患者さんの生命予後を改善する治療の実現を目指して

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患者さんの生命予後を改善する治療の実現を目指して

循環器系疾患の治療の発展に貢献するべく臨床・研究に力を注ぐ日比潔先生のストーリー

横浜市立大学附属市民総合医療センター 心臓血管センター循環器内科 准教授
日比 潔 先生

日比潔先生が目指す「よい医療」とは?−その実現に向けて

第一に「患者さんの生命予後を改善する」ことを目指し、治療法を検討する

医師たるもの、やはり心の根底に「患者さんの命を救いたい」という気持ちがあります。ですから私は、循環器内科医として、患者さんの命を救うことに直結する医療、医学的に言えば「生命予後を改善する医療」の実現を目指して、日々の診療にあたっています。

たとえば、心筋梗塞の既往歴を持つ方に対しては、再発のリスクが高い点を考慮し、まずは生命予後を改善することを目指して二次予防を行います。さらに、患者さんのQOL(生活の質)を向上させることを目標として、症状を改善するための治療を検討します。

*心筋梗塞の二次予防・・・心筋梗塞後の症例を心血管系事故から予防すること。心事故とは心臓死(致死性心筋梗塞、心臓突然死、心不全死)および非致死性心筋梗塞を指し、心血管事故とは薬剤抵抗性狭心症、心不全による入院、脳卒中などを指す

日々の診療では、どのように患者さんと向き合っているのか

循環器内科医の基本である「聴診」は欠かさない

診療において、「聴診」を欠かすことはありません。なぜなら、聴診を行うことは循環器内科医としての基本であると考えており、さらに、循環器系(心臓や血管)の異常にいち早く気づける可能性があるからです。

たとえば、劇症型心筋炎は、心臓の筋肉がウイルスなどの感染によって炎症を起こし、急激な経過をたどり命にかかわることもある病気ですが、聴診によって頻脈や心音微弱、過剰心音などの異常が早期に発見されれば、適切な治療を実施できる可能性があります。そのような病気を含めて、何かしらの異常を発見する可能性を逃さないためにも、私は基本的に聴診を欠かさず、患者さんの心音に細心の注意を払って診療を行っています。

忙しい日々でも、患者さんとしっかりコミュニケーションをとる

医師として心がけているのは、忙しいなかでも可能な限り患者さんとしっかりコミュニケーションをとること。病棟には1日1回は顔を出して、外来では可能な限り患者さんを診察します。そのようなコミュニケーションの積み重ねが、患者さんやご家族との信頼関係の構築につながるからです。

また、患者さんに観血的治療(外科的治療)のメリットとデメリットをご理解いただくための時間は惜しみません。あらゆる治療には副作用や合併症などのリスクが伴います。そのため、私たちは患者さんに治療のメリットとデメリットをしっかりとご説明し、最終的に治療の進め方について選択していただきます。そのうえで患者さんが「手術はしない」と決定されたときには、私たちはその意思を尊重し、手術以外の方法で最大限の治療を目指します。

日比潔先生の原動力とは?

医師という仕事が好き。「ありがとう」と感謝されれば医者冥利に尽きる

「原動力は何か」と聞かれて、正直なところ明確な答えは持ち合わせていませんが、私は、仕事始めの月曜日を憂鬱に感じたことはこれまで一度もありません。結局のところ、この仕事が好きなのでしょう。そして、自分たちの仕事が、患者さんやご家族のために、ひいては社会のためになっているという感覚がやりがいとなり、いつも、私の背中を押してくれます。

患者さんに「先生のおかげでよくなりました、ありがとう」という感謝の言葉をいただけたなら、それは医者冥利に尽きるというもの。このような、患者さんから直接いただく感謝の言葉は、医師に限らず、医療従事者であれば皆、とても嬉しいものだと思います。私はこの仕事に巡り会えたことを、心から幸せに思います。

医師を志したきっかけ、循環器内科医になった理由

内科医だった父からのすすめで、自然と医師を志した

幼い頃から、内科医として働く父の姿を見ていました。地域の患者さんから頼りにされ、やりがいを持って働いていた父は、私に、「医者はいい仕事だぞ」とたびたび話してくれました。そのような背景があり、自然と医師を志すようになりました。

そして、進路を選択する高校2年生の頃までに、医師にもさまざまな生き方があることを知ります。それはたとえば、父のように開業して地域の患者さんと触れ合いながら臨床を貫く道や、大学病院などで治療を提供する道、あるいは、研究を通じて医学の発展に貢献する道などです。

