イリザロフ法は骨を再生できる治療法です。「先天性小人症」の患者さんの身長を伸ばすことや、ケガによって骨を失ってしまった患者さんの欠損部位を元通りにすることができます。また、悪性腫瘍や骨髄炎などにより骨を切除した患者さんの場合、その部位を修復することができます。さらに、事故や奇形などにより骨が変形してしまった患者さんの場合は、その骨を矯正することもできるのです。
このように画期的な治療であるイリザロフ法ですが、治療にあたってはさまざまな注意点があります。イリザロフ法の第一人者である関東労災病院副院長、整形外科統括部長の岡﨑裕司先生にお話をお聞きしました。
外からピンを刺して装具を固定していきます。イリザロフ法では激痛があるとよく言われますが、延長期間中はあまり痛みがありません。「ピンサイトケア」をマメに行っていけば、伸ばすことによる痛みはありません。ピンサイトケアとは、刺している部分を清潔にしていくケアのことを指します。
イリザロフ法の短所としては、ワイヤーが体を貫通することがあります。また、リング型の創外固定器はとても大きいので、かさばってしまいます。動いたりするにも邪魔ですし、心理的にもストレスになることがあります。
イリザロフ法での治療後、最初の3年程度は運動能力が落ちてしまいます。しかし、その後3年たつとほぼ元の運動能力に戻ります。骨折においても、一般的には3年程度は落ちると言われています。もちろん、ハードにリハビリをするプロスポーツ選手などはそれには当てはまりません。
ワイヤーのピンを刺すときに、血管や神経の損傷を起こす恐れがあります。そのため、熟練の術者が細心の注意を払って手術を行います。
術後には、ピンが入っている部分が感染を引き起こすことがあります。これはイリザロフ法の代表的な合併症でもあります。そのため、先述したピンサイトケアを含めた管理がとても大切です。感染を防ぐための術者の工夫としては、ピンを水で冷やしながら骨に刺すなどの工夫があります。
適度かつ強固な固定力とリング型の創外固定器があればできるイリザロフ法は、その適用範囲が広く、あらゆる整形外科領域に使用可能と言っても過言ではありません。その反面、イリザロフ法は非常に難しい方法で、手術を行う医師には熟練が必要です。誰にでもできる治療ではない(行える施設が少ない)という点がデメリットの一つです。
西シベリアの小さな都市であるクルガンにイリザロフ法のルーツがあります。クルガンは工場の街であり、これがワイヤーを用いた強固な創外固定器が生まれたことの背景にあります。
イリザロフ先生は1951年にリング固定様式の創外固定器を開発し、それにより固定しながら引っ張っていくと骨が伸びていくことを発見しました。ロシア自国のオリンピック選手に対する治療で有名になり「西シベリアの魔術師」と言われました。
しかし、当時は冷戦中であったため、この方法はなかなか西側にわたりませんでした。イタリアで治らなかった冒険家がイリザロフの元でわずか半年で完治したことがきっかけで1981年にイタリアに広まったことにより西側諸国にイリザロフ法が伝わり、1984年に日本でもイリザロフ法が始まりました。そして1988年に日本創外固定研究会が初めて開催されました。今では日本でも年間40本ほどのイリザロフ法の論文が発表されています。また、今でもクルガンにはイリザロフ法を専門とする医療センターがあります。
福島県立医大 外傷学講座(寄付講座) 教授
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