膵臓がんの治療では、治癒を目指して手術を行うことがあります。手術にはいくつかの方法があり、がんの発生部位などに応じて選択されます。これらの手術を安全かつ確実に行うことを目指して、国立国際医療研究センター病院では、さまざまな工夫を行っています。今回は、同院肝胆膵外科医長・診療科長の稲垣 冬樹先生に、膵臓がん手術の主な種類と、同院の膵臓がん治療の取り組みについてお話を伺いました。
膵臓がん手術を行う場合、膵頭十二指腸切除術、脾臓合併膵体尾部切除術、膵全摘術のいずれかが選択されます。
膵臓の右側の膨らんだ部分を膵頭部、中央を膵体部、左側を膵尾部といいます。膵頭十二指腸切除術は、膵頭部や、膵体部の中でも膵頭部に近い位置にがんがある場合に選択されます。
この手術では膵頭部、十二指腸、胆管と胆嚢を切除し、それぞれを小腸とつなぎ合わせるとともに、がんが転移している可能性のある周囲のリンパ節も切除します(リンパ節郭清)。
また、がんの進行状況に応じて、膵臓の後ろを通る門脈と呼ばれる血管を一緒に切除してつなぎ合わせたり、近くにある横行結腸にまでがんが浸潤(染み込むように広がること)していればその部分を含めて切除したりすることもあります。
脾臓合併膵体尾部切除術と比較すると侵襲が大きく、入院期間も長くなる傾向にあります。
脾臓合併膵体尾部切除術は、膵体部、膵尾部にがんがある場合に選択され、膵体部、膵尾部とともに膵尾部近くにある脾臓を切除する手術です。
膵頭十二指腸切除術と同様に、転移の可能性のある周囲のリンパ節も切除します。がんの進行状況に応じて門脈を一緒に切除してつなぎ合わせたり、横行結腸にまでがんが浸潤していればその部分を含めて切除したりすることもあります。
がんが膵臓全体に広がっている場合には、膵臓全体とともに十二指腸、胆管を摘出します。ほかの手術と比べて侵襲が大きく、入院期間も長くなります。
膵全摘術を行うと膵臓から分泌されていたインスリン(血糖値を低下させるホルモン)がなくなるため、これを補うインスリン自己注射が必要になります。近年、スマートフォンと連動して24時間数値を確認できる血糖測定器も登場しており、血糖値を安全に管理できる環境が整ってきています。
がん以外の膵臓の病気でも手術を行うことがあります。膵神経内分泌腫瘍、膵管内乳頭粘液性腫瘍、SPT(Solid Pseudopapillary Tumor)などの場合には脾臓温存膵体尾部切除術を行うことがあります。また、膵神経内分泌腫瘍、SPTに対しては、核出術(腫瘍のみをくり抜く手術)を行うこともあります。
当院では、個々の患者さんに合った治療を選択できるよう、病気や手術について分かりやすい説明を心がけています。特に手術によって起こり得る合併症についてはしっかりとご説明してご理解いただき、同意を得たうえで手術を行っています。
膵臓がんが疑われる患者さんの情報は、私たち肝胆膵外科の医師だけでなく、胆道や膵臓を専門とする内科医や、膵臓がんを専門とする腫瘍内科の医師らと共有しています。胆膵カンファレンスという会議で相談しながら、お一人おひとりに適切な治療を提供できるよう検討を重ねています。
また、進行した膵臓がんに対しては、放射線治療科や緩和ケア科とも連携しながら治療を行っています。
診療ガイドラインでは、膵臓がんの患者さんへの手術前後の薬物療法(抗がん剤治療)が推奨されています。当院では原則として手術前に抗がん剤を投与していますが、近年、ご高齢の患者さんが増加しており、負担が大きいために手術前の抗がん剤治療が難しいケースもあります。そのような方には手術後に、再発予防のために抗がん剤を服用いただくことをおすすめしています。
手術後の再発予防を目的とした抗がん剤治療は、標準的に半年間行いますが、患者さんの状態に応じて半年間よりも長く治療を行う場合もあります。
当院では、がんが転移している可能性のあるリンパ節、浸潤がみられる周辺臓器をできる限り確実に切除するため、原則として開腹手術を行っています。
一方、がん以外の膵臓の病気に関しては、可能な限り臓器機能を温存できる術式を選択しています。また、侵襲が少なく済むよう腹腔鏡下手術を積極的に採用しています。
当院では、膵臓がんの手術を受けた方には基本的に5年間、定期的な外来受診をお願いしています。まず退院されて2週間前後の診察で手術後の体調をチェックします。問題がなければ、翌日から再発予防に向けた抗がん剤治療を外来で開始します。なお、ご高齢の方には、体調管理のために入院して治療を受けていただく場合もあります。
抗がん剤治療開始から1~2週間後に副作用の有無を確認します。基本的に、抗がん剤投与中は1~1か月半に1回程、投与終了後は3か月に1回程受診していただき、体調や再発の有無をチェックします。
膵臓がんでは、手術後の再発が高い頻度でみられます。再発した場合、手術後早期の段階であれば抗がん剤治療を、ある程度進行していれば緩和ケアを行います。再発時に、再度手術が適応になるのはまれなケースといえます。
膵臓の手術で特徴的な合併症は、膵液漏です。これは、手術によってできた膵臓の切り口から膵液が漏れ出る合併症で、手術後早期に起こることがあります。多くの場合、手術の際に体内に入れたドレーン(排液管)が膵液を体外に排出することによって自然に治っていきます。
まれに、漏れた膵液が体の組織を溶かし、手術部位に出血を起こす場合があります。その際はカテーテルを用いて、出血した血管をふさぐ治療を行います。
胃内容排泄遅延とは、手術後しばらくの間、胃の動きが悪くなり、食べたものが胃から排出できなくなる状態のことです。通常は時間の経過とともに改善に向かいますが、症状が強く現れていると、一時的に胃の中に管を入れて胃液を体外に排出する処置が必要になるケースもあります。
膵頭十二指腸切除術の手術後には、膵液の分泌不良による吸収不良や、低栄養性の脂肪肝(肝臓に中性脂肪がたまった状態)を起こす可能性があります。これらを防ぐため、手術後は内服薬により消化酵素を補充する治療を行います。
手術後の過ごし方に特に制限はありませんが、残った膵臓に負担をかけないよう、脂肪分を抑えた消化のよい食事をおすすめしています。
特に膵頭十二指腸切除術後には、消化の悪いきのこ類や海藻類、繊維質の多い食事は控えていただき、一度にたくさんの食事を取らないよう三食の量を少なめにして、その代わりに間食を挟むようアドバイスをしています。
膵臓がんは悪性度が高く再発しやすいため、治療が難しい病気として知られています。私たちをはじめとする膵臓を専門とする医師とよく相談しながら、それぞれの患者さんに合った治療を適切なタイミングで受けていただきたいと思います。
当院では、私たち肝胆膵外科と他診療科が連携し、患者さんお一人おひとりに適した医療の提供に努めています。いつでも相談にいらしてください。
国立国際医療研究センター病院 肝胆膵外科 診療科長
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