院長インタビュー

予防から治療、研究まで――国立循環器病研究センターが切り拓く循環器医療の未来

予防から治療、研究まで――国立循環器病研究センターが切り拓く循環器医療の未来
山本 一博 先生

国立研究開発法人 国立循環器病研究センター 病院長、鳥取大学 名誉教授

山本 一博 先生

目次
項目をクリックすると該当箇所へジャンプします。

国立循環器病研究センターは、日本で2番目につくられたナショナルセンターで、通称「国循」と呼ばれています。循環器病に対して専門的な治療を行うと同時に、循環器病の研究においても重要な役割を果たしています。

病院の特徴や今後の展望について、国立循環器病研究センター病院長の山本 一博(やまもと かずひろ)先生にお話を伺いました。

外観(提供)
病院外観

当センターは1977年に開設され、心臓と脳血管疾患に特化したナショナルセンターとして発展してきました。総合病院のように複数の診療科ではなく、循環器領域に絞った診療を行うことで、診断から治療、リハビリテーション(以下、リハビリ)に至るまで専門性の高い医療を提供できる体制を整えています。

心臓や脳血管の病気は、発症すれば命にかかわることが少なくありません。そのため、当センターでは高度な救急医療を担い、“最後の砦”となるべく24時間体制で患者さんを受け入れています。同時に、研究や教育の拠点としての役割も果たしており、病院と研究所とが連携しながら、診断・治療・予防など幅広く循環器病の研究を推進しています。

また、全国から患者さんが集まることもあり、希少疾患の診断や治療も行っています。こうした臨床経験の積み重ねは研究にもつながり、新しい治療法の開発などへと発展していきます。

手術支援ロボット(提供)
手術支援ロボット

当センターでは、比較的早い時期からロボット支援下での心臓手術を積極的に導入してきました。ロボット支援下で手術を行うことで、より低侵襲(ていしんしゅう)(体への負担が少ない)な手術が可能となります。

また、亡くなられた方から心臓の弁や血管(ホモグラフト<同種心臓弁・血管組織>)を提供いただき、それを手術に活用するという治療も実施しています。この治療は、提供いただいた組織を保存する組織保存バンクが当センターを含め国内に2か所しかなく供給体制が限られていることもあり、実施できる施設はわずかです(2025年9月時点)。こうした治療に取り組めることも体制の整った当センターならではであるため、今後も注力してまいります。

当センターのもう1つの役割は、希少疾患の診療や研究です。たとえば、CADASILという遺伝性の脳血管疾患に対しては、専門外来を設けて診断から治療まで対応しています。

また、遺伝子解析の活用にも注目しています。がん領域ではすでに広く取り入れられていますが、心臓の病気に応用する取り組みはまだ発展途上です。遺伝子の異常と病気の関係が少しずつ明らかになってきているなかで、将来的には“どの患者さんにどの治療や予防策を提示すべきか”を事前に判断できるようになると期待しています。たとえば突然の脈の異常で倒れてしまうリスクが高い方に対し、早い段階で予防的な処置を講じられるかもしれません。遺伝子の情報を臨床にどう生かすかが、これからの大きな課題です。

心臓や脳血管疾患の治療後には、リハビリが欠かせません。当センターでは、限られた時間を最大限に活用し、短い入院期間のなかでも効果を得られるようなリハビリプログラムの開発を進めています。

また、最新技術の導入も積極的に行っています。たとえば、脳梗塞(のうこうそく)後の患者さんに専用のグラスを装着して歩行を補正する研究や、脳波を読み取って手の運動機能を回復させるブレインマシンインターフェースの開発などがあります。これらの取り組みは、患者さんが元の生活に戻る可能性を広げてくれるものだと感じています。

MRI
MRI室

当センターでは、治療だけでなく予防の観点からも患者さんを支えられるよう、“循環器ドック*”を実施しています。心臓や脳の病気は発症してからでは遅いケースも多く、未然に防ぐことが何より重要です。

心臓エコーやMRIによる脳血管の検査などを組み合わせて行う“日帰りコース”や、認知症予防を主な目的にAIを活用して行う“AI脳ドック”も実施しており、最新技術を取り入れた予防医療を提供しています。

病気を防ぐためには、まず自分の状態を知ることが第一歩です。ドックをきっかけに生活習慣を見直し、早い段階で医療につなげることができれば、多くの病気を未然に防ぐことが可能です。

*循環器ドックについて:自費診療となります。費用や検査の流れ等については病院のホームページよりご確認ください。

内観(提供)
ホスピタルストリート

これからの医療に求められるのは、チーム力です。診療科の垣根を超え、さらに看護師や薬剤師、栄養士など多職種が協力し合ってこそ、一人ひとりに合った適切な治療が可能になります。

また、地域医療機関との連携も重要です。ここはナショナルセンターという立場から、地域の病院と役割を分担しつつ、全国的に活用できる医療連携のモデルを示すことを目指しています。患者さんにとって切れ目のない医療を届けることが、最終的な目標です。

循環器分野は救急対応を要する場面が多く、若手医師のなり手が減少していることに危機感を持っています。人材が少なくなれば、将来、救急の患者さんを受け入れることが難しくなり、ひいては救命の機会を逃す患者さんが増えてしまいます。

この問題は一朝一夕で解決できるものではありませんが、若い世代が循環器医療に魅力を感じられるような環境をつくることが大切だと考えています。教育やキャリア形成の支援を通じて、次の世代にバトンを渡せるよう努力していきます。

循環器疾患は“ならないようにする”ことが最も重要です。循環器病発症の危険因子である高血圧症糖尿病などは症状が出にくいため、放置すると気づかないうちに循環器病が進行してしまうことがあります。自覚症状がないからと放置するのではなく、定期的に健康診断や各検診を受けて早めに対応することが大切です。

私はよく「虫歯にならないために歯を磨くのと同じです」とお伝えしています。病気が進んでからでは元どおりに治すことは難しくなります。予防のために薬を飲んだり生活習慣を改善したりすることが、未来の自分を守ることにつながります。

当センターは、紹介状があればどなたでも受診できる病院です。心臓や脳に不安を感じられたときには、まずかかりつけ医に相談していただければ、必要に応じて当センターへご紹介いただけます。敷居が高いと感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、安心して門を叩いていただければと思います。

受診について相談する
  • 国立研究開発法人 国立循環器病研究センター 病院長、鳥取大学 名誉教授

    山本 一博 先生

「メディカルノート受診相談サービス」とは、メディカルノートにご協力いただいている医師への受診をサポートするサービスです。
まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。
  • 受診予約の代行は含まれません。
  • 希望される医師の受診及び記事どおりの治療を保証するものではありません。

    医師の方へ

    様々な学会と連携し、日々の診療・研究に役立つ医師向けウェビナーを定期配信しています。
    情報アップデートの場としてぜひご視聴ください。

    学会との連携ウェビナー参加募集中

    「受診について相談する」とは?

    まずはメディカルノートよりお客様にご連絡します。
    現時点での診断・治療状況についてヒアリングし、ご希望の医師/病院の受診が可能かご回答いたします。

    • お客様がご相談される疾患について、クリニック/診療所など他の医療機関をすでに受診されていることを前提とします。
    • 受診の際には原則、紹介状をご用意ください。
    実績のある医師をチェック

    Icon unfold more