インタビュー

放射線治療のメリットと効果

放射線治療のメリットと効果
永野 尚登 先生

湘南藤沢徳洲会病院 放射線科 主任部長

永野 尚登 先生

この記事の最終更新は2015年06月12日です。

放射線治療とは、がんなどの病巣部に対して放射線を照射することにより、がん細胞を死滅させていくための治療です。腫瘍を消失または縮小させる事を目的とすることもあれば、痛みなどの症状の改善をすることを目的とすることもあります。また、がんの再発治療に用いられることもあります。放射線治療のメリットと効果について、長年第一線で患者さんと向き合われた、湘南藤沢徳州会病院放射線科部長の永野尚登先生にお話をお聞きしました。

放射線治療の最大のメリットは、がんになった臓器をそのまま温存することができるという点です。代表的なものに喉頭がんがあります。喉頭にがんができてしまった場合、通常は手術して喉頭を全部とってしまいます。しかし、喉頭は声を出すために大切な働きをしています。つまり、喉頭をとってしまうと声が出せなくなってしまうのです。

一方、放射線治療を行ったときには、喉頭を残すことができます。喉頭を残すことができれば、声を失うことはありません。さらに、手術治療と放射線治療には大きな生存率の差はありません。治療する前と変わらない生活ができる点が放射線治療のメリットなのです。

「治せるものを治療する」ことは当然です。また、「完全に治すことはできない」場合でも、ある症状がなくなることで生活の質が向上するのであれば、この治療は意義あるものといえます。患者さんの生活を少しでもより有意義なものとするため、こうした治療を速やかに行うことが大切だと考えています。そして、そのためにも放射線治療は有効な方法です。

放射線治療の効果・目的は、「病気の制御」「腫瘍の制御」「症状の制御」の3つに大別されます。

「病気の制御」における放射線治療はがんを根治するためのものです。手術や抗がん剤などを組み合わせつつ、がんを徹底的に叩きます。「腫瘍の制御」と「症状の制御」に関して言えば「病気の制御」のように根治を目指していくわけではありません。この場合の放射線治療は「よりよく長く生きるための治療」と考えることができます。以下に詳しく説明します。

かつては「根治照射」と呼ばれていたものです。手術療法や化学療法(抗がん剤)と合わせ、術前照射・術中照射・術後照射をあわせて総合的にがんの治療(このような総合的治療を「集学的治療」といいます)を行っていきます。

このような「病気の制御」においては、がん自体を根治するために集学的治療があり、その中のひとつの手段が放射線治療であるという考え方をします。現在のTNM分類というがん治療の考え方に基づくものであり、これはまず「手術ありき」で考えられています。しかし、この考え方では手術ができない人や化学療法ができない人が治療の対象から外れてしまうことがあります。

手術治療を中心とした「病気の制御」の中ではどうしても漏れてしまうがんがでてきます。その中で生まれてきた考え方が「腫瘍の制御」です。以下のようなケースが当てはまります。

  • 手術が不能な場合

例えば、肺がんが「気管分岐部」にある場合、手術不能症例となってしまします。集学的治療をして、つまり「病気の制御」をして根治を目指そうという考え方からは外れてしまいます。

しかし、この気管分岐部にあるがんが小さければ、「手術・抗がん剤・放射線」すべてを用いる集学的治療を行わなくても、放射線療法だけでコントロールをすることができます。これは、いわゆるスタンダードな治療ではありません。これこそが「腫瘍の制御」です。気管分岐部のがんのようにいわゆる従来の「手術ありき」の歴史で生まれてきた集学的治療にはそぐわなくても、放射線療法だけでもコントロールすることを目指す考え方です。

放射線療法は進歩を続けており、従来の手術療法・化学療法にのせることができなくても治療の対象となるものが増えてきました。最近では、頭や頸(くび)のがんに対しては放射線療法がスタンダードになっていることもあります。

  • 転移のある腫瘍

がんが転移した場合にも、「病気の制御」、つまり根治を目指せるわけではありませんが「腫瘍の制御」ができることがあります。たとえば、あるがんが3か所に遠隔転移したとします(このように少数個だけ転移することを「オリゴ転移」と言います)。この腫瘍をひとつずつ、全部放射線療法で治療することがあります。

もちろん、これに化学療法を組み合わせることもありますが、副作用などの関係でどうしても化学療法が行えないときにも放射線療法だけを用いることがあります。アメリカのガイドラインには、腫瘍量を減らすことにより延命させることができるということが記載されています。転移ができてしまって、「病気の制御」(根治療法)は目指せなくても「腫瘍の制御」をすることに意味がある場合もあるのです。

症状の制御は、従来の緩和ケアにおける考え方と類似します。緩和ケアとは、がんが広がりもう治療をすることができなくても、きちんと痛みなどの症状をとってあげようという考えから始まっています。これは「緩和的照射」とも呼ばれてきました。

放射線治療の考え方からしても、がんがたくさん転移してしまったときにはもう「腫瘍の制御」はできません。この場合は放射線療法を用いて、「腫瘍の制御」ではなく「症状の制御」だけを行っていきます。たとえば、がんの転移が骨にあって、それがひどい痛みを引き起こしている場合です。そのときには、骨にあるがんに定位的な照射をすることにより、そこだけを完全につぶしてしまいます。症状が出ている部分以外のがんに対しては何もしないのです。それでも、2~3年何も症状が出ず、痛みもなくなり、緩和ケアに成功したケースがあります。

「腫瘍の制御」や「症状の制御」は、放射線療法の進歩により定位照射の時代となり、「ごく小さな部分だけに当てて、まわりの正常な組織にはほとんど影響を及ぼさない」ことが可能になってきたからこそ行えるようになってきました。

※ 効果を判定するためには―経過観察の必要性
放射線治療の効果が出るのは、治療後1ヶ月が経過してからです。すぐに効果は出ませんので、辛抱強く考えましょう。食道がんのときなどは、食道全体に対して放射線を照射します。そのようなときは急性反応として、2−3週間はどうしても食道に腫れが出ていまいます。そして、治っているかどうかの評価も、腫れがひいてからでなければ行えないのです。

また、放射線治療をした後には、何らかの症状が出ても治療の副作用と勘違いしてつい放置してしまうことがあります。しかしこれが治療の副作用でなく、新しい病気が出現している可能性もありますので、注意が必要です。

記事1:放射線治療とは―目的、メカニズム、準備
記事2:放射線治療の方法―外部照射について
記事3:放射線治療の方法―内部照射について
記事4:放射線治療のメリットと効果
記事5:少なくなりつつある放射線治療の副作用と有害事象
記事6:放射線治療の副作用―急性期の具体的な副作用
記事7:放射線治療中の日常生活―注意すべきこと
記事8:放射線治療中の日常生活―皮膚の副作用と皮膚ケアについて

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  • 湘南藤沢徳洲会病院 放射線科 主任部長

    永野 尚登 先生

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