胃と食道の結合部にあたる下部食道括約筋(LES)が正常に機能しないことで、胃液や胃の内容物が食道へ逆流して、胃食道逆流症などが起こることは前の記事(リンク)で述べました。これらの疾患が疑われる症状を訴える患者さんに対して医師が注意を払う疾患のひとつに、食道裂孔ヘルニアがあります。今日、食道・胃の内視鏡検査を受けている方の半数近くに認められるとも言われています。胃食道逆流症の原因となりますが、心臓など周囲臓器の圧迫や、嚥下困難を起こすことがあります。
この記事では、富士市立中央病院院長・東京慈恵会医科大学客員教授の柏木秀幸先生に、食道裂孔ヘルニアとはどのような疾患なのかについて解説していただきます。
ヘルニアとは、腹腔内にある臓器が腹腔を構成する筋肉組織の脆弱部から外側へ出てくる状態を言います。いわゆる「脱腸」と呼ばれる病気で、よく見られるものとしては鼠径ヘルニアがあげられます。
ところで、食道は腹腔内に入る時、横隔膜の筋肉で構成された食道裂孔を通ってきます。この食道裂孔に生じたヘルニアは「食道裂孔ヘルニア」と呼ばれます。食道は食道裂孔で、横隔食道膜という丈夫な膜組織により横隔膜に固定されています。その固定が加齢や腹圧の上昇により緩んで、食道裂孔自体が広げられてきますと、食道裂孔ヘルニアが発生します。腹圧などにより、食道と胃の接合部がそのまま口側へ上がってくる滑脱型と、食道胃接合部は固定されたまま、周囲の胃が入り込んでくつ傍食道型に大別されます。ヘルニアが大きくなり、両者の要素が混ざったものは、混合型と呼ばれています。さらに、胃だけでなく、大網や結腸などが一緒に縦隔内に入り込んだものは複合型と呼ばれますが、このような場合には胃の大部分が縦隔の中へ入ってきます。
食道裂孔ヘルニアの90%以上は滑脱型・混合型(特に滑脱型が多い)です。滑脱型のヘルニアを生じると、食道裂孔部と協調的に働いている下部食道活約部の閉鎖が弱くなります。そのため、胃内容物、特に胃液が食道側へ逆流しやすくなるのです。混合型は、滑脱型の進行例で、大きな食道裂孔ヘルニアとなり逆流もひどくなります。また、大きな食道裂孔ヘルニアになると胃が食道裂孔部に入り込んでくるために、圧迫や血流障害による痛みや、胃に潰瘍が発生することがあります。
一方、傍食道型自体は希な病気ですが、この場合には、通常胃食道逆流は生じません。むしろ、食道裂孔部より入り込んだ胃が圧迫されることによる心窩部痛や食道の圧迫による嚥下困難が認められます。高齢化社会で問題となっているのは複合型です。高齢女性に認められますが、腰が曲がってきますと(亀背の状態)、食道裂孔の開大と腹圧の上昇が生じ、胃が縦隔内に入り込んできます。
重症例では、胃が全部縦隔内に入り込んできて、複合型のヘルニアとなります。これは、傍食道型の進行例ですので、胃食道逆流が起こることは少ないのですが、入り込んだ胃により心臓や肺の圧迫症状が出現し、動悸や息切れが出現します。また、胃が捻れてきますので、嚥下困難などの通過障害が出現します。胃の捻れが高度となると、胃軸捻転を生じ、血流障害により胃が腐ってきます。胃が壊死に陥り、生命が危険な状態になりますので注意が必要です。
富士市立中央病院 院長、東京慈恵会医科大学 客員教授
富士市立中央病院 院長、東京慈恵会医科大学 客員教授
日本外科学会 外科専門医・指導医日本消化器外科学会 消化器外科専門医・消化器外科指導医・消化器がん外科治療認定医日本消化器病学会 消化器病専門医・消化器病指導医日本消化器内視鏡学会 消化器内視鏡専門医・消化器内視鏡指導医日本内視鏡外科学会 技術認定取得者(消化器・一般外科領域)日本消化管学会 胃腸科専門医・胃腸科指導医日本腹部救急医学会 腹部救急認定医・腹部救急教育医日本食道学会 食道科認定医
