甲状腺クリーゼは多臓器不全、心不全などの危険な症状を引き起こし死に至ることもある病気です。バセドウ病をはじめとする甲状腺機能亢進症の患者さんや家族にとっては、予後や後遺症なども気にされるところでしょう。発症実態や診断基準も最近まで明確ではなかったのですが、日本で調査・研究が進みさまざまなことが分かってきています。この研究のリーダーともいえる和歌山県立医科大学内科学第一講座教授 赤水尚史先生に、お話をうかがいました。
「甲状腺クリーゼ全国疫学調査」の二次調査(2009年6月~2010年3月)によれば、甲状腺クリーゼの死亡率は、この病気の疑い例も含めて10.7%です。尚、確実例(282人)のうち11%で、疑い例(74人)が9.5%となっており、患者数から考えると、両方の死亡率に大きな差はないと考えられます。
直接の死因の内訳は多臓器不全がトップで25%。不明(24%)▽心不全(21%)▽呼吸器不全(8%)▽不整脈(8%)▽DIC=全身の血管内で無秩序に血液凝固反応が起こる播種性血管内凝固症候群(5%)▽消化器穿孔(5%)▽低酸素脳障害(2%)▽敗血症(2%)…などと続いています。
生存者のうち26人に後遺症が確認され、心停止により脳へ酸素供給が途絶えたために起こった蘇生後脳症(6人)▽長期間、筋肉を使わなかったために起こった廃用性委縮(5人)▽心房細動(4人)▽脳血管障害(4人)▽腎機能障害(2人)▽甲状腺機能低下(2人)▽精神障害(2人)▽胃潰瘍(1人)でした。
予後については高齢者の方が悪いと予測していたのですが、65歳以上と以下を比較しても優位な差は認められませんでした。発見のタイミングにもよるのでしょうが、高齢者の方でも適切に対応すれば回復します。
また、それぞれの治療が具体的にどのように行われたのかは、まだ分かっていません。確実例と疑い例の場合は確実例の方が重症度は高いはずなのですが、予後に関しては優位な差は出ませんでした。
予後に関しては、判断の材料がまだ充分ではありません。医師への啓蒙についても課題です。内科(内分泌内科)と救急科(救命・集中治療部)で患者数の推移も明らかに差があるのです。
内科の場合、「甲状腺クリーゼ全国疫学調査」(一次調査)では2004年の患者数が60人だったのが診断基準(第1版)公開後の2008年は135人まで増えています。ところが、救急科は2004年が30人で2008年が34人で両科の差は歴然です。そういう意味でも内科への啓蒙はうまく進んでいると思いますので、さらに救急科にも広げたいと考えています。救急科でも甲状腺クリーゼへの認識は変わり、現在では(確認される患者数は)増えていると考えていますが、データを取っていないので詳しくは分かりません。
2016年には「診療ガイドライン」を作成して、まず英文の雑誌に発表したいと考えています。その後、日本版を作成して現場での活用を進めて行く予定です。そのうえで、そのガイドラインに沿った治療法についての検証をします。これまでは結果にもとづいた“後ろ向き”の調査だったのですが、さらに予防にも役立てる“前向き”の試みとなります。
医療法人神甲会 隈病院 院長
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