イリザロフ法とは、骨折が治るときのメカニズムを利用して、「創外固定器」を用いて固定しながら骨を修復したり、延長したりしていく手術のことをいいます。このイリザロフ法では、難治骨折の方で骨がなかなかくっつかない場合でも、骨を伸ばして再生できることがあります。イリザロフ法の第一人者である関東労災病院副院長・整形外科統括部長の岡﨑裕司先生に、イリザロフ法を用いた難治骨折の患者さんの「四肢再建術」についてお話をお聞きしました。
「難治骨折」とは、骨折してしまった後の治療の際に、何らかの要因で骨癒合(骨がくっつくこと)が途中で完全に止まってしまった状態を言います。通常は数か月から半年で骨折部はくっつき、治癒します。それ以降になっても治癒しないものが難治骨折といわれます。また、難治骨折のことを「偽関節」(くっついていない部分が離れてしまい、関節のようになってしまう)ということもあります。
骨折後なかなか骨がくっつかない状態。「遷延治癒」とも言う
難治骨折に細菌感染症や骨髄炎を合併した(伴って起こった)もの
骨折後に、機能が妨げられるような形でくっついてしまう
怪我が原因で骨がなくなって脚が短くなり、歩行障害をきたす
難治骨折の原因には以下のようなものが挙げられます。
先に紹介したように、難治骨折にはさまざまなパターンがあります。
例えば、骨の中に感染が起こっている(骨髄炎)ことが原因で骨がくっつきにくくなり、難治骨折になる場合があります。このような場合、まずは感染した骨組織を十分に切除していく必要があります。しかし、十分に切除すると巨大な骨欠損が生じてしまいます。こうした場合でも、イリザロフ法を用いれば、骨を延長させる(低身長(リンク599)の方の治療と同様)ことにより、元通りに近い形にすることが可能なときもあります。
イリザロフ法を用いた四肢再建術における特徴は以下の通りです。
創外固定器により骨折部を安定させられることがイリザロフ法の特徴です。骨折部が安定すると、その部分の血流を良くすることができます。安定させることにより、そこに血流の足場を作ってあげるのです。血流が良くなると、骨ばかりでなく血管、神経、筋肉などの再生もよくなります(そもそも難治骨折(偽関節)、骨髄炎は血流の悪いところにできやすいので、理にかなっています)。血腫はグラグラしていたら骨にはならないため、安定させてあげることが大切です。
また、イリザロフ法においては三次元的に変形を矯正していくことが可能です。つまり、変形してしまったものを良い格好に戻すことができるのも特徴です。関節も修復しながら、理想的な形の骨を作っていくことができます。
ピンを骨に刺して、髄圧(骨髄の中の圧力)が下がると、身体がたくさんの「サイトカイン」というタンパク質を出します。サイトカインは骨の再生を促すための「大事な宝物」なのです。このように、実はピンを外から刺すことも骨の再生を促しています。
※しかし、イリザロフ法を用いても難治骨折を治癒するのが難しいケースもあります。特に糖尿病・免疫不全・肥満の患者さんは治りにくくなります。また、ケガなどで骨の欠損している部分が大きい場合は、元の長さに戻そうとすると、かなり長い部分の骨を伸ばさなければなりません。その分だけ時間もかかりますし、感染などのリスクが増えてしまいます。
※イリザロフ法では変形を直すこともできます。実際に、「骨端線損傷」(骨の端にある「成長軟骨」が折れてしまうこと)の後に曲がってしまった骨を「変形矯正」する例もあります。ただし、骨端線損傷が発見された場合はすぐに可能な治療を開始した方が良いです。初期の骨端線損傷であれば色々な治療方法ができますが、これを原因とする変形が完成してからでは治療が大変になります。
福島県立医大 外傷学講座(寄付講座) 教授
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