インタビュー

食道裂孔ヘルニアとはー逆流や食道のつかえを引き起こす

食道裂孔ヘルニアとはー逆流や食道のつかえを引き起こす
柏木 秀幸 先生

富士市立中央病院 院長、東京慈恵会医科大学 客員教授

柏木 秀幸 先生

この記事の最終更新は2015年11月26日です。

胃と食道の結合部にあたる下部食道括約筋(LES)が正常に機能しないことで、胃液や胃の内容物が食道へ逆流して、胃食道逆流症などが起こることは前の記事(リンク)で述べました。これらの疾患が疑われる症状を訴える患者さんに対して医師が注意を払う疾患のひとつに、食道裂孔ヘルニアがあります。今日、食道・胃の内視鏡検査を受けている方の半数近くに認められるとも言われています。胃食道逆流症の原因となりますが、心臓など周囲臓器の圧迫や、嚥下困難を起こすことがあります。

この記事では、富士市立中央病院院長・東京慈恵会医科大学客員教授の柏木秀幸先生に、食道裂孔ヘルニアとはどのような疾患なのかについて解説していただきます。

ヘルニアとは、腹腔内にある臓器が腹腔を構成する筋肉組織の脆弱部から外側へ出てくる状態を言います。いわゆる「脱腸」と呼ばれる病気で、よく見られるものとしては鼠径ヘルニアがあげられます。

ところで、食道は腹腔内に入る時、横隔膜の筋肉で構成された食道裂孔を通ってきます。この食道裂孔に生じたヘルニアは「食道裂孔ヘルニア」と呼ばれます。食道は食道裂孔で、横隔食道膜という丈夫な膜組織により横隔膜に固定されています。その固定が加齢や腹圧の上昇により緩んで、食道裂孔自体が広げられてきますと、食道裂孔ヘルニアが発生します。腹圧などにより、食道と胃の接合部がそのまま口側へ上がってくる滑脱型と、食道胃接合部は固定されたまま、周囲の胃が入り込んでくつ傍食道型に大別されます。ヘルニアが大きくなり、両者の要素が混ざったものは、混合型と呼ばれています。さらに、胃だけでなく、大網や結腸などが一緒に縦隔内に入り込んだものは複合型と呼ばれますが、このような場合には胃の大部分が縦隔の中へ入ってきます。

食道裂孔ヘルニアの90%以上は滑脱型・混合型(特に滑脱型が多い)です。滑脱型のヘルニアを生じると、食道裂孔部と協調的に働いている下部食道活約部の閉鎖が弱くなります。そのため、胃内容物、特に胃液が食道側へ逆流しやすくなるのです。混合型は、滑脱型の進行例で、大きな食道裂孔ヘルニアとなり逆流もひどくなります。また、大きな食道裂孔ヘルニアになると胃が食道裂孔部に入り込んでくるために、圧迫や血流障害による痛みや、胃に潰瘍が発生することがあります。

一方、傍食道型自体は希な病気ですが、この場合には、通常胃食道逆流は生じません。むしろ、食道裂孔部より入り込んだ胃が圧迫されることによる心窩部痛や食道の圧迫による嚥下困難が認められます。高齢化社会で問題となっているのは複合型です。高齢女性に認められますが、腰が曲がってきますと(亀背の状態)、食道裂孔の開大と腹圧の上昇が生じ、胃が縦隔内に入り込んできます。

重症例では、胃が全部縦隔内に入り込んできて、複合型のヘルニアとなります。これは、傍食道型の進行例ですので、胃食道逆流が起こることは少ないのですが、入り込んだ胃により心臓や肺の圧迫症状が出現し、動悸や息切れが出現します。また、胃が捻れてきますので、嚥下困難などの通過障害が出現します。胃の捻れが高度となると、胃軸捻転を生じ、血流障害により胃が腐ってきます。胃が壊死に陥り、生命が危険な状態になりますので注意が必要です。

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