1978年東京慈恵会医科大学卒業。1982年東京慈恵会医科大学大学院卒業。1982年より東京慈恵会医科大学第二外科学教室医員を経て1992年東京慈恵会医科大学第二外科学教授講師。附属病院消化管外科診療部長、外科学講座教授を得て、現在富士市立中央病院院長。食道の良性疾患(食道アカラシア、胃食道逆流症、食道裂孔ヘルニアなどの非がん疾患)のスペシャリストとして臨床に携わる。
柏木 秀幸 先生の所属医療機関
関連の医療相談が15件あります
健康診断(胃カメラ)の結果を受けての対応について
数年間続けて、健康診断で慢性胃炎と診断されていたので、2007年にピロリ菌の除菌を行い成功しました。 2021年に健康診断で胃カメラを利用しました。その結果 逆流性食道炎 食道裂孔ヘルニア 萎縮性胃炎 と診断されました。現状は経過観察をしております。 この診断を受けてから、20時以降の食事を控え、留意してきたのですが、2022年の健康診断の結果では、びらん性胃炎も加わり、自覚症状はないものの症状が悪化しているように思われます。 健診時の問診では、担当された医師から胃薬を飲んでもよいかもと言われましたが、治療にいくようには言われていません。 経過観察を継続していくことの他、対応すべきことはありますか。 胃薬を飲む場合は、市販の胃薬で問題ないでしょうか。
食道裂孔ヘルニアと言われました
よろしくお願いします。 アメリカ在住です。 逆流性食道炎なので、検査を受けた所、食道裂孔ヘルニアと言われました。 治すには手術とも言われました。まだ外科医には会っていません。 どのような手術になるのでしょうか。 お教えくださいませ。
3日前から食欲低下等の症状が悪化
2年前の人間ドックで逆流性食道炎、食道裂孔ヘルニア、ピロリ菌感染の結果でした。以後、年1回人間ドックを行い、同じ結果に至ってます。症状がないため医療機関にはかかっていません。今年の4月くらいから、げっぷや胃もたれが多少気になりはじめた。 7月に人間ドックをやり、同じく逆流性食道炎と言われたのですが、縦に赤くなっている箇所の周辺粘膜がざらざらしているので生検をとって癌が隠れてないか検査しますと言われました。2週間前にドックを受け結果はまだ届いていません。 ドック以降、胃のむかつきや、胃もたれ等が気になりはじめ、3日前からは症状がひどくなり、加えて食欲低下、満腹感も出て体重も減少してきました。ここ2週間ほど睡眠もしっかりとれてない状況です。 検査結果がまだなんですが、急激に悪化するものでしょうか?また、検査結果が1ヶ月ほどで届くみたいですが、それまで今の状態が続くとつらいので、地域の病院に受診を考えたほうがいいでしょう?
医療機関に通院し、薬を服用しても効果がない
数年前から、胸焼けの症状が出始め、一年半ほど前から医療機関に通っています。現在では一日中胸焼け、もたれ、胃部膨満感、みぞおちの痛み、消化不良など胃の不快が続いている為、胃腸科で内視鏡検査を受けました。結果は、胃は異常なしで、食道に少し炎症があり、食道裂孔ヘルニアと診断されました。ピロリ菌検査は−でした。病院も変えてみたり、自分なりに食生活も変えてみましたが、薬を服用しても変えてもらっても一向に良くなりません。 医師は、普通はこれで治るから、と。胃の不快がひどく、生活に支障をきたし、仕事も週に2日くらいがやっとです。このままガマンするのが辛いので、自分なりに調べたところ、症状がFDの症状に似ています。横になっている時に時々胃酸が逆流する事があった為、胃酸を抑える薬を服用しています。が、胃の不快は続き、何とかして原因をつきとめ、少しずつでも症状を和らげたいです。よろしくお願いします。
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