インタビュー

男性更年期障害の病院での治療、男性更年期障害になりやすい人と自分でできる対策法

男性更年期障害の病院での治療、男性更年期障害になりやすい人と自分でできる対策法
堀江 重郎 先生

順天堂大学大学院医学研究科 泌尿器外科学 教授

堀江 重郎 先生

この記事の最終更新は2016年06月13日です。

近年、中高年男性の間に増えている「更年期障害」。正式にはLOH(ロー)症候群と呼ばれ、疲れやすい、ほてりや発汗があるといった身体の症状だけでなく、うつ状態に陥ったり引きこもりがちになるなど、社会生活を送るうえで様々な困難が生じます。どのような症状が現れたとき、病院を受診すべきなのでしょうか。また、男性更年期障害の治療は、何科でどの程度の期間をかけて行うものなのでしょうか。本記事では順天堂大学医学部泌尿器科学講座教授で、日本で初めてメンズヘルス外来を開設された経験をお持ちの堀江重郎先生に、男性更年期障害になりやすい人の特徴などを織り交ぜつつお話しいただきました。

男性更年期障害の原因となるテストステロンの減少は、(1)加齢と(2)ストレスにより起こります。また、男性更年期障害の原因のほぼ100%は、社会的な要因が関与して起こるため、「社会的な活動に支障を来している男性」は発症のリスクが高まります。

男性の社会的活動として、最もイメージしやすいものに「仕事」があります。この仕事に関していうと、業務を抱え込み過重労働になっていても、逆に退職して全く社会との繋がりがない状況でも、「社会的活動に支障が出ている」といえます。

また、業務量が適量でも、毎日楽しく働くことができていないという人は注意が必要です。ただし、仕事の調子が悪く、やりがいが見いだせないという方であっても、終業時刻以降が趣味や交際で充実している、いわゆる「5時から男」であれば比較的更年期障害にはなりにくくなります。

趣味や習い事も自己実現のための社会的な活動であり、こういったものを持たない男性が仕事でつまずいてしまったり、職を失ってしまうことが危険なのです。

医学的な話からは逸れてしまいますが、男性の更年期障害が増えた理由のひとつに、社会における「おじさん」の役割が低下したことがあるのではないかと考えます。以前は、勤続年数が長く様々なノウハウを蓄えた中高年男性は、会社内でも非常に重要視され、人材教育にも大いに関わっていました。ところが現在は、若手社員のOTJ(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)も同じ若手が担うようになっています。このような流れを受け、40代や50代といった男性が後進の社員たちをサポートする機会が減ったのではないかと考えます。

男性の更年期障害の症状のうち、初期段階で現れやすい典型的な症状がEDです。具体的には、「夜間勃起」、いわゆる「朝立ち」が2週間に1度もないという場合、EDの可能性も考慮えて医療機関を受診するのがよいでしょう。このほか、下記のような症状が現れている場合は、男性更年期障害の可能性もあります。まずは、セルフチェックをしてみましょう。

  1. 性欲が低下した。
  2. 元気がなくなってきたように感じる。
  3. 体力もしくは持続力が低下した。
  4. 身長が低くなった。
  5. 毎日の楽しみが減ったように感じる。
  6. もの悲しい気分だ または 怒りっぽい。
  7. 勃起力が弱くなった。
  8. 近になり、運動能力が低下したように感じる。
  9. 夕食後にうたた寝することがある。
  10. 最近仕事がうまくいかない。仕事能力が低下したように感じる。

 

→次に該当する方は、男性更年期障害の可能性があるかもしれません。医療機関の受診をおすすめします。

  • 1と7に該当した
  • 3つ以上の項目が該当した
  • 上記のどちらにも該当している

テストステロン値は、お住まいの地域の泌尿器科で測定することができます。

また、男性の更年期障害の「治療」は、近年増えているメンズヘルスに特化した専門外来で治療を受けることができます。

次項以降では、メンズヘルスに特化した外来で実際に行っている治療や、自身が患者さんにアドバイスしていることをご紹介していきす。

日本泌尿器科学会と日本Men’s Health医学会が、「加齢男性性腺機能低下症候群(LOH症候群)の手引き」を作成しています。

この手引きには、テストステロン、遊離テストステロンの年齢別の基準値についての報告をもとに、テストステロン補充(TRT)のフローチャートを定めています。

LOH症候群に対して治療介入を行う基準値は、血中遊離テストステロン値8.5pg/mlです。

尚、国際的には、血中のテストステロン値が300-320 ng/mlを、治療介入の基準値としており、日本とは異なっています。この理由は、欧米人の場合は血中テストステロンが加齢とともに減少していくことに対し、日本人の場合はテストステロン値は変化せずに、遊離テストステロンのみが加齢に伴い低下していくためとされています。ただし、この件については、今後検討が必要です。

