こどもの脳はまだ発達の途中です。そのため、風邪をひいて熱が出るだけで脳の正常な活動が一時的に妨げられ、けいれんや脱力などの発作が生じます。生後6か月から5歳までのこどもに見られることが多いこの病気を「熱性けいれん」といいます。
症状は短時間で消失し、「熱」自体が原因であるため、特別な治療も必要ありません。またその後の発達にも悪影響を及ぼす心配はありません。
一般的な熱性けいれんの発作は、38℃以上の熱が出てから24時間以内に現れます。意識がなくなり、手足の関節をビクンビクンと曲げ伸ばしたり、手足をこわばらせて震えたりするけいれんが見られます。左右の手足は同じ動きをすることが、熱性けいれんの特徴です。
けいれん以外の発作として白目をむいたり、口から泡を吹いたり、呼吸しないで唇の血色が悪くなる「チアノーゼ」という症状が見られることがあります。
見ている家族をとても不安な気持ちにさせるこれらの発作ですが、治療をしなくても15分以内に自然におさまっていきます。
熱性けいれんが珍しい病気かというと、決してそうではありません。日本人の約10人に1人が熱性けいれんを経験しています。そして大抵の人は一度きりの発作で、その後熱を出してもけいれんすることはありません。
再発率は15%程度といわれていますが、下記の条件に該当する場合は,通常に比べて2倍程度再発をしやすいので注意が必要です。
残念ながら熱性けいれんが起きるメカニズムはまだ解明されていませんが、いくつかの仮説があります。
脳は神経のネットワークで構成されていて、体を動かしたり、物を考えたりするために必要な電気回路がいくつもあります。電気回路を正常に動かすためには、回路を動かそうとする“プラス”の神経と、抑えようとする“マイナス”の神経のバランスが重要です。
風邪をひいた際に放出される炎症物質や熱そのものによってそのバランスが乱れ、電気回路が異常に興奮してしまうため、けいれんが起こるのではないかといわれています。
こどもにはけいれんを起こす病気がたくさんあります。
「熱」自体が原因の熱性けいれんであれば、大抵の場合は左右の手足の動きに違いがない全身のけいれんであり、短時間で自然によくなります。また一日のうちに何度も発作を起こすことはありません。このように熱性けいれんの典型的な発作であれば、緊急で検査や治療をする必要はほとんどありません。
しかし、けいれん中やけいれん後に手足の動きが左右で違ったり、けいれん中に意識があったりした場合は、熱だけが原因ではないかもしれません。症状が長時間続いたり、けいれんを一日に何度も繰り返したりした場合も、他に重症な病気が隠れていないかどうか充分に調べる必要があります。
発熱とけいれんが同時に起きる病気で特に注意したいのが、「脳炎」や「脳症」「髄膜炎(脳を包んでいる膜に起きる感染症)」といった命にかかわる病気です。これらの病気だと分かり次第、緊急で治療を開始します。
その他、熱が上がると発作が誘発されるタイプの「てんかん」もあり、発作を繰り返さないよう正しく診断することが重要です。また、けいれんで体が震えた結果として体温が上がっている場合もあります。低血糖や体のミネラルのバランスが崩れていたり、以前に頭を怪我した影響が脳に及んでいたりする可能性もあります。
このように、典型的な熱性けいれんとそうでない場合を分けて対応する必要があります。典型的ではない場合は、血液検査の他に、危険な病気の有無を調べるための髄液(脳が浮かんでいる液体)検査やCT、MRIなどの画像の検査をおこなう場合があります。
記事1:麻疹(はしか)とはー特徴的な症状と予防接種の重要性
記事2:こどもが起こす「熱性けいれん」とは?
記事3:熱性けいれんの対処法・予防法:慌てずに様子をみる
記事4:「熱性けいれん」の気になるQ&A
国立成育医療研究センター 器官病態系内科部 消化器科 医員
国立成育医療研究センター 教育センター センター長/臨床研究センター 副センター長/臨床研究教育部長(併任)/血液内科診療部長(併任)
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