前の記事では、放射線治療のメリットと効果について扱いました。しかし、放射線治療には他のさまざまな治療と同様に、一定の副作用・有害事象があります。近年は放射線治療機器が進歩してきたため、どんどん放射線治療の副作用は減ってきつつあります。なかには全く副作用・有害事象が起きない人も一定数います。それでもまだ患者さんにとって、副作用・有害事象の心配は尽きないことでしょう。
そこで今回は、放射線治療にどのような副作用、有害事象があるのか、湘南藤沢徳州会病院の永野尚登先生にお聞きしました。
放射線を照射した(当てた)臓器に対して、副作用が起こることがあります。
急性期の副作用とは、治療中または治療直後に出現するものを言います。一般的に患者さんが思い浮かべる、生活にも影響をおよぼす副作用はこちらのタイプです。後ほど説明しますが、これは「ターンオーバー」(新陳代謝)や再生の早い臓器で起こります。具体的に反応しやすい臓器は、皮膚や粘膜です。
晩期の副作用とは、放射線被爆後に半年から数年を経て出現するものです。具体的には、骨髄の抑制(骨髄の血液を作る機能が抑えられてしまうこと)や白血球の減少が起こります。ただし、これは通常の外部照射による放射線治療においては考えにくい副作用です。ごく一部の特殊な治療を除き、ほとんどないと考えてよいでしょう。放射線治療医は晩期障害を起こさないための「耐用線量」を熟知し、それによりコントロールしています。
その他に特徴的なものは、血管や血管周囲の間質障害(かんしつしょうがい)です。これは、治療後4ヶ月後くらいすると血管の周囲に浮腫(むくみ)が起き、その場所が硬くなってくるというものです。
ただし、間質障害はある程度広い場所に放射線をかけなければ起きません。そのため、定位照射(狭い場所にだけ照射する技術)が発達するようになってからはこの副作用が起きる確率が減ってきています。
まず前提として、放射線治療においては晩期の重篤な副作用が起こらないようにコントロールします。例えば白血球の数値が下がってしまったり、骨髄が抑制されるほどには放射線照射をしません。
しかし、いくらコントロールをしたとしても、急性期の副作用はある程度は起きてしまいます。ただし、定位照射が進歩して周囲の正常臓器に放射線が当たらないようになってきてからは、急性期の副作用も大きく減ってきました。ある一定の割合では起きてしまいますが、これは一過性のものであり、多くは可逆性(いずれ元に戻るもの)です。
それでは、急性期の副作用が起きやすいところはどのようなところでしょうか。これは、ターンオーバーが早いところと言われています。ターンオーバーとは、「入れ替わりが激しいところ」、「常に新しいものが出てくるところ」と考えましょう。具体的には粘膜や皮膚です。粘膜は消化管や口腔内など、さまざまなところにあるため、全身に副作用が起きやすいということもできます。
皮膚や粘膜は常に新しいものに入れ替わっており、大体21日くらいで新しいものに入れ替わります。急性期の副作用は、そのターンオーバーと同時に起こってきます。イメージとしては、以下のような流れで起こります。
このターンオーバーの期間は、若い人ほど短くなります。そのため、若い人ほど副作用は早く・強く出ます。
ただし、IMRTからSRT、定位照射という進化した放射線治療の時代になり、放射線による副作用はどんどん減っています。例えば、皮膚の障害はあったとしても日焼けの翌日程度であったり、汗腺が黒いプツプツになったり、少し発汗低下があったり、といった程度で終わってしまうことの方が多いです。
また、治療に2~3週間以上かかる方のほうが、照射中の問題が起きやすくなります。そのため、緩和的治療(2週間程度で終わるもの)を受ける方に関しては、急性期の副作用・皮膚の反応が出る前に終わらせてしまいます。
次の記事では、急性期の具体的な副作用についてご説明します。
記事1:放射線治療とは―目的、メカニズム、準備
記事2:放射線治療の方法―外部照射について
記事3:放射線治療の方法―内部照射について
記事4:放射線治療のメリットと効果
記事5:少なくなりつつある放射線治療の副作用と有害事象
記事6:放射線治療の副作用―急性期の具体的な副作用
記事7:放射線治療中の日常生活―注意すべきこと
記事8:放射線治療中の日常生活―皮膚の副作用と皮膚ケアについて
湘南藤沢徳洲会病院 放射線科 主任部長
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