膀胱炎は泌尿器の病気の中でも特に身近なもので、排尿時の痛み、頻尿、残尿感、尿意切迫感(突然に耐えがたい強い尿意を感じる)、尿の濁りなどの症状を特徴とします。
主に大腸菌などによる細菌感染が原因で発症しますが、細菌感染以外でも起こることがあるなど、一口に膀胱炎と言ってもさまざまな種類があります。細菌感染が大半を占めることから、予防方法としては細菌に感染させない取り組みが重要となります。膀胱炎の原因や予防対策にはどのようなものがあるのでしょうか。
膀胱炎には“単純性膀胱炎“、“複雑性膀胱炎”、“間質性膀胱炎”などさまざまな種類があり、種類によって原因が異なります。
単純性膀胱炎は、背後に病気がなく発症する膀胱炎で、数ある種類の中でもっとも頻度が高いものです。その原因はおしっこの出口(尿道口)からの細菌感染で、細菌が尿道を通って膀胱に達し、膀胱内の粘膜が炎症を起こすことで発症します。男性と比べて女性は尿道が短いことから、尿道口から入った細菌が膀胱に達しやすく、そのため単純性膀胱炎は女性に多く見られます。
単純性膀胱炎を引き起こす誘因として、過度な排尿我慢、水分摂取不足、便秘、生理、性交などが挙げられ、疲れやストレスなどによって免疫機能が低下しているときに発症しやすくなります。原因菌の種類には、大腸菌、セラチア、緑膿菌、腸球菌、エンテロバクターなどがありますが、約3/4が大腸菌によるものです。治療の基本は抗菌薬の内服で、通常3~7日ほど服用すれば治癒します。
複雑性膀胱炎は、背後に病気があることで発症する膀胱炎です。原因となる病気として、尿路結石、前立腺肥大症、神経因性膀胱、尿路の腫瘍などが挙げられます。このような病気があると、膀胱に尿がたまりやすくなる、細菌の住みやすい環境が助長されるなどして膀胱内で細菌が増殖しやすくなります。そのため、原因となる病気が治らない限り、膀胱炎が再発または再燃する可能性が高くなります。治療は抗菌薬のみでは不十分で、原因となる病気の治療も必要になります。
間質性膀胱炎は、細菌感染以外で生じる膀胱炎の1つです。原因はいまだ不明ですが、細菌以外の何らかの原因によって膀胱の粘膜から筋層に炎症が生じ、膀胱や骨盤周囲の強い痛み、頻尿、尿意切迫感などの症状が現れます。このような症状は単純性膀胱炎でも見られますが、単純性膀胱炎では排尿が終わる頃に膀胱が痛むのに対して、間質性膀胱炎では膀胱に尿がたまると痛みが生じ、排尿すると痛みが軽くなるのが特徴です。また、ストレス(仕事、睡眠障害、気温の変化など)や、特定の食品によって痛みが誘発されたり症状が悪化したりすることがあるといわれています。
なお、細菌感染以外で生じる膀胱炎として、ほかにもウイルス感染によって起こる“ウイルス性膀胱炎”、放射線治療に起因して生じる“放射線性膀胱炎”、一部の薬を原因として発症する“薬剤性膀胱炎”などがあります。
膀胱炎の大部分を占めるのが単純性膀胱炎です。尿道口からの細菌感染が原因で起こることから、予防策としては細菌に感染しないようにすること、膀胱内で細菌の増殖を防ぐことが重要となります。特に女性は尿道口から細菌が侵入しやすく、細菌が膀胱に到達しやすいので注意が必要です。具体的な予防策は以下が挙げられます。
膀胱炎は細菌感染によるものが大半を占めますが、たとえ膀胱内に細菌が入っても、水分を多く摂取すれば尿量・排尿回数が増え、尿と一緒に流し出すことができます。これは予防としてだけでなく、すでに膀胱炎にかかっている人も早期治癒のために重要なことです。
尿が長く膀胱内にたまっていると細菌が増殖しやすくなるので、細菌が増殖しないうちに尿を出すことが大切です。尿意を感じたら我慢せず、早めに排尿するようにしましょう。
下痢や便秘によって膀胱に病原性の大腸菌が増殖すると、膀胱炎を発症するリスクが高まります。日頃から便通にも気をつけましょう。
性行為によって細菌が尿道に入り込むことがあります。万が一入っても排尿することで細菌が尿と一緒に流れ出すので、性行為の後は排尿する習慣をつけるようにしましょう。また、細菌の侵入を防ぐために、性行為の前後はシャワーを浴びるなどして陰部を清潔にすることも大切です。
排尿・排便後には、多少なりとも肛門や腟に細菌が付着しています。後ろから前(肛門から尿道)へ拭くと尿道に細菌が入りやすくなってしまうので、前から後ろ(尿道から肛門)に拭くように心がけましょう。
温水洗浄を使用することによって、腟内で繁殖した細菌が尿道に入ってしまうことがあります。痔などがなければ、温水洗浄の使用は控えたほうがよいでしょう。
疲労やストレスが溜まると免疫機能が低下し、感染症にかかりやすくなります。感染症以外のさまざまな病気においても、免疫機能が低下しているときは発症しやすくなります。また、下半身の冷えも膀胱炎の誘因になりえるとされています。
膀胱炎の原因はさまざまですが、大半を占めるのが細菌感染です。特に女性はかかりやすく、女性の2人に1人は生涯でかかるともいわれているほどに身近な病気です。注意していても発症することはありますが、予防対策をしっかりと行っていれば発症を抑えることができます。膀胱炎にかからないようにするためにうえで挙げた予防対策を積極的に行い、気になる症状があれば早めに泌尿器科を受診しましょう。泌尿器科が近くにない場合や男性医師に診られるのが恥ずかしいという場合には、内科や婦人科に相談するのもよいでしょう。
横浜市立大学附属市民総合医療センター 生殖医療センター 泌尿器科部長・准教授、田園都市レディースクリニック 臨時職員
横浜市立大学附属市民総合医療センター 生殖医療センター 泌尿器科部長・准教授、田園都市レディースクリニック 臨時職員
日本泌尿器科学会 泌尿器科専門医・泌尿器科指導医日本生殖医学会 生殖医療専門医日本癌治療学会 会員日本がん治療認定医機構 がん治療認定医
日本生殖医学会認定 生殖医療専門医(泌尿器科)の一人であり、男性不妊治療の専門家。横浜市の不妊相談などを担当し、男性不妊の啓発活動に努めている。また、横浜市立大学附属市民総合医療センターの生殖医療センター部長を務める。同センターは泌尿器科、婦人科に日本生殖医学会認定 生殖医療専門医(泌尿器科)が在籍しており、パートナーと一緒に治療を受けられる神奈川県内の施設である。
湯村 寧 先生の所属医療機関
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