこれらの症状が出るため、男性の淋菌感染症は早い段階で診断・治療を行うことができます。
しかし男性の淋菌感染者のうち約5%の人には、痛みや膿が出るといった自覚症状が出ません。感染に気がつかないでいると、尿道の奥のほうまで進み淋菌性急性前立腺炎になり高熱を出したり排尿ができなくなり入院をする可能性があります。さらに症状が進んでしまうと淋菌性精巣上体炎を引き起こし、男性不妊症の原因となる場合もあります。
実際にあったケースを以下に何点かあげてみましょう。
年齢:39歳
性別:男性
主訴:マスターベーション中に血が出てきたが、すぐにティッシュで押さえたら止まった
診察時に血は完全に止まっていたものの、尿道からわずかに分泌物が出ていました。この分泌液を顕微鏡で観察してみたところ、多核白血球にとりこまれた双球菌が確認できたので淋菌性尿道炎と診断し、治療を開始しました。耐性菌の問題から現在では淋菌感染症の治療は注射薬で行うのが主流となっています。
今回の尿道からの出血は、尿道粘膜に生じていた炎症にマスターベーションという機械的刺激がかかったことが原因と考えられます。
年齢:26歳
性別:男性
主訴:尿道から黄色い膿が出て、排尿時に痛みを感じる
朝に症状があらわれ受診。彼はMSM(男性間性交渉者のこと。Men who have sex with men)でしたがこの2ヶ月ほどはアナルセックスをしておらず、前回の性交時もオーラルのみということでした。念のために咽頭もクラミジアとあわせて検査してみると陽性であり、この場合は性器と咽頭の両方の淋菌感染という診断をして治療を行いました。
1週間に彼はパートナーを同伴し再診してきました。彼自身は治療翌日には排尿時の痛みがなくなったのですが、このパートナーの方も同じような症状が出たというので2人で受診することにしたそうです。このパートナーの方も検査結果は陽性で、治療を行いました。
同じ性感染症であっても女性の方がかかりにくい、というわけではありません。
淋菌やクラミジアは子宮腟部や頸管に存在する円柱上皮細胞に好んで住み着くと考えられています。そのため、女性が淋菌に感染していても顕著な症状が出ません。女性が淋菌感染症に感染したとしても、潜伏期間や症状にまったく気がつかないケースが多くみられます。そのため、報告数値上は感染者が少なくなっているのです。
私がかつて診察したケースに以下のようなものがありました。
年齢:23歳
性別:女性
主訴:排尿時にヒリヒリと痛む、膿のようなものが尿道口から出た
陰部を診察してみたところ尿道口発赤、さらに尿道口から黄色の膿が排出されており、その採集した膿から淋菌様の菌体が顕微鏡検査で観察されたため、淋菌性尿道炎と診断しました。
彼女によると同棲しているパートナーにも同様の症状が出ているとのことで、後日診察してみると淋菌性尿道炎の症状を呈していました。性風俗店に通っているとのことでしたので、そこで感染したのではないかと推測されます。
年齢:65歳
性別:女性
主訴:帯下(たいげ。おりもののこと)
帯下の違和感に気がつき受診。子宮頸管・腟分泌物の検査(顕微鏡検査、SDA法)をおこなったところ、子宮頸管から膿性の分泌物が認められました。年齢を重ねるにつれ淋菌に感染しやすい円柱上皮細胞が少なくなるため、比較的珍しいケースと言えるでしょう。
感染原因を探るべく問診を続けると、このご夫婦は比較的ご高齢でありながら週に1度程度の性交渉を続けられているとのことでした。
プライベートケアクリニック東京 院長
尾上 泰彦 先生の所属医療機関
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