秦野赤十字病院は1938年に設立され、今日まで秦野市の中核病院として地域に貢献してきました。そして現在、新たなグランドデザイン(全体構想)を定めることにより、さらなる発展が期待されています。 秦野赤十字病院の特徴や今後の展望について院長の田中克明先生にお話を伺いました。
秦野市は人口およそ17万人、神奈川県では珍しく古墳を有するのどかな地域です。盆地という地形の恩恵もあり、古くから多くの方が暮らしています。また、江戸時代には茨城県、鹿児島県と並び3大タバコの産地としても知られていました。このような、めぐまれた土地柄で、秦野赤十字病院はおよそ80年に渡って地域の中核病院としてさまざまな治療にあたっています。
当院が設立された当時、秦野は市ではなく、今の秦野市本町を中心とした「秦野町」とその東西南北を取り囲む4つの村から構成される地域でした。
当院はこれらの町と村で構成された組合立の診療所として誕生しました。地域に根付いた医療を提供してきた経緯から、今も昔も秦野市民の健康を守ることが当院の1つの大きな使命であると自負しています。
またこのような背景から秦野市周辺の地域の方との関わりも深く、病院内では古くから地域のボランティア活動の方々が多数活躍されています。病院1階の大階段に飾られた四季折々の飾りや植物は市民の皆様方から寄贈されたものであり、全てボランティアさんの管理のもと行われています。
1階ロビーの飾り。地元住民の寄付による5月人形や鯉のぼりが飾られていた。
当院は設立当初から日本赤十字社に経営移管され、現在では日本赤十字社が運営する全国92病院のうちの1つという位置付けとなっています。日本赤十字社は国際赤十字の中の1機関であり、全社を通して地域の方の医療だけでなく、災害時の救護などにも力を入れています。日本赤十字社の一員として当院が使命感を持って行なっていることは下記の通りです。
日本赤十字社は日本初の看護教育を行なった医療機関として知られています。そのため、当院でも看護教育を熱心に行っています。全国赤十字病院共通の「赤十字キャリア開発ラダー」に基づき、実践者と管理者が共にステップアップできるのが特徴となっています。
日本赤十字社は災害医療に従事していることでも知られています。当院にも災害医療に携わりたいという思いで入職される医師・看護師が多くいます。当院には常備救護班が5つあり、平時から災害の発生に備えています。また、毎月全職員を対象に、災害総論、一次・二次トリアージ、救護所活動等の講義を行い、その後は机上訓練、全職員での合同防災訓練と続き、突然の災害に備えています。
秦野赤十字病院では、循環器内科、腎臓内科、泌尿器科の診療が充実しており、それぞれ専門的な治療を行っています。
当院では心臓カテーテル治療における症例を全てホットラインで受け入れています。循環器疾患は一刻を争う病状が多く、早急な対応が必要です。そのため24時間体制で緊急対応が行えるような体制を整えています。
当院の腎臓内科は秦野市内唯一の人工透析ができる病院として、年間9300件以上の新規患者さんを受け入れています。また、県西部には透析を導入できる病院が少ないため、市外からいらっしゃる患者さんも多くいます。
当院の泌尿器科の特徴は、一次、二次、三次医療にまたがる幅広い治療を行えるところにあります。診療できる疾患の幅が広く、前立腺がんや腎がんなど泌尿器のがんから、尿道結石、性機能障害などさまざまな疾患を診ています。治療処置としましても、秦野市の泌尿器科で唯一手術を含む高度な治療を行うことができます。
私は2017年1月に秦野赤十字病院に赴任し、同年3月に院長に就任しました。秦野赤十字病院が今後より一層地域に愛される病院になるため、任期7年を通じて全力で取り組んでいきたいと考えています。現在、職員全員の考えを1つにまとめる作業をしているところですが、課題と捉えて早急に取り組みたいと考えていることは下記の2つです。
神奈川県は医学部を持つ大学が多いにもかかわらず、県内で活躍している人口当たり医師数が全国平均より少ないという問題があります。加えて、若い医師は横浜などの都市に集まる傾向がある反面、県西部・北部地域は医師が集まらず、秦野市もその中に含まれます。
医師が少ないと、救急医療が制約を受けたり、一般診療でも受け入れられる患者数が減ったりと、地域医療にとって大きな弊害が起きてしまいます。当院でも医師を今すぐに増やすことは難しいのですが、制約のある中で地域のニーズを的確に捉え、秦野市民に充実した医療を提供できるよう、下記のようなことを構想しています。
真っ先に取り組みたいと考えていることは、24時間受け入れ可能な、断らない救急体制の確立です。具体的には3年後の2020年を目処に、各診療科の充実を待って急病センターを発足させる等、院内医師の協力体制を作っていきたいと考えています。
そのために現在行っていることは、日中の医師・看護師が多い時間帯においては二次救急を断らないよう指導しています。将来的には夜間にも手術ができるような環境を作り、夜間救急も100%受け入れられるような体制を築いていきたいです。
当院にはもともと消化器内科と消化器外科がありました。しかし、近年の消化器内科撤退により患者受入れが制限され、それに伴い外科も十分に手術ができないという事態が起こってしまいました。当院で手術ができなければ、近隣のクリニックも紹介先に困ってしまいます。この医師不足を解消すべく、2017年から私を含めた消化器内科の医師を増員し、現在力を合わせて治療を行っています。
将来的には内科・外科が協働し、消化器病センターという形で運営することも考えています。消化器内科・外科の連携が密になり、幅広い治療が提供できるようになれば、近隣のクリニックの先生も安心して当院にご紹介していただけるようになるでしょう。
医師不足が際立つ秦野市では、このような取り組みを行ってもなお、当院だけで全ての診療科を網羅することは難しいでしょう。秦野市民の健康を守るためには、秦野市の医療機関がそれぞれの得意な診療科を持ち寄り、補完し合う関係を構築することで地域完結型の医療体制を作っていくことが必要であると感じています。
たとえば当院は前述の通り循環器内科、腎臓内科、泌尿器科の治療が充実しているほか、医師数は少ないものの眼科や糖尿病内科、整形外科も精力的に治療を行っています。これらの診療科の成果を伸ばしていくことで秦野市全体の医療に貢献していきたいと思います。
一方で、この地域には呼吸器疾患や重症心身障害児医療に強い国立病院機構神奈川病院、今後お産・分娩を行う予定の医療法人杏林会八木病院など、当院とは補完できる分野で活躍されている病院もあります。このような病院との協力体制を強め、それぞれが得意とする治療を補完しあうことで、秦野市周辺の地域にお住いの方々により安心していただけると思っています。
秦野赤十字病院は、医師に対しても働きがいのある病院でありたいと考えています。地域の中核病院として、さまざまな疾患を抱えた患者さんを診る機会があります。そのため、当院の医師はオールラウンドな知識を身につけることができます。
また、医師の居室がオープンスペース化され、1つの場所に集約されていますので、相談事や質問があれば、他科の先生にすぐに相談できるのも魅力でしょう。
今、当院は大きく変わろうとしています。救急体制の充実や他院との協力が整うまでの1〜2年は医師の皆さんにも少々負担をかけることになるかもしれません。しかし、その先には患者さんに「ありがとう」といっていただけるような信頼される病院の姿があると信じています。
私は秦野市の中核病院に勤める者として、土地に住まう人々に敬意を払って病院運営に取り組みたいと思っています。そのため着任時には秦野市の歴史や成り立ちについて勉強しました。景色が美しく、文化的にも栄えてきたこの街の医療をよりよいものするために、秦野赤十字病院はこれからも一丸となって邁進していきます。
秦野赤十字病院 院長
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