将来を見据えながら地域医療の中枢を担う公立置賜総合病院

山形県東置賜郡川西町にある置賜広域病院企業団 公立置賜総合病院（以下、公立置賜総合病院）は、置賜地域で唯一の救命救急センターを備え、三つのサテライト施設と連携して地域医療を担う高度急性期の病院です。

医療再編による2000年の開院以来、同院は精神科病床の統合や研修医を育成するためのレジデントハウスの建設など、医療体制の改革を積極的に行ってきました。

そんな同院の特長について、渡邊 丈洋(わたなべ たけひろ)企業長、江口 英行(えぐち ひでゆき)院長にお話を伺いました。

山形県の医療圏は置賜、村山、最上、庄内という四つの地域に分かれていますが、唯一置賜地域だけは県立病院などの大規模な病院がありませんでした。そのため、置賜地域の重症患者さんは近隣の地域に搬送されており、地域内で急性期医療を完結させる体制が必要とされていました。そういった地域住民の声が高まる中、置賜地域の2市2町で医療再編が行われ、2000年に当院が誕生します。

新体制では、急性期医療を担当する当院を中心に、長井病院など既存の3施設をサテライト医療施設として位置付け、初期医療や慢性期医療の役割を分担しました。また、医療再編の対象となった飯豊町国保診療所との協力体制も整えています。

今でこそ厚生労働省による地域医療構想が推進されていますが、当時、公立病院の再編は全国的にも珍しく、当院の取り組みは広域医療再編のモデルケースとして全国から注目を集めました。

現在、当院は496床の病床や置賜地域で唯一の救命救急センターを備え、地域がん診療連携拠点病院や災害拠点病院などの役割を全うしています。

また2018年には、サテライト施設である公立置賜長井病院の精神科病床を総合病院へ集約し、46床の精神病床を活かして身体合併症患者への対応や精神科の救急受け入れに努めています。さらに当院は、臨床研修指定病院として医療人の育成にも力を入れており、2019年にはレジデントハウス（研修医用宿舎）を整備して多くの研修医を受け入れています。

高齢化する地域で求められる医療を真摯に提供していく

当院は一次脳卒中センターに認定されており、地域の脳血管疾患の治療の中心を担っています。特に、年間100例以上のペースで手術を行う脳動脈瘤の血管内治療は、県内で見ても非常に多くなっています。さらに、置賜地域は豪雪地帯なので、大雪で転倒して当院に来院される患者さんも多く、整形外科でも多数の患者さんを受け入れています。

また、近年、高齢化に伴ってさまざまな疾患をもつ高齢の患者さんが増え、からだ全体を総合的に診る全人的医療が求められるようになりました。そこで当院では総合診療科を開設し、介護、福祉、予防医療を視野に入れた幅広い医療を提供しています。特に、複数の疾患を抱える患者さんや症状がはっきりしない患者さんをたらい回しにさせないように、どんなご相談にも親身に対応するよう努めています。

それに加え、当院は県内で初めて総合診療科の専門医の育成プログラムを提供するなど、充実した研修体制で人材育成に努めています。

さらに当院は現在、電子カルテとともに画像診断のデータをサテライト施設と共有して治療に役立てています。このような連携をますます強固にすることで、地域にお住まいの皆さんのいざというときに、より質の高い医療を提供できるよう今後も努めてまいります。

新しい医療機器を積極的に導入してがん治療に取り組む

当院は地域がん診療連携拠点病院として、新しい機器を積極的に導入しています。置賜地域で唯一の放射線治療施設でもある当院はその責任を果たすべく、2012年には320列マルチスライスCT装置を導入し、より低侵襲（からだへの負担が少ない）で正確な検査を行えるようになりました。また、2023年には放射線治療機器を更新しています。

がんの手術においても、2024年度中に手術支援ロボットの導入を予定しており、前立腺がんなどのがん診療に活用していきたいと考えています。近年著しい進歩を見せるがんの化学療法についても“化学療法センター”にてリラックスいただきながら日帰り治療を行っているほか、これら3つの治療法による集学的な治療で患者さんに合わせたがん治療を提供しています。

当院は、2022年から薬剤師奨学金返済支援補助事業をスタートしました。これは、当企業団で努める薬剤師の方を対象に、最大500万円の奨学金返済を補助する取り組みです。少子高齢化の進展に伴い、年々医療従事者の確保は困難になっています。当院としては、こうした取り組みによって安心して医療活動に打ち込める環境を用意し、人材確保につなげる考えです。

一方、当院は地域交流にも積極的で、2024年度はコロナ禍で中断していた“おきたま病院 健康まつり”を開催しました。このイベントは、地域の皆さんと交流を深めることで当院を知って頂き、健康の大切さを改めて認識してほしいという思いで始めました。心肺蘇生に用いるAED体験などを通じて、子どもや学生さんにも医療活動の尊さを実感して頂き、一人でも多くの若者が医療従事者を目指すきっかけになればと願っています。

当院は、理念として掲げる“心かよう信頼と安心の病院”を実現するため、医師やコメディカルが一丸となってチーム医療に取り組んでいます。どの職員も思いやりをもって患者さんに接していますので、少しでも気になる症状があればお気軽にご来院頂ければと思います。

当院はこれからもサテライト施設や近隣の医療機関と連携し、置賜地域の中核的な病院として地域の皆さんを支え続けて参ります。今後もよりよい医療体制作りを目指してスタッフが一丸となって取り組んでいきますので、よろしくお願いいたします。