肥満症は肥満とよく似た言葉ですが、別のものとして扱われます。肥満はBMIが25以上の“状態”を指し、健康上の問題の有無は問いません。その一方で肥満症は、肥満に起因し加えて健康障害やそのリスクがみられる“病気”であり、治療が必要な状態となります。
肥満症の治療は食習慣や運動習慣といった生活習慣の改善が基本となり、特に食事療法は過剰なエネルギーをコントロールするために欠かせないものです。では、肥満症の治療で行われる食事療法とはどのようなものなのでしょうか。
肥満症の食事療法は、運動療法と並んで肥満症治療の中心となる治療です。肥満症治療のためには肥満状態を解消する必要がありますが、肥満状態にある人は摂取エネルギーが消費エネルギーを上回っていることが多く、それが体重が増える原因となっています。そこで食事療法では、医師や栄養士の指導の下、普段の食事を標準体重に合った食事に見直し、摂取エネルギーを適正化することで体重減少を目指します。
ただ体重を減少させるのではなく、栄養バランスのよい食事を続け、長期的に適正体重を保つことにあります。無理な食事制限は短期的には体重減少が見られても、健康を損ねたりリバウンドしたりする原因にもなるため、正しい食事をとって長期的な減量を目指します。
まずは食事メニューの立て方について理解したうえで、食事のとり方にも注意する必要があります。また、食生活に影響を与える生活習慣も気を付けるようにしましょう。特に、遅い夕食は避けて食事から就寝まで2時間以上あけましょう。
食事のメニューは、1日あたり25kcal/kg標準体重以下とします。
標準体重は22に身長(m)を2回かけることで求めることができます。たとえば、身長165 cmの人の場合、標準体重は22×1.65(m)×1.65(m)≒60(kg)となるため、1日あたりの目標摂取エネルギーは60(kg)×25(kcal)=1,500 kcal以下となります。
ただし、目標とするエネルギーは診断時の体重やその人の運動量によっても異なるため、医師と相談したうえで取り決めます。特に、高校・大学時代に運動部でのサークルにて身体活動が激しく、その後社会人となって運動習慣が失われても以前と同等の食事摂取量を継続する結果、肥満しやすくその改善も難しくなるので注意しましょう。また、高齢者では減量によるフレイル*助長にも気をつける必要があり、無理なダイエットは慎みましょう。
*フレイル……健康な状態から介護を必要とする状態への中間の段階のこと
食事メニューは栄養バランスのとれたものとします。糖質50~60%、たんぱく質15~20%、脂質20~25%が推奨されます。特に不足しやすい栄養素として、たんぱく質は標準体重1 kgあたり最低1 g以上とる必要があります。
食事メニューのほかにも、食事のとり方が肥満と関連することが分かっています。注意すべきポイントとして以下があります。
食事の回数が少ないと次の食事量が多くなる恐れがあるほか、体が飢餓状態となるため、エネルギーをとり込みやすくなります。そのため、1日3回の食事を規則正しく食べることが大切です。
早食いは満腹感が得られにくく、食べ過ぎの原因となるため、よく噛んでゆっくりと食べるようにしましょう。
たとえば、ご飯などの炭水化物は最後にして、最初におかずとなる魚や肉を野菜と共に先にゆっくり食べてから、ご飯を味噌汁などと食べると血糖の急激な上昇を防げます。同時に、たんぱく質が入ることで空腹感が和らぎ、肥満の原因となる炭水化物のとりすぎを防げます。
間食はとらないことが理想ですが、我慢のし過ぎは反動で食べ過ぎる原因にもなります。そのため、毎日食べることは避け、曜日や時間を決めて楽しむようにしましょう。
何かをしながら食事をとるながら食いは、無意識な食べ過ぎの原因となります。食事中は食べることに集中するようにしましょう。
食事以外にも、生活習慣が食生活に影響を与えることがあります。特に、果物は果糖を多量に含んでおり、食べすぎることによって炭水化物のとり過ぎにつながるため、注意しましょう。
過度な飲酒は食欲を増加させることがあるため、エネルギー摂取量を増やしやすく、体重増加のリスクを上昇させるといわれています。また、お酒によっては高エネルギーであることもあるため、過度な飲酒は避けるようにしましょう。特に飲酒後のラーメンは肥満を助長し、同時に過剰食塩摂取で血圧も上がります。
ヘビースモーカーは肥満の割合が高いといわれています。また、喫煙本数が多かったり喫煙期間が長かったりする場合、禁煙後に体重が増えやすくなる傾向があります。
喫煙は肥満症の合併症にも悪い影響を及ぼすことがあるため、主治医に相談しながら禁煙についても検討するとよいでしょう。電子たばこも喫煙と同じ作用があるため、完全禁煙を心がけましょう。
ストレスのためすぎも、食事内容や日々の運動量に影響を与えることが分かっています。まずは規則正しい生活を心がけ、ストレスの少ない生活を目指すようにしましょう。メディテーション(瞑想)などでリラックスすることを心がけるとよいでしょう。
ホルモン剤、抗アレルギー剤、精神科・心療内科での処方薬でも食欲亢進や肥満を助長することがあります。主治医に相談しましょう。
食事療法は肥満症の重要な治療法です。無理なエネルギー制限で短期的に減量をするのではなく、食事の内容以外の生活習慣も含めて、肥満症の原因となった生活をあらためることが必要です。特に長年の重症肥満がある際は胃を縮めるバリアトリックサージェリー、すなわち手術で直す肥満外科療法を考慮します。
仕事や生活で不自由を感じたり、劣等感に苛まれたりした際、あるいは不妊や糖尿病・高血圧・呼吸不全・心不全・腎不全などの合併症が進行して食事内容の決め方が分からない場合は、肥満症治療を専門とする病院の医師や栄養士に相談するとよいでしょう。
横浜労災病院 名誉院長、西川クリニック 院長
西川 哲男 先生の所属医療機関
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