院長インタビュー

人々が安心して暮らせる地域社会づくりのために

人々が安心して暮らせる地域社会づくりのために
牧野 憲一 先生

旭川赤十字病院 院長

牧野 憲一 先生

この記事の最終更新は2017年08月09日です。

旭川赤十字病院は、1978年(昭和53年)に救命救急センターを設置して以来、「人々が安心して暮らせる地域社会づくり」をスローガンに、道北における救急医療の要として、大きな役割を担ってきました。

救急外来の診療体制を確保し、年間4,500台以上の救急車を受けて入れています。また、2009年(平成21年)からドクターヘリ事業の基地病院として、道北の救急・地域医療に貢献しています。

一方、地域の医療機関との協力にも力を入れています。旭川赤十字病院が持つ患者の電子カルテ情報を、かかりつけ医と共有できる「たいせつ安心i医療ネット」を設立し、運用しています。この「たいせつ安心i医療ネット」を活用することで、患者の既往歴や投薬状況について、市内の5つの公的病院に加え、地域のかかりつけ医とも情報共有しています。万が一、救急搬送された場合でも、かかりつけ医の情報をもとに、救急医が適切な処置をすることができます。

旭川赤十字病院は、救急医療に軸足をおいた急性期病院で、入院患者も救急で運ばれてきて患者さんの占める割合が、非常に高いです。大学病院などでは、あらかじめ検査や必要な診察を終えてから入院する「予定入院」の患者さんが大部分を占め、この点が当院の特徴といえるかもしれません。

また、救急で運ばれてくる患者さんとしては、とくに脳卒中の方が多いです。神経内科と脳神経外科両方の専門医が在籍する医療機関は、旭川市内では医大病院を除けばここ旭川赤十字病院だけであり、高度な処置が可能です。そのため、旭川市内の脳卒中の患者さんの7割から8割は当院に運ばれてきます。脳卒中患者さんの取り扱い件数は、2017年2月に公開された厚生労働省のデータで全国第10位でした。

2009年(平成21年)より、旭川赤十字病院はドクターヘリ事業の基地病院になっています。携帯無線から出動要請が来ると、ドクターヘリ搭乗スタッフは直ちに出動します。出動要請からわずか3分以内には離陸し、救急現場へと向かいます。旭川赤十字病院は、上川・留萌・宗谷・空知・オホーツク・十勝の一部地域までをカバーし、その範囲はなんと九州の面積に匹敵します。

ドクターヘリには救急医療の専門医と救急医療に熟練した看護師が同乗し、現場でただちに救命医療を行えます。医師・医療スタッフが現場に一刻も早く駆けつけることで、救命率の向上や後遺症の軽減に貢献しています。

ドクターヘリに搭乗する救急医には、何が必要な処置なのかを瞬時に判断できる高いスキルが求められます。加えて、患者さん容態や地域性を考慮して適切な搬送先を選定する能力も重要です。当院には、このような能力をもった救急医が多数在籍しており、地域の方々に安心した暮らしを提供しています。

北海道がん診療連携指定病院としての役割

旭川赤十字病院は、これまでのがん治療における手術、緩和ケア医療、化学療法等の実績が評価され、2013年4月1日、「北海道がん診療連携指定病院」に指定されました。 これは国が指定する「がん診療連携拠点病院」に準じた診療機能を有する病院だと北海道から評価されたことを意味します。

北海道がん診療連携指定病院は具体的には、

  • 専門的ながん医療の提供
  • がん診療の連携協力体制の整備
  • 患者さまへの相談支援や情報提供等

の役割を担います。

旭川赤十字病院で診療するがんの種類は、消化器がん・血液がんが多くを占めますが、もちろん乳がん卵巣がん・泌尿器がんなどのがんにも対応しており、化学療法と緩和療法を得意としています。

緩和医療(ホスピス医療)では、『緩和ケアチーム』という多職種の医療専門職による専門チームが、主治医や医療スタッフと協力して関わりながら患者さんやご家族に緩和ケアを提供しています。

