院長インタビュー

地域とともに歩む“かかりつけ大学病院”を目指して――愛知医科大学病院の取り組み

地域とともに歩む“かかりつけ大学病院”を目指して――愛知医科大学病院の取り組み
メディカルノート編集部  [取材]

メディカルノート編集部 [取材]

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愛知県長久手市にある愛知医科大学病院は、高度救命救急センターやドクターヘリの運用など、高度な救急医療を担う一方で慢性期医療にも取り組み、地域に根ざした大学病院としての歩みを続けています。

同院の病院長である天野 哲也(あまの てつや)先生に、病院の歴史や特徴、そしてこれからの取り組みについてお話を伺いました。

病院外観
病院外観(愛知医科大学病院ご提供)

当院は1974年に愛知医科大学の附属病院として開設されました。開設から間もなく、1979年には救命救急センターを開設し、1996年には高度救命救急センターとして認定を受けました。また、2002年には国内4番目の事例であり、愛知県では初となるドクターヘリ事業を開始し、地域の救急医療に大きな転機をもたらしました。
さらに今年(2025年)には、“愛知県重症外傷センター”の指定を受けており、地域の救急医療を守る拠点として進化を続けています。

そのほかにも当院は、災害拠点病院、難病医療拠点病院、愛知県がん診療拠点病院、愛知県アレルギー疾患医療拠点病院、地域周産期母子医療センターなどさまざまな役割を担っています。

昨年(2024年)には50周年を迎え、地域の急性期医療や高度医療を担いながら、教育・研究・臨床という大学病院の使命を果たし続けてきました。今後も地域に根ざした大学病院として、日々邁進していきます。

2023年に“心不全包括管理センター”を立ち上げました。心不全の予防から急性期、回復期、慢性期まで切れ目なく診療を行えるよう体制を整えており、将来的には在宅医療も見据えています。大学病院としては画期的な取り組みであり、高齢化に伴い不安視されている“心不全パンデミック”に備えた戦略的な対応でもあります。

従来、大学病院は急性期医療や高度先進医療に特化することが多く、慢性期や在宅医療はそれらを専門とする病院へ委ねるのが一般的でした。しかし現場感覚では予防・急性期・慢性期・在宅は明確に区切れるものではありません。特に高齢化が進むなかでこの移行はますます曖昧になり、患者さんとご家族の生活にも大きく影響を及ぼしています。だからこそ、大学病院としても予防から在宅まで広く関わり、地域医療のハブとして機能していくことが必要だと考え、このセンターの立ち上げに至りました。

プロリハ
リハビリテーション施設 プロリハ(愛知医科大学病院ご提供)

今年(2025年)1月には、創立50周年事業の一環として整備した、大規模リハビリテーション施設“プロリハ”を開設しました。テニスコート6面分に相当する広さがあり、外来・入院の双方でリハビリを行っています。

この施設では、“バーチャルリアリティトレッドミルシステム”という、仮想空間で歩いたり走ったりできるシステムを導入しました。大学病院では初の導入となります。また、三次元動作分析装置や生体情報セントラルモニタリングシステムなども導入しており、患者さんの全身状態を診ることで一人ひとりに合わせたリハビリ医療の提供の実現を目指しています。

長久手市は全国的にみても若い街で、平均年齢は40歳前後です。そのため、30歳代や40歳代で心筋梗塞(しんきんこうそく)を発症して救急搬送されるケースが珍しくありません。循環器診療は高齢の患者さんが中心というイメージがありますが、当院では比較的若い世代の患者さんが多いのが特徴です。

そのため、高血圧や脂質異常といったリスクを抱える若い世代を対象に、生活習慣改善や予防医療にも力を入れています。地域の特性を踏まえた診療を展開できるのは、当院ならではといえるでしょう。

内観
病院内観(愛知医科大学病院ご提供)

長久手市には市民病院が存在しないため、私たちは大学病院でありながら市民病院のような役割も担っています。つまり、救急医療や専門性の高い医療から一般診療まで、幅広く対応する必要があるのです。

大学病院というと、規模の大きさなどから“敷居が高い”ような、気軽にかかりづらいイメージをお持ちの方も少なくないかもしれません。しかし当院は、“かかりつけ大学病院”のような存在として患者さんを積極的に受け入れ、重症度に応じて適切な医療機関につなげていければと考えています。地域の医療資源が限られているなかで、当院のような大学病院でもトリアージの機能を担うことにより、地域医療全体を安定させていければと思います。

当院は大学病院として、診療だけでなく研究成果を地域に還元する取り組みも行っています。たとえば、循環器領域で長年取り組んできた“EPA/AA比(魚を食べることで高まるとされる数値)”を長久手市の検診項目に一時期導入しました。これにより心疾患予防の精度が高まりました。今後はさらに、心不全の重要なマーカーである“BNP”を検診に加えるため、市との協議を進めています。財政的課題は残りますが、行政との協働を通じて地域の予防医療を充実させていきたいと考えています。

患者さんや地域の先生方の利便性を高めるために、連携医療機関向けのWeb予約システム*を導入しました。循環器内科をはじめ、眼科、歯科、放射線科、検査部で利用されています。すでに地域の医師からは評価をいただいていますが、全診療科に拡大するにはまだ意識改革が必要だと感じています。利便性を実感しながら、病院全体に広げていくことが今後の課題です。

また、従来は各診療科で属人的に行われていた地域連携を、全診療科で統一的に進められるよう独自のマニュアルを作成しました。循環器領域で作り上げてきた前方・後方連携の仕組みをモデルにし、今後は全ての診療科に応用していく予定です。戦略を持って地域とつながることが、病院経営と地域医療の両立につながると考えています。

*Web予約システムは連携医療機関向けのシステムであり、患者さんは使用できません。

私が医師を志したのは、子どもの頃に母が体調を崩して通院していた経験がきっかけでした。夜中でも駆けつけて診てくれるかかりつけの医師の姿が心に残り、「医師というのはこんなに頼もしい存在なんだ」と感じました。その気持ちは今も変わっていません。

だからこそ、愛知医科大学病院を“かかりつけ大学病院”として、地域の皆さまに安心して頼っていただける存在にしたいと考えています。救命救急から在宅まで切れ目のない医療でサポートし、地域の皆さんの暮らしを支える拠点であり続けることを使命としてまいります。

これからも職員一同、地域に開かれた病院として努力を重ねてまいりますので、どうぞ安心して私たちにご相談ください。

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