妊娠したかもしれないという喜びを抱えて産婦人科を受診され、胞状奇胎かもしれないと言われるケースがあります。このショックはとても大きいものでしょう。しかし、きちんと状態を把握しなければいけません。この記事では、「絨毛性疾患」のひとつである胞状奇胎やその類縁疾患を疑われた方が知っておくべき知識について、山王病院院長 堤治先生にうかがいました。
絨毛とは妊娠に伴って発生する胎盤の一部で、胎児と母親との間で栄養素や老廃物の交換を可能にしています。
この絨毛に発生する病気の総称が、絨毛性疾患です。妊娠後に子宮内に残った絨毛から発生することもあれば、胞状奇胎のように異常妊娠として発生することもあります。正常の妊娠であれば受精卵から赤ちゃんが育ちますが、胞状奇胎では受精卵の異常などにより、子宮内に「つぶつぶ」がぶどうの房のように発生します。このため、かつては「ぶどう子」とも呼ばれていました。
絨毛性疾患は大きく分けると、胞状奇胎と侵入奇胎、絨毛がんの3つが含まれます(胞状奇胎について本記事で、侵入奇胎と絨毛がんについては次記事「侵入奇胎と絨毛がんの知識―絨毛性疾患とは(2)」で概説します)。その他に稀な腫瘍性病変として、存続絨毛症、中間型トロホブラスト腫瘍などもあります。
胞状奇胎では、絨毛細胞の増殖や間質の浮腫によって絨毛が水腫状に大きくなります。その結果、症状として妊娠初期同様に不正性器出血や妊娠悪阻(おそ:つわりのこと)をきたします。
胞状奇胎は全ての絨毛が肉眼で確認出来るほどに大きくなった「全胞状奇胎」と胎児成分が存在し、絨毛の一部のみ大きくなっている「部分胞状奇胎」があります。一見、原因も同じのように思えるかもしれませんが、両者では原因が少し異なります。
以上の2つによって胞状奇胎が疑われます。
ただし、これらのみでは診断が難しいというのも事実です。特に早期の胞状奇胎の場合、胞状化していないため診断が極めて難しくなります。確定的な診断は、組織学的な診断によって行われるのが一般的です。それでも診断が困難な例では、遺伝学的な検査が行われます。
胞状奇胎は異常な受精によって生じる異常妊娠の一種であり、原則として「子宮内容除去」を行えば十分です。ただし、1度目の除去で取り除き切れなかった場合、もしくはそれが疑われる場合は、2度目・3度目の除去が必要になる場合があります。また出産を希望されない患者さんで、子宮が大きく、子宮内容除去術の際に出血などの危険が起こる可能性がある場合は「子宮摘出」を行う場合もあります。
子宮内容除去後の管理は侵入奇胎、絨毛がん早期発見・治療に重要です。術後、10〜20%が侵入奇胎や絨毛がんに発達すると言われています。そのため、術後も定期的に受診する必要があります。
奇胎後の管理の基本はhCG値を測定することであり、除去後の期間とhCG値によって続発症を疑うことになります。しかし管理の期間は様々な報告があり定まっていません。ほとんどの医療機関では2年以上の管理が基本のようです。
奇胎後に再度妊娠を許可するまでの期間は、従来1〜2年と比較的長かったわけですが、現在では6ヶ月程度の避妊期間で問題ないという報告もあります。いずれにせよ、主治医の先生とよく相談をして下さい。
山王病院(東京都) 名誉病院長
堤 治 先生の所属医療機関
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