概要
異常分娩とは、分娩の3要素とされる“娩出力(胎児を押し出す力)”、“産道”、“娩出物(胎児や胎盤)”のいずれかに異常が生じることで、正常に進行しなくなる分娩の総称です。
具体的な例としては、骨盤位(逆子)などの胎位(胎児の向き)異常、微弱陣痛*、分娩時に胎児がうまく回旋することができず骨盤内へ進入できない回旋異常、母体の骨盤より胎児の頭が大きいなどの児頭骨盤不均衡などが挙げられます。
正常分娩とは、妊娠満37週以降~満42週未満の間に自然に陣痛が始まり、胎児の児頭が回旋しながら骨盤内に進入して下降し、腟を通って生まれてくる分娩を指します。
正常な流れの分娩には、分娩の3要素が正常であることが欠かせません。
*微弱陣痛:陣痛が弱い、陣痛が続く時間が短い、または陣痛の間隔が長い、のいずれかに当てはまる状態。
原因
異常分娩の原因は、娩出力の異常と産道の異常、娩出物に起きる異常の大きく3つに分けられます。
娩出力の異常
娩出力とは、分娩時に胎児を押し出そうとする力で、陣痛と意識的な腹圧により成り立ちます。微弱陣痛では子宮の収縮が不十分なために、分娩進行に必要な娩出力が不十分になります。
産道の異常
産道とは胎児の通り道のことで、子宮頸部や腟などの“軟産道”と、骨盤のように骨で構成されている“骨産道”で成り立ちます。
軟産道が硬く、胎児がスムーズに通過できないほど抵抗力が強い場合(軟産道強靱)や、骨盤が小さく胎児が骨盤内へと進んでいけない場合(児頭骨盤不均衡)があります。
娩出物に起きる異常
胎児に下記のような状態がみられる場合は、胎児が姿勢をうまく変えることができず、分娩がスムーズに進まないことがあります。
なお、胎児の頭が下にある正しい胎位(頭位)でも、胎児の肩が引っかかりスムーズに娩出されない場合は異常分娩に分類されます。
このほか、胎児の娩出後に胎盤が出てこない癒着胎盤も娩出物の異常とされています。胎盤を無理に出そうとすると、子宮が裏返しになる子宮内反という重篤な状態になるため注意が必要といわれています。
症状
異常分娩の原因ごとに、母体や赤ちゃんには次のような症状・影響が生じることがあります。
母体への影響
たとえば、微弱陣痛や産道の抵抗力が強いことで分娩が長時間にわたる場合には、母体の全身疲労や子宮筋の疲労が生じることがあります。
また、分娩時に腟が十分広がらないことで腟壁裂傷が生じたり、出産後に子宮筋が十分に収縮しないことで出血が持続する弛緩出血が起きたりすることもあります。
胎児への影響
胎児への影響としては、分娩が長引くことで胎児の状態が悪化し、胎児機能不全という危険な状態に陥ることがあります。胎児機能不全は、胎児が低酸素状態になることで起こります。
異常分娩では、生まれた後の赤ちゃんに呼吸や循環の障害が生じる可能性があるため、状況に応じて正常分娩を中止し、速やかに胎児を出生させるために吸引分娩などの器械分娩や帝王切開などが選択されることがあります。
検査・診断
異常分娩の中には、あらかじめ正常分娩は難しいと予測し、安全な出産に向けて準備を進められるケースも多くあります。たとえば、胎児の体が大きく、母体の骨盤が小さい児頭骨盤不均衡と診断できる場合などが、予測可能な異常分娩に該当します。
異常分娩の可能性を見極めるためには、母体に対する身体診察や超音波検査などを行い、主に以下の項目を確認します。
妊娠中の検査では問題がみられない異常分娩も多くあります。このような場合は、分娩の進行や母体・胎児の状態に応じて、適切な検査を行って緊急帝王切開などを検討する必要があります。
治療
異常分娩では母体と胎児の状態に影響が生じる可能性があるため、分娩前にあらかじめ胎児が腟を通って生まれてくること(経腟分娩)が可能かを評価して、分娩に臨む必要があります。さらに、陣痛に伴うストレスによって分娩中に児の健康状態が悪化して胎児機能不全になることもあります。これらの評価や分娩状況を判断したうえで、以下のような選択肢が検討されます。
帝王切開
妊娠中の検査で安全な分娩が難しいと判断できる場合、予定帝王切開となることがあります。また、経腟分娩がスムーズに進行せず、母体や胎児に影響が及ぶ恐れがある場合には、緊急帝王切開に移行することもあります。
器械分娩
胎児が子宮口付近へと降りてきているものの、微弱陣痛などによって分娩が滞っている場合や、胎児機能不全に陥った場合に器械分娩が選択されることがあります。
器械分娩には、頭部に吸引カップを装着して出産を手助けする吸引分娩と、鉗子と呼ばれる大きなスプーンのような医療器具で胎児の両側頬部を挟み、胎児を娩出させる鉗子分娩があります。
吸引分娩を行うときには、母体のお腹(子宮底部)を圧迫する胎児圧出法を併せて行うこともあります。
会陰切開術
腟の入り口周囲を切開する治療法です。分娩時間が長くなった場合や胎児の頭が大きな場合などは、スムーズな娩出をサポートするために会陰切開術を行うことがあります。会陰切開術には分娩時の裂傷の拡大を予防する効果もあります。
子宮収縮薬の使用
分娩に時間がかかり、疲労によって陣痛が弱くなっている場合などには、子宮収縮薬(陣痛促進剤)を点滴投与して陣痛を強めることがあります。子宮収縮薬を使用するときには、子宮の収縮が強くなりすぎないよう少量の投与から始めます。
また、点滴中は胎児が健康な状態を保っているか、陣痛の間隔や強さに問題がないか、常にモニタリングが行われます。
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