眼瞼下垂とは、目を開いたときにまぶたが下がり、黒目に当たる部分が隠れてしまう状態のことです。加齢性や生まれつきの眼瞼下垂によって、まぶたが重い、見えにくいといった症状が出ている場合、眼瞼下垂症と診断されます。最初はかかりつけの眼科や皮膚科などで発見されることの多い病気ですが、形成外科ではより詳しい診療を行っています。
今回は、眼瞼下垂症の概要や手術について、横浜市立大学附属市民総合医療センター形成外科の廣冨浩一先生にお話を伺いました。
眼瞼下垂症は、上まぶたが下垂して、日常生活で物を見るときに支障をきたす病気です。たとえば「まぶたが重い」「まぶたが下がって見えにくい」などと感じることがあります。
眼瞼下垂の診断においては、下垂している部分の計測値だけでなく、患者さんの症状も診断を行う上での大切な基準になります。
多くの場合、眼瞼下垂症は加齢に伴って現れるため、ご高齢であればどのような方でも、程度の差はあっても眼瞼下垂症がみられる可能性はあります。また、男女どちらが発症しやすいということはありませんが、一般的に女性のほうが長生きであることから、男性よりも女性の患者さんが多い傾向があります。
一方、加齢性の眼瞼下垂以外にも、生まれつきの眼瞼下垂や、別の病気が原因で起こる眼瞼下垂もあります。眼瞼下垂症を診断するためには、別の病気を除外して考えることが必要です。
眼瞼下垂症は、目を開けようとするときに動く筋肉である眼瞼挙筋が機能しない状態や、まぶたの皮膚がたるんで重く被さっている状態などが原因となって起こります。
眼瞼下垂は、主に加齢に伴って生じます。年齢と共に、眼瞼挙筋とまぶたをつなぐ腱膜が緩んでくると、筋肉が動いていてもまぶたにうまく力が伝わらない状態となり、まぶたが下がってきます。このように起こる眼瞼下垂は、加齢性、あるいは腱膜性の眼瞼下垂と呼ばれます。腱膜は、どのような方でも年齢と共に緩んでいく組織であり、基本的に発症を予防することはできません。
生まれつきまぶたが下がっている場合、先天性の眼瞼下垂といいます。まぶたを引っ張り上げる腱膜が生まれつき存在しない、あるいは形成不全がある、眼瞼挙筋が機能しないといったことが原因で発症します。生まれてすぐ、赤ちゃんの目が開いたときに分かる病気であるため、小児科や産婦人科の医師によって気づかれることが多いでしょう。
加齢性や先天性の眼瞼下垂以外にも、さまざまな病気が原因で眼瞼下垂が起こる可能性はあります。たとえば、全身の筋肉が動かなくなったり弱くなったりする重症筋無力症では、手足や顔などの一連の症状のひとつとして、眼瞼下垂が起こることがあります。交感神経に関わる病気であるホルネル症候群の症状のひとつとしても、上まぶたを引き上げる筋肉が障害されるため、眼瞼下垂が起こることがあります。こういった病気が原因で眼瞼下垂が起こっている場合、多くは別の病名で診断されます。
また、ハードコンタクトレンズを長期にわたり使用している方や、まぶたを強くこするクセのある方は、まぶたの組織がもろくなって引き起こされる眼瞼下垂のリスクがあります。まぶたをこすらないようにする、ハードコンタクトレンズの必要以上の装用は控える、といった対応で予防につなげることができます。
まぶたが下がって黒目が隠れるため、ものがうまく見えなくなる、視野が狭くなるといった不便を感じるようになります。また、上まぶたが視野に被さってくることから、常に少しあごを上げた状態でものを見るなど、無理な姿勢をとるようになり、それに付随する筋肉が緊張して肩こりや頭痛が引き起こされることもあります。
先天性の眼瞼下垂について治療するかどうかは、まぶたの下がっている程度によって異なります。ただし、生まれたときからまったく目が開かない状態で過ごすと、視力の発達が妨げられて弱視になる可能性があります。ほとんど目が開かないくらいの重症である場合、通常は小児科や産婦人科の医師に指摘されて眼科を受診することになります。弱視については問題がないものの、まぶたが下がっていて気になるという場合は、形成外科で診療を行います。
眼瞼下垂症の診断では、先にお話したように、症状の現れ方を目視で確認することや、日常生活のどのような場面でどれくらい困るのかという問診、患者さんご自身の訴えを重視します。
それに加えて、カメラで目元を撮影し、目を閉じたときや開けたとき、上や下を見ているときの様子をみて、まぶたが下がっている部分の計測も行います。
ダイナミックMRI検査では、目を開けようとしたときの筋肉の様子など、時間の経過に伴う変化を撮影し、その内容を確認することができます。そのため、適切な治療法を選択するために、手術の前にダイナミックMRI検査を行い筋肉や腱膜の状態を調べることがあります。
たとえば、目を開けようとして力を入れたとき、眼瞼挙筋がふくらんでいるのに目は開かないという場合、腱膜が外れていたり緩んでいたりしてうまく力が伝わらない状態であることが分かります。
筋肉のあるべき部分に何も変化がみられないという場合、筋肉そのものがない、あるいは筋肉を動かす神経が機能していないといったことが分かります。
また、年齢にかかわらず、手術を重ねるごとに瘢痕が増えて手術が難しくなるため、事前に適切な検査や評価を行うことが大切です。
