概要
脈絡膜は網膜の外側、強膜の内側にある眼球後半部を包む膜です。血管とメラニン色素に富んでいるため、外部からの光線を吸収し、網膜を栄養する役割を担っています。
脈絡膜腫瘍とは、良性・悪性を問わず脈絡膜にできた腫瘍を指します。腫瘍は、腫瘍のもととなる細胞の種類によって分類されます。たとえば、血管の異常増殖による脈絡膜血管腫、異所性骨形成による脈絡膜骨腫といったものがあり、これらは良性の腫瘍です。その他良性のものでは脈絡膜母斑、悪性では脈絡膜悪性黒色腫、転移性脈絡膜腫瘍、悪性リンパ腫といったものがあります。
原因
多くのものははっきりとした原因はわかっていません。転移性脈絡膜腫瘍は全身諸臓器に発生した悪性腫瘍が血行性に転移しておこります。女性では乳がん、男性では肺がんからの転移が多くみられます。
脈絡膜血管腫はSturge- Weber症候群という全身に血管腫が多発する病気に伴っておこることもあります。この病気では近年GNAQ遺伝子の変異が報告されており、原因として遺伝子異常が示唆されています。この場合広範囲にびまん性に血管腫が発生します。
症状
腫瘍の発生部位や大きさによって症状はさまざまです。腫瘍が黄斑部という視力に特に重要な部分に生じた場合や腫瘍周囲の網膜剥離が黄斑部に及んだ場合には、視力低下が起こります。飛蚊症を生じたり、霧がかかって見えたり、歪んで見えるようになることがあります。
腫瘍がある程度大きくなると視野が欠損します。腫瘍が後極部から離れた周辺部にある場合には無症状のこともあり、健診などで偶然発見されることもあります。
検査・診断
眼底検査、蛍光眼底造影検査、超音波検査、CT、MRI、光干渉断層計(OCT)検査を行います。これらの検査の結果を組み合わせて総合的に診断します。可能な場合には、腫瘍の切除を行い、病理検査を行って診断します。
治療
脈絡膜血管腫
限局した腫瘍で無症状の場合は経過観察を行います。黄斑部に水が貯まって浮腫が起きている場合や漿液性網膜剥離(網膜内に水が貯まって網膜がはがれている状態)がある場合には光凝固や冷凍凝固術を行います。保険適応外にはなりますが、最近では光線力学療法の有効性も示されています。びまん性に広がっているときには低線量の放射線照射をします。
脈絡膜骨腫
根本的な治療法はないため、基本的には経過観察になります。新生血管が確認できる場合には、光凝固や光線力学療法、抗VEGF薬の硝子体内注射が行われることもあります。
脈絡膜母斑
治療の必要はありません。定期的な診察で増大傾向がないか確認していきます。
脈絡膜悪性黒色腫
脈絡膜悪性黒色腫は、かつては眼球摘出術しか治療法がありませんでした。しかし、腫瘍のサイズが大きくない場合には、放射線治療が行われています。腫瘍が小さく切除可能な場所にある場合には、強膜の一部と腫瘍を切除する局所切除術が行われることもあります。視神経障害や血管新生緑内障などの副作用で視機能を失ってしまうこともありますが、放射線治療の適応拡大により、眼球温存が図れる場合も増えています。
転移性脈絡膜腫瘍
原発巣やがん細胞の種類によっても方針は異なりますが、一般的には脈絡膜への転移が明らかになった際には生命予後との兼ね合いをみながら治療方針を決定していくことになります。化学療法などがんに対する全身治療を行ったり、眼局所に対しては放射線治療を行ったりします。
悪性リンパ腫
眼局所にとどまっている場合には放射線治療やメトトレキサートという抗がん剤を眼球に注射することがあります。脳内や全身にも悪性リンパ腫が及んでいる場合には化学療法や放射線治療など全身的な治療が必要になります。
医師の方へ
「脈絡膜腫瘍」を登録すると、新着の情報をお知らせします