15~35歳の若い男性にできるがんの中では最も多い精巣腫瘍。その原因はいったい何なのでしょうか?また、どのような方が精巣腫瘍になりやすいのでしょうか?詳しく見ていきましょう。
精巣腫瘍は、精巣にできる腫瘍(おでき)です。悪性の腫瘍、いわゆる“がん”であることが多いです。
頻度としては10万人に1~2人のめずらしい病気ですが、15~35歳の若い方に多く、この年代の男性にできる悪性腫瘍のなかでは最も多い疾患です。
精巣腫瘍の本当の原因は、まだわかっていません。日本人では10万人に1人程度ですが、欧米の白人では10万人に4~6人と頻度が高いことが知られています。また、停留精巣(ていりゅうせいそう)や、精巣の発育不全などの病気をもっている方は、精巣腫瘍になりやすいことがわかっています。
停留精巣とは、生まれた時に精巣が陰嚢(いんのう:たまのふくろ)の中まで降りてこず、お腹の中にとどまったままになってしまう病気です。
停留精巣の方は、精巣腫瘍になるリスクが高いことがわかっています。調査により違いますが、一般の方の3~14倍の頻度で精巣腫瘍になると報告されています。その原因もはっきりと分かってはいませんが、停留精巣の方には何らかの遺伝的な異常があり、その異常が精巣腫瘍の発生に関わっているのではないかと考えられています。また、片方に停留精巣がある方は、正常に陰嚢の中まで降りている反対側の精巣にも腫瘍のリスクが高い事もわかっています。
停留精巣に対する治療としては、小さい時に精巣を陰嚢の中まで降ろす手術をおこないます。この手術によって精巣腫瘍のリスクが減るということはありませんが、精巣が陰嚢の中にあることで、精巣の腫れに自分で気づきやすくなります。精巣がおなかの中にある状態では、精巣腫瘍によって精巣が腫れてきても、なかなか自分で気づくことはできません。
精巣腫瘍とタバコや食事との関連は分かっていません。また、精巣腫瘍がどうして若い人に起こるのかも分かっていません。
しかし、何らかの遺伝的な要素、生まれつきの要素が関係しているだろうと言われています。
先ほど述べたように、精巣腫瘍の頻度は、人種によって5倍程度異なります。また、片方の精巣に腫瘍ができた方の場合、反対側の精巣にもできる可能性が2~3%ある事がわかっています。これらの事実は生まれ持った素因によって精巣腫瘍が発生しやすくなる事を示唆します。
一方、精巣腫瘍にかかった方のご兄弟は、精巣腫瘍にかかる確率が若干高いと言われていますが、あまり変わらないという調査の報告もあるようです。また、親から子へ遺伝することはありませんし、精巣腫瘍の患者さんの精子自体は病気ではありませんのでご安心ください。病気になる前でも後でも精巣腫瘍の患者さんから産まれたお子さんは他の方と全く変わりありません。ただし、次に述べるような不妊症との関連があります。
不妊症そのもののが精巣腫瘍の原因ではありません。しかし、精巣腫瘍の患者さんを調べると、手術で精巣を取るなどの治療をする前から、約1/4の患者さんが不妊症である事がわかっています。これは不妊症の原因になるような精巣の発育不全があると、精巣腫瘍を発症しやすいからであろうと考えられています。
また、治療前には不妊症でなくても、抗がん剤治療や放射線治療により一時的、あるいは永久に精子を作る能力が低下してしまうことがあります。さらに、抗がん剤治療後に行われるリンパ節を摘出する手術によって、射精するための神経が障害され、射精できなくなることで自然妊娠が不可能になる事も起こり得ます。
このような治療に伴う不妊症に対しては、治療前に精子を凍結保存しておき、将来の人工授精に備える、という方法があります。詳しくは担当の先生に相談してください。
参考記事:精巣腫瘍と不妊症ー精液保存のすすめ
出典:Campbell-Walsh Urology 10th edition
記事1:精巣腫瘍は治るがん?―精巣腫瘍の完治率、生存率について
記事2:精巣腫瘍の症状―「痛くないから大丈夫」は間違い?
記事3:どういう人が精巣腫瘍になりやすい?―精巣腫瘍の原因
記事4:精巣腫瘍と不妊症―精液保存のすすめ
記事5:精巣腫瘍の検査・診断―早めに検査を受けましょう
記事6:精巣腫瘍の治療・前編ー治療の流れについて
記事7:精巣腫瘍の治療・後編ー治療期間、治療後の通院、再発について
記事8:急性精巣炎とはどんな病気?おたふくかぜになったら注意しよう
記事9:急性精巣上体炎とは?
記事10:慢性精巣上体炎とはどんな病気?陰嚢(いんのう)の違和感、にぶい痛みが長く続く
神奈川県立がんセンター 副院長、地域連携室長、泌尿器科 部長
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