当初、私は外科医を志していました。よい外科医になるための方法を模索するなかで、「よい外科医になるためには、手先が器用でなければいけない」と思い、両手を使えるようになるために、利き手ではない左手で食事をしたり、箸で米粒をつまんだり、そのような日常の細かな動作で訓練をしたものです。

その後、当時の教授に影響を受け、高血圧治療の研究・臨床に携わりたいと考えた時期もありましたが、研修医としてさまざまな診療科をまわるうちに、循環器内科での臨床に強く興味を惹かれ、その道に進むことを決めました。

医師としてのターニングポイント

米国スタンフォード大学に留学し、血管内超音波について知見を得たこと

1998年に米国スタンフォード大学へ留学したことが、医師としての人生におけるターニングポイントであったと捉えています。それまでは、大学院で遺伝子学の手法を用いた臨床研究を行っていました。当時、私は、基礎研究の重要性を理解しつつも、「もっと現場で患者さんと向き合う治療をしたい」という思いから、臨床への転身を希望していたのです。そして、周囲の方々の理解や応援があったおかげで、留学の公募に手を挙げることができ、無事に奨学生としての留学が決まりました。

留学先の様子(前列右:日比先生)

米国に渡り、留学先では、血管内超音波(超音波を用いて血管内部の断層画像を観察する画像診断法)を学びました。この頃に習得した血管内超音波に関する知見や経験は、循環器内科医として非常に有益なものでした。そして、本当に自分が打ち込むことのできる分野に出会った確信がありました。「この分野で何かしらの功績を残し、医学・医療に貢献したい」と考えるようになったのです。

当時、日本ではまだ血管内超音波を用いた治療は多く行われておらず、私は、留学先で得たカテーテル治療の知識を活かして、日本における血管内超音波の普及に努めました。

現地の教授や学生はもちろんのこと、日本人留学生との出会いもたくさんありました。そのなかには、現在も各分野におけるオピニオンリーダーとして活躍されている方が数多くいらっしゃいます。留学先で出会った方々とのご縁は、私の大切な財産の1つです。

留学先の様子(左から2人目:日比先生)

日比潔先生が抱く現在の思い、これからの展望

カテーテル治療の分野は発展途上。よりよい治療を追究し続けたい

医学・医療技術の発達により、循環器系疾患に対する治療は大きな発展を遂げています。

なかでも、カテーテル(細い管)を脚の付け根などにある動脈から挿入し、病変部まで到達させて行う「カテーテル治療」の進歩は目覚ましく、より低侵襲な(身体的な負担が少ない)方法で、さまざまな循環器系疾患を治療することが可能になりました。また、私が留学中に学んだ「血管内超音波」は、PCI(経皮的冠動脈インターベンション治療)などのカテーテル治療において、治療戦略の構築や合併症の予測などに役立てられています。

さらに、大動脈弁や僧帽弁の弁膜症疾患に対するカテーテル治療の進歩も目覚ましく、徐々に、経カテーテル大動脈弁置換術や経カテーテル僧帽弁形成術などが一般的に行われるようになってきました。従来は手術でしか治療できないケースが多かったという背景があり、現在では身体的な負担が少ない治療の選択肢が増えたことを考えると、その価値は大きいです。

今後、遠くない将来には、経カテーテル僧帽弁置換術や三尖弁形成術なども導入されていくことを期待しています。冠動脈のカテーテル治療が始まった頃と同様に、このような新しい治療の発展に携わり、育てていくことにやりがいを感じます。

循環器系疾患に対するカテーテル治療はある意味で発展途上であり、その分、将来性があるともいえます。私はこのような分野で、より安全性や質の高い治療を追究していくことを、自身の使命と考えています。

現在、後進の教育にも関わっており、そのなかで私は、「臨床研究によって臨床レベルの向上に寄与することの重要性」を伝えています。治療中の小さな気づきや疑問をそのままにせず、データを集め、自分の手でしっかりとまとめること。そして、学会や論文で発表すること。その積み重ねは、大きな発見につながる可能性があり、ひいては、世界における循環器系疾患に対する治療の発展に貢献するかもしれません。

私はこれからも、カテーテル治療を始めとする循環器系疾患に対する治療の発展に少しでも貢献するために邁進し、また、患者さんの治療に尽力し続けます。

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  • 横浜市立大学附属市民総合医療センター 心臓血管センター循環器内科 准教授

    1998年より米国スタンフォード大学で血管内超音波を学び、血管内イメージングを中心にした冠動脈疾患の臨床、研究に注力してきた。最近では、大動脈弁狭窄症のカテーテル治...

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