加齢性眼瞼下垂症に合併することの多い皮膚弛緩症では、上まぶたの皮膚が弛緩してまつ毛を超えて下垂することから、余っている皮膚の切除を行います。まつ毛の上を切開する方法、眉毛の下を切開する方法があり、それぞれ傷跡の残る位置が異なります。
二重の方は、元々線があって傷が目立ちにくいことから、二重の線に沿って切開することができます。ただし、二重の幅が変わるため顔の印象に影響が出ることがあります。
一重の方や、より自然な印象にしたい方、余っている皮膚の量が軽度から中等度の方は、眉毛の下を切開することが一般的です。眉毛の下に傷ができても顔の印象には影響が出にくく、また、眉メイクをすれば傷は見えにくくなります。手術後の腫れも少ない方法です。
余っている皮膚の量が非常に多い方は、まつ毛の上を切開する方法を選択します。
眼瞼挙筋前転法は、まぶたの皮膚を切開し、まぶたと筋肉をつなぐ筋膜を糸で固定する手術です。眼瞼挙筋を前のほうに被せて縫い付けることを前転といいます。まぶたの皮膚を切開して眼瞼挙筋を確認し、緩んでいるようであれば、縫い付けて固定します。まぶたと筋肉のつながりが修復されることで、目の開きにくさの改善につながります。
筋膜移植法は、患者さん自身の筋膜をまぶた以外の場所からとってきて移植する方法です。おでこにある前頭筋とまぶたをつなげることで、眉毛を上げたときに連動して目が開くようになります。眼瞼挙筋が機能していない方の場合、まぶたと筋肉のつながりを修復する眼瞼挙筋前転法を行っても効果が得られないため、基本的には筋膜移植法を選択します。
横浜市立大学附属市民総合医療センターでは、足の筋膜を使って行うことが一般的です。太ももの外側にある大腿筋膜を2cm×5cmくらいとり、それを細く短冊状に加工したものを移植します。
なお、大腿筋膜以外の筋膜を用いても差し支えはなく、患者さんのご希望によっては大腿筋膜以外を選択します。たとえば、手首を内側に曲げると現れる長掌筋がある場合は利用することができます。
いずれの手術も、基本的に局所麻酔をかけて行います。患者さんに意識がある状態では、座って目を開けたり閉じたりしていただいて、バランスを見ながら少しずつ調整しやすいためです。子どもは局所麻酔下での目の周りの手術は困難なので、基本的に全身麻酔で行います。
一般的な手術時間は、両目の手術でおよそ1時間~2時間程度です。
また、いずれも保険内で実施可能な治療法です。受診時にかかる実際の費用は、術式、入院の有無、麻酔方法などによって異なります。自由診療の手術をご希望の場合には、担当の医師にご相談ください。
眼瞼下垂症の手術ではまぶたを開けやすくする手術を行うため、手術後は、目を閉じても閉じきらない兎眼や、目の乾燥に伴う目や視力の異常であるドライアイなどが起こる可能性があります。兎眼やドライアイが進行すると、角膜障害*を引き起こす恐れがあるため、眼瞼下垂症の手術後に起こり得る症状の中でも、兎眼やドライアイには十分に気を付けて手術を行っています。
角膜障害…目の角膜の内皮の病気や、角膜の上皮の病気のこと。
固定していた糸が技術的な問題で外れてしまうことや、固定する挙筋腱膜という組織がもろくなっていて手術をしても裂けてしまうことなどにより、眼瞼下垂症は再発(後戻り)する可能性があります。
筋膜が脆弱な方の場合は、筋膜を修復する眼瞼挙筋前転法では再々発する可能性が高く、その場合は、まぶたと眉毛を連動させる筋膜移植術を検討します。
また、一般的に手術をしてから半年程度の期間において一定の状態を保つことができれば、ほとんど再発することなく経過します。なお、手術から長期間が経過すると、年齢と共にまぶたはしだいに下がっていきます。
眼瞼下垂でまぶたの筋肉が緩んでいることから、手術前は力を入れて目を開けていた方でも、手術後には軽い力で目が開いてしまうようになります。そのため、手術する前と比べて目を閉じにくく、目の表面が乾燥しやすくなります。数日から1週間ほどかけて余計な緊張はとれていきますが、それまでは、目の乾きを防ぐように対応することが必要です。方法としては、
などが挙げられます。
手術後はまぶたが腫れますが、出血のリスクがないことを確認できれば、ほとんど日常に近い生活を送れるようになります。しかしながら、手術後およそ2週間は、コンタクトレンズを使用しないようにしてください。また、先にお話ししたように目が乾きやすい状態なので、こまめに点眼するなどの対策をし、目の乾きをなるべく避けてください。目を強くこすらないことも大切です。お風呂やシャワー、洗顔は翌日から可能ですが、抜糸するまで水泳は避けていただいたほうがよいでしょう。
抜糸は通常、手術5~7日後に行います。その際は、患者さんが強い痛みを感じることのないよう丁寧に抜糸を行いますので、ご安心ください。
眼瞼下垂症は、まぶたが下がっている部分の長さや見た目ではなく、患者さん自身がどれだけ困るか、生活上の妨げになるかということを基準として診断します。症状が軽いように感じられても、しっかりと治療することで物を見やすくなったり、頭痛などの症状がよくなったりする可能性があります。
外来診療では、手術を前提にお話しするのではなく、治療が必要なのか、症状は改善するのかということをお話しします。まぶたのことで何かわずらわしい症状や気づいたことがあれば、まずはお気軽にご相談ください。
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