治療したらよくなりますよね?

日本医科大学大学院医学研究科アレルギー膠原病内科学分野 大学院教授  日本医科大学付属病院 リウマチ・膠原病内科 部長
桑名 正隆 先生

治療したらよくなりますよね?

難治性病態の解明に挑み続ける桑名正隆先生のストーリー

公開日 : 2017 年 08 月 29 日
更新日 : 2017 年 08 月 29 日

医師への憧れではなく、免疫への興味から医学部へ

私は子どもの頃から「医師にだけはなりたくない」と思っていました。それは、消化器内科医として、家庭を顧みることのできない多忙な日々を送る父をみてきた影響です。

医学部への進学を決めたのも、医師への憧れからではありません。きっかけとなったのは、高校生のときに取り組んだ課題です。テーマは「免疫」で、それについて調べるなかで、敵味方を区別して作動する巧妙な免疫のシステムに大きな興味を抱いたのです。

「もっと免疫のシステムを知るために研究したい」

という興味で医学部へと進学します。

なかでも膠原病を専門とすることに決めたのは、たまたま出席した大学の授業がきっかけです。それは、後に入局する慶應義塾大学医学部リウマチ内科の教授であり、恩師となる本間 光夫先生の授業でした。

そこで私は初めて「自己免疫」のことを知ります。本来は体の外部から侵入してくる細菌やウイルスを攻撃・排除するために存在する免疫システムが、自分自身を攻撃してしまうことで生じる自己免疫疾患。そのメカニズムに強い興味を抱いた私は、自己免疫疾患の代表である膠原病を専門とすることに決めたのです。

「治療したらよくなりますよね?」答えられない現実

自己免疫への強い興味から膠原病内科の道に進んだ私ですが、実際に患者さんの担当医として診療に携わるようになった当初は

「大変な道を選んでしまった。」

と少なからず思ったものです。

というのも、膠原病に罹患した20歳代〜30代の若い女性が次々と亡くなっていくシーンに立ち会ったからです。現在と異なり、私が医師になったばかりの頃は、まだ病態の解明が十分進んでおらず有効な治療法が少ないばかりか、治療に使うステロイドの副作用で命を落とす方も少なくありませんでした。

当時は膠原病を専門とする診療科を持つ病院自体が非常に少なく、日本中で数えるほど。慶應義塾大学病院には、日本全国から膠原病の患者さんが押し寄せていました。

今でも、担当した患者さんはすべて覚えています。なかでも、印象的だった患者さんがいます。彼女は20歳代半ばで、お子さんが生まれて半年ほどで膠原病と診断を受けました。重症の肺高血圧症に罹患しており、当時は有効な治療法が無く、余命は1年以内であることは明らかでした。彼女から

「まだ子供が小さいので、早く良くなって退院しないと。治療したらよくなりますよね?」

と尋ねられました。

私は彼女の質問に、きちんと答えることができませんでした。病態もよくわからず、有効な治療法も提案できない当時、患者さんが納得できる説明をする自信がなかったからです。目の前の現実から逃げ、患者さんへ疾患の治療法や予後を正しく伝えてあげることができなかったことを後悔しました。

彼女の病状は徐々に悪化し、結局、1年もたずに亡くなってしまいました。このような膠原病の難治性病態の患者さんたちとの印象的な出会いを通して、私は医師としてある決意を固めます。

「膠原病の難治性病態を克服する」

という決意です。

有効な治療法がない病態の解明に取り組み、診療体系を変えることで、命を落とす患者さんを救いたいと思うようになったのです。

世界を結ぶ絆が財産

難治性病態の解明や治療法の確立には、個人や単施設での研究だけでなく、国際協調による取り組みが必要です。たとえば、北米や欧州で使用が認められている有効な治療法が日本で使用できない場合、患者さんを救えるチャンスをみすみす逃すことになるからです。

そのため、長年精力を傾けている強皮症(きょうひしょう)などの難治性病態に対する新薬のグローバル治験に、日本の施設も参加できるよう積極的に働きかけてきました。

この取り組みによって、日本でも、有効な治療薬が欧米と同じタイミングで使えるようになっています。これを可能にしているのは、私が留学時に築いた大切な人脈です。

1993年〜1996年の間、当時世界最大の強皮症センターがあったアメリカのピッツバーグ大学に3年間留学しました。当時は、日本よりもアメリカの方が医学レベルは高く、最新の診療や医学研究を学ぶことができました。そこで医師としての心得や、全人的医療の重要性を学ぶことができたことは、その後の医師としてのキャリアにとって大変貴重な経験になりました。

さらに、留学から得た一番の財産は、強皮症領域の世界の研究者やエキスパートとの絆です。当時留学先で出会った若い世代あるいはその結びつきで知り合った方々が、アメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、イタリアなど、今ではそれぞれの国、さらには世界を代表する強皮症のオピニオンリーダーになっています。

国際的な強皮症の分類基準やガイドラインの作成や、治験実施を含めた新薬開発の際にも、世界中の仲間とともに取り組んでいます。

個人にできることには限りがあり、大きな目標を達成する際に大切なものは人と人との信頼関係による協調です。顔をつきあわせて議論できる関係が、医学の進歩に重要な役割を果たすのではないでしょうか。

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日本医科大学大学院医学研究科アレルギー膠原病内科学分野 大学院教授  日本医科大学付属病院 リウマチ・膠原病内科 部長

桑名 正隆 先生

アレルギー・膠原病分野を専門とし、関節リウマチをはじめとした炎症性骨関節疾患、全身性エリテマトーデス、強皮症、多発性筋炎/皮膚筋炎、ベーチェット病、各種血管炎症候群など多岐にわたる疾患に精通している。特に全身性強皮症の診療においては、第一人者としてガイドライン作成にも尽力している。

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