耳硬化症には手術が第一の治療となることを『耳硬化症の手術と術後の経過について』でお伝えしましたが、補聴器による生活の改善も一つの方法です。伝音難聴・感音難聴ともに補聴器は効果があります。今回は、耳硬化症における補聴器の役割を中心に、手術以外の耳硬化症の治療方法を、三井記念病院耳鼻咽喉科部長の奥野妙子先生にお話し頂きました。
伝音難聴は、音が内耳に伝わりにくくなっている状態です。そのため、耳を塞いだときのように音が聞こえてしまい、うまく聞き取ることが困難になります。音を伝える経路のロスを手術などで取り除くことが一番ですが、体力的な理由などでそれが不可能な場合は、補聴器も有用です。
感音難聴は、内耳あるいは後迷路性といい、中枢の機能が低下することによって起こる難聴のことをいいます。伝音難聴が機能的な障害であるのに対し、感音難聴は神経系の障害であるため、単純に聞こえないというだけではなく、聞こえない上に音がひずむ、言葉の内容が把握できないというような問題も発生します。たとえば、話しかけられていてその声が耳に入っていても、何を言っているのか判断できないというようなケースも生じることがあります。
伝音難聴と感音難聴が合わさったタイプの難聴です。中耳、内耳に障害があるため、両者の要素が加わります。
音が聞こえる仕組みには、気導と骨導の2種類があります。また、補聴器も気導補聴器と骨導補聴器の2つが存在します。
《気導》
外耳 ⇒ 中耳 ⇒ 内耳(蝸牛) ⇒ 聴神経 ⇒ 脳(聴覚野)
《骨導》
内耳(蝸牛) ⇒ 聴神経 ⇒ 脳(聴覚野)
気導補聴器というのは一般に補聴器とよばれているものです。耳の穴に大きくした音を入れ、この音が中耳を経て内耳に伝わります。伝音難聴にも感音難聴にも適応があります。耳硬化症で何らかの原因で手術ができないときはこの補聴器を使うことができます。また、気導補聴器には耳掛け式と耳穴式があります。
骨導補聴器は、頭蓋骨や顎の骨を直接振動させることで、中耳を介さずに直接内耳に刺激を与え、信号を送ることができるようになっている器械です。そのため骨導補聴器は、伝音難聴の方に適応される補聴器といえます。その普及率は極めて低く、外耳道閉鎖症や慢性中耳炎で耳漏が止まらない方など特殊な病気の方などに限って用いられます。
伝音難聴の対策として行われるものには、前述の補聴器のほか、骨固定型補聴器や人工中耳があります。
骨固定型補聴器は、埋め込み手術によって頭蓋骨にインプラントを装着します。ほとんど痛みもなく手術ができ、個人の髪色に合った様々なタイプのモデルもあるため、ほとんど目立つこともありません。
人工中耳は人工的に中耳の役割を果たす器械のことをいいます。補聴器との違いは、人工中耳の場合、音声を中耳のなかの耳小骨に直接伝える点にあります。近年保険が適応されたことにより、今後の広がりに期待が持てる治療方法です。
前項では伝音難聴に対する治療として、補聴器や人工中耳を紹介しました。一方、感音難聴に対しても、補聴器は非常に有効であるとされています。また、人工内耳も普及してきており、伝音難聴・感音難聴ともに治療の選択肢は広がってきているといえます。
『耳硬化症の手術と術後の経過について』でお伝えしたとおり、耳硬化症治療の第一選択肢は手術ですが、全身状態が悪く手術ができない場合は補聴器も有効です。手術をためらっているようなら、その期間補聴器を使うことで難聴の不便さも解消できます。
三井記念病院 耳鼻咽喉科特任顧問
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