概要
淋菌性子宮頸管炎・腟炎は、淋菌による性器感染症です。それぞれ子宮頸管と腟に淋菌感染によって炎症が生じる病気です。淋菌自体は男性にも感染しますが、淋菌性子宮頸管炎・腟炎は女性に限った病名となります。性交渉に伴い感染が広がるため、性交渉を行う女性全てに発症の可能性がありますが、多数のセックスパートナーがいる場合やコンドームの不使用は感染のリスクとなります。
日本国内での発生報告によると、クラミジアに次いで2番目に多くみられる性感染症であり、2002年をピークに減少傾向となっています。20歳代での発症がもっとも多く、妊娠中に感染し未治療のまま出産に至ると新生児結膜炎を引き起こすこともあります。
なお、性器淋菌感染症をもつ方の10~30%に咽頭から淋菌が検出されるという研究もあり、オーラルセックスによる感染拡大が懸念されています。淋菌感染症の方は、20~30%でクラミジアも合併感染しているといわれています。
診断を受けずに未治療のまま放置すると、骨盤内炎症性疾患、異所性妊娠(子宮外妊娠)、流産などにつながることがあります。また、男女ともに不妊の原因となることもあります。
原因
淋菌(Neisseria gonorrhoeae)の性器感染が原因です。淋菌を保有する相手との性交渉時に、精液、腟分泌液、血液、唾液などの体液を介して感染する可能性があり、1回の性交渉での感染率は30%程度です。淋菌は弱い菌であり、感染者の粘膜から離れると数時間で感染性がなくなるといわれています。また、日光、乾燥や温度変化、消毒剤に弱く、これらで容易に死滅します。このため、性交渉やオーラルセックス以外で感染することはまれと考えられています。
性交渉の際にもっとも粘膜が触れ合うことを考えれば、通常は淋菌性腟炎が発生し、続けて子宮頸管まで進展して淋菌性子宮頚管炎に至ると推定されますが、両部位へ同時に感染することも十分に考えられます。
症状
2~7日間の潜伏期間を経て発症します。男性の場合には痛みなどの症状を感じることが多いのですが、女性の場合には症状に乏しいことが多いとされています。特に淋菌性腟炎の状態だけでは症状がほとんどなく、淋菌性子宮頸管炎が生じてから、おりものの増加や軽度の異臭、性交時出血(粘膜の丈夫さが低下することによる)などの症状が引き起こされます。淋菌性子宮頸管炎・腟炎では下腹部痛などの症状はまれですが、進展して子宮内膜炎、付属器炎、骨盤内炎症性疾患、肝周囲炎になると下腹痛や右上腹部痛などを伴います。
また、未治療のまま長期間放置しておくと、不妊症の原因となることがあります。これは、淋菌感染が卵管周囲に進展し、卵管周囲に癒着(ゆちゃく)を生じることなどが理由と考えられています。
検査・診断
病原菌である淋菌を直接確認することで確定診断となります。一般的に、淋菌性子宮頸管炎・腟炎は同時に発生していると考え、子宮頸管を専用のやわらかい綿棒で擦ることにより、粘液を採取します。この検体(採取した粘液)から、グラム染色による検鏡、分離培養法、核酸増幅法などの方法を利用して淋菌の存在を確認します。
咽頭感染を診断するためには、同様にして咽頭の粘膜を専用器具で擦ることにより採取し、グラム染色による検鏡、分離培養法、核酸増幅法などを行って確認します。また、検査法によっては咽頭うがい液から淋菌の検出が可能な場合もあります。
前述したようにクラミジアの合併感染もまれではないため、クラミジアも同時に検査することが推奨されます。検査方法は淋菌と同様です。
治療
抗菌薬による治療が必要となります。淋菌感染に対しては、内服治療や静脈点滴治療が行われます。症状がほとんどなく、子宮頸管炎・腟炎に留まっていれば単回投与(1回のみの内服もしくは静注)で治療可能な場合もありますが、骨盤内まで進展していたり、そのために下腹痛などの症状が強かったりする場合には数日間の治療が必要となることがあります。
近年では淋菌の薬剤耐性化が世界的な問題となっており、徐々に耐性を持つ薬剤の種類が増加してきているため、治療後は有効であったかの効果判定を行い、治療が不十分な場合には薬剤感受性検査を実施してより有効な抗菌薬を使用することになります。
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