「少し体を動かしただけでも息が切れてしまう、あれおかしいな?」ということは日常でもあるかもしれません。呼吸困難・息切れは、外来でもよくみられる症状の一つです。しかし、頻繁にみられる呼吸困難・息切れ症状ですが、中には緊急で病院を受診しなければならない病気も潜んでいます。たとえば、長時間体を動かさないことで起こるエコノミークラス症候群による「肺塞栓症」では、死に至るケースもあります。私たち一般生活者が、どのように緊急度の高い呼吸困難・息切れを見分ければよいのか、総合診療医である片岡仁美先生に教えてもらいました。
呼吸困難の緊急性の高さは、まず時間的な経過から判断します。
急速に呼吸困難が起こった場合、たとえば急速に顔色が悪くなってきて、息ができなくなってきた場合などは、一分一秒を争いますので、すぐに救急受診をすべきです。1日のうちに徐々に呼吸困難が起こってきた場合も、すぐに受診した方がよいでしょう。一方で、数週間、数か月単位で呼吸困難が起こってきている場合は、緊急性は低い場合が多いです。
また呼吸の状態も、緊急度を見分けるのに重要です。たとえば呼吸の数が急速に早くなった場合は注意が必要です。目安としては1分間に20回以上呼吸を行っている場合は注意が必要です。呼吸困難をきたす有名な病気として過換気症候群があり、この病気でも呼吸数は早くなりますが、この病気についての緊急性は高くありません。一方で、その他の原因で生じる呼吸困難のなかで、呼吸数が急速に早くなる場合は注意が必要です。
また、呼吸が止まってしまっている場合、もしくは呼吸が弱くなってしまっている場合は、当然ですが緊急性は高いです。鼻や口に手をあてたときに、気流が感じられなくなっている場合は、緊急で受診すべきです。
命にかかわる緊急性の高い呼吸困難・息切れの病気の代表例としては、「気道閉塞」、「緊張性気胸」、「肺塞栓症」が挙げられます。
「気道閉塞」とは、空気の通り道である気道が閉塞してしまった状態のことで、空気が通れなくなってしまうので呼吸困難に陥ります。お正月にもちを気道につまらせてしまう場合など、固形物が気道をつまらせてしまう場合と、アナフィラキシーショックと呼ばれるような急激なアレルギーの反応により、気道のまわりがむくんでしまい(浮腫)閉塞する場合があります。
「緊張性気胸」とは、気胸の中でももっとも危険な状態です。気胸はやせ形の若年男性に多い病気で、肺から空気がもれてしまい、空気が胸腔(肺の周りの空間のこと)にたまり、肺が縮んでしまった状態のことをさします。緊張性気胸の場合は、肺から空気がもれつづけて、胸腔の圧力があがります。胸腔の圧力が上がった結果、肺につながる血管や、心臓につながる血管を圧迫してしまい血液が流れなくなってしまいます。血液を体中に送ることができなくなってしまうので、生命に危険を及ぼします。緊張性気胸の場合は、すみやかに胸腔内の空気を出してあげる(胸腔に太い針を刺す)ことが必要です。
「肺塞栓症」とは、肺動脈に血液のかたまりがつまる病気のことです。「エコノミークラス症候群」と呼ばれているケースは長時間の飛行機旅行によって引き起こされた急性肺塞栓症を指します。急速に起こってくる呼吸困難・息苦しさが特徴です。血液のかたまりがどこで作られるかというと、多くの場合は足の静脈で作られます。
エコノミークラスにずっと座っていたり、動かない状態を続けていたりすると、足の静脈に血栓(血液のかたまり)が出来ることがあります。この血栓がふとしたきっかけで飛んでしまい、肺の動脈につまります。心臓から肺に血液を送る肺動脈がつまってしまうので、ガス交換が十分に行うことが出来なくなり、呼吸困難を起こします。治療としては血栓を除去する(薬物による血栓溶解療法や抗凝固療法カテーテル、手術などによる血栓除去)ことが行われます。
呼吸困難や息切れの重症度を分類するためには、下記のような分類が知られています。これらは自覚症状を基準とした分類ですが、それ以外にもピークフローメーターをつかった喘息の状態の客観的評価、それぞれの疾患によって客観的な指標を基準とした重症度判定もあります。
Ⅰ度
同年代の健常者と同様の生活・仕事ができ、階段も健常者なみにのぼれる
Ⅱ度
歩行は同年代の健常者並にできるが、階段の上り下りは健常者なみにできない
Ⅲ度
健常者なみに歩けないが、自分のペースで1km(または1マイル)程度の歩行が可能
Ⅳ度
休みながらでなければ50m以上の歩行が不可能
Ⅴ度
会話や着物の着脱で息がきれ、外出ができない
Ⅰ度
心疾患はあるが身体活動に制限はない。日常的な身体活動では著しい疲労、動悸、呼吸困難あるいは狭心痛を生じない。
Ⅱ度
軽度の身体活動の制限がある。安静時には無症状。日常的な身体活動で疲労、動悸、呼吸困難あるいは狭心痛を生じる。
Ⅲ度
高度な身体活動の制限がある。安静時には無症状。日常的な身体活動以下の労作で疲労、動悸、呼吸困難あるいは狭心痛を生じる。
Ⅳ度
心疾患のためいかなる身体活動も制限される。心不全症状や狭心痛が安静時にも存在する。わずかな労作でこれらの症状は増悪する。
記事1:「呼吸困難(息切れ・息苦しさ)」とはどのような状態? 呼吸が苦しくなった時、何科を受診すればよい?
記事2:「呼吸困難(息切れ・息苦しさ)」の原因は何か?
記事3:すぐに病院に行かなければならない、緊急性の高い呼吸困難・息切れとはどのようなものか?
記事4:呼吸困難・息切れはどのように診断するのでしょうか?
京都大学医学研究科 医学教育・国際化推進センター 教授
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