テストステロンが著しく減少しており、症状が重い場合には、注射(筋肉注射)や内服薬、外用薬(テストステロンクリーム)を用いてテストステロンを補う「ホルモン補充療法」を行います。

造血作用が亢進するため、ヘモグロビン値が上昇したり、多血症(赤血球の以上増加による疾患)になる可能性があります。

また、頻度は非常に稀ですが、前立腺がんや肝臓のがんが増大したり、顕在化することも、リスクとして考えられます。そのため、前立腺疾患の持病がある方への治療は慎重に行う必要があります。

また、副作用ではありませんが、テストステロン注射薬は筋肉注射ですので、注射時の痛みは皮下注射より大きいというデメリットもあります。

このほか、肘や肩、背中などの部位にニキビ様の皮疹やかゆみが現れたり、むくみを起こすことも考えられます。

ただし、このような副作用を最小限にとどめるために、治療前、治療中には必ず血液検査や尿検査などを行います。

ただし、男性の更年期障害の治療の主となるものは薬ではないと私は考えています。

男性更年期障害の患者さんの特徴のひとつに、良くも悪くも「与えられる」ばかりで、「与える」機会がないことが挙げられます。

「与えられる」ものは、プラスの要素が強いものも、マイナスの要素が強いものも内包します。たとえば、金銭や食事、小言や指示もすべて「与えられる」ものに含まれます。実際に私の患者さんの中にも、中年期という働き盛りの年齢で非常に高い社会的な地位や財産を得て、自らが実現したいことを全て成し遂げてしまい、一見すれば何不自由ない生活を送っていらっしゃる方もいるのです。

こういった方には、ホルモン補充療法を行っても根本的な治療にはならないでしょう。

自己実現できる「何か」を見つけることは難しいものですが、まずは、「与える機会」を喪失していることを医師が伝えなければ、患者さんは更年期障害の根本に気づくことができません。

今、私が患者さんにアドバイスしていることは、ボランティア活動をすることです。

他者に何かを与える活動を行い、相手から感謝されるといった流れの中で、人は自信と存在意義を取り戻していきます。

また、災害ボランティアとして被災地に赴き、生きるか死ぬかといった深刻な問題に直面している方々と接することにも意味があります。衝撃的な体験を通して、会社と家の往復生活の中では非常に大きく思われていたご自身の悩みを小さなものであると感じるようになり、回復していく患者さんもおられます。

男性更年期障害はテストステロンの減少によるものであり、補うことで治まると捉えられがちですが、実は非常に深い問題を孕んでいる疾患なのです。

男性更年期障害の治療中に処方することが多い漢方薬は、補中益気湯や牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)などです。これらの漢方薬は、精巣機能を高め、精巣で作られる男性ホルモンを増やすサポーターとして作用します。

※テストステロンの95%は精巣にて作られます。(残りの5%は副腎より分泌されます。)

食事指導、運動指導も治療の一環として必ず行っています。患者さんには、食事で大切なことは、「何を食べるか」ではなく、「誰と食べるか」が重要であるとお伝えしています。

男性更年期障害の患者さんの大半は、家でお一人で食事をされています。このような習慣から抜け出さなければ、ホルモン補充療法を行っても根本的な解決にはなりません。

独居の方であっても、近所に馴染みの飲食店を作るなど、誰かと食事をとるよう心掛けることが重要です。

男性更年期障害の治療にかかる期間は、およそ1年間です。大きく改善する場合でもしない場合でも、最低1年はかかるものと考えていただくのがよいでしょう。

堀江先生

最後に、日常生活内で行っていただける更年期障害の予防・対策法をお伝えします。

まず、夜寝る前に布団の中などでスマートフォンを使用するといった行為は控えたほうがよいでしょう。テストステロンは、自律神経のうち副交感神経が優位であるときに分泌されますが、スマートフォンなど強い光が発せられる液晶画面を凝視する行為は、寝る前に交感神経を優位にしてしまいます。

また、定期的に運動する習慣をつけることもおすすめします。運動時には交感神経が優位になりますが、その後、スムーズに副交感神経優位へと切り替わるため、ストレスの解消やリフレッシュに繋がります。

このほか、職場の同僚以外の友人を作る、趣味を持つ、習い事をはじめるといった新たな活動でご自身の好奇心を刺激することも、更年期障害を予防するために大いに役立ちます。

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