例えば、安楽な身体の動かし方や筋力低下を防ぐ方法を支援する「理学療法士」や、経済的・社会的な問題解決や退院後の療養先や在宅医療などの調整を行う「医療ソーシャルワーカー」などが、患者さんとご家族が自分らしく過ごせられるようにサポートしています。

『がん相談支援センター』では、電話相談または予約制で対面相談を受け付けています。患者さんやご家族をはじめ、旭川赤十字病院を受診されていない方でも無料で利用することができます。がんに関わるさまざまなご相談を伺い、患者さんやご家族の不安や困ったことを少しでも解消できるようサポートしています。

旭川赤十字病院では、患者さんに対して「たいせつ安心i医療ネット」への登録を勧めています。この「たいせつ安心i医療ネット」とは、旭川市内の5つの公的病院と地域の開業医の間で電子カルテ情報を共有するというものです。

電子カルテ情報を共有することには様々なメリットがあります。

「たいせつ安心i医療ネット」には、過去の診療内容や画像情報・検査データなどが登録されており、他の医療機関を受診した際、手紙や紹介状がなくても、患者さんの情報を医師が確認できます。

かかりつけ医が持つ患者さんの情報だけでなく、過去、どのような治療を受けてきたかを医師が知れるので、より素早く適切な処置が可能になります。医療機関の診療情報をを横断的に閲覧できるこのシステムはとても有益だと考えています。

また、意識のない患者が救急搬送された場合には、「たいせつ安心i医療ネット」の情報を参照することで、その患者さんの既往歴や現在の治療の有無を知ることができます。これは1分1秒を争う救急医療の現場ではとても大切なことです。

2017年4月現在、「たいせつ安心i医療ネット」の参加施設数は134施設(医療施設118、調剤薬局15)、登録患者数は28,400人を超えました。参加医療施設も旭川だけにとどまらず、上川・富良野・留萌・宗谷および深川など道北の広大なエリアにまたがるまでに成長しました。これはドクターヘリの運航圏とも重なるので、ドクターヘリでの救急搬送時でも大いに役立っています。

これまでの地域連携とは、まず開業医で診察を受け、開業医ではできない治療は開業医からの紹介を受けて病院が受け持つ。そして、治療の後に、地元のクリニックに再び逆紹介し連携するという仕組みのことでした。しかし、患者さんと開業医の双方に「かかりつけ医」の意識を高めてもらうことを目的に、2016年6月からさらに一歩踏み込んだ地域連携を実施しています。

プロセスとしては次の通りです。

① 入院した患者さんに「あなたがいつも行っている病院はどこか」と尋ね、かかりつけ医とまず連絡をとる

 旭川赤十字病院で行った処置や経過、退院後の計画などをかかりつけ医に送付する。

③ かかりつけ医は旭川赤十字病院からの情報を把握し、退院後の患者さんの状態を見守る

このやり取りを、「たいせつ安心i医療ネット」を通じて行っています。現在は、「たいせつ安心i医療ネット」を通じて市内の3~4割の開業医との連携が可能です。

「患者さんにかかりつけ医を意識してもらう」とともに「開業医にも自分がこの患者さんのかかりつけ医であることを意識してもらう。」この取り組みを通して、よりよい地域社会を作ることに、貢献していきます。

旭川赤十字病院では、質の高い医療とは何かを考え、そこから医療の質に関するクリニカル・インディケーター(臨床指標)を決めています。クリニカルインディケーター(臨床指標)とは、病院の機能や診療の状況などについて、具体的な数値で示したものです。情報を数値化することで、客観的にわかりやすくなり、目標を立てやすくなります。旭川赤十字病院のホームページには、非常に多くの項目にわたってクリニカル・インディケーターを公開しています。

また、結果だけを公開するのではなく、その結果に至った過程や今後の取り組みまでも公開しています。積極的に今後も続け、旭川から日本の医療レベルを上げようと病院全体で取り組んでいます。

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