今回は、前回の記事「セラノスティクスとは―診断・治療が同時に行える、効率的ながん治療」でご説明したセラノスティクスの要となるRI内用療法の最新情報についてお伝えします。
前回ご紹介した131I以外にも、日本では最近、2007年に塩化ストロンチウム(89Sr)による治療も保険の適用となりました。89Srは骨への転移が発見されたがんの早期の治療で、がんによる疼痛を緩和するために特に効果を発揮します。しかし末期の患者さんに使用すると、疼痛を緩和する効果より副作用による悪影響のほうが強くなるため、できるだけ早期から使用することが望ましいお薬です。
この治療は、まず骨シンチグラフィという検査を行い、痛みのある部分と画像の検査結果が一致する患者さんのみに行うべきだとされています。こうした画像検査との組み合わせをスムーズに行えることも、セラノスティクスの強みの1つです。
223Raは、89Srと同様に骨への転移がんの疼痛を緩和することができる物質として研究されてきました。しかし、開発の過程で、投与すると生存期間が延長することもわかったのです。米国食品医薬品局(日本の厚労省にあたる機関)は、223Raを用いた薬剤をいちはやく実際の治療に使用できるようにしました。
それまで、疼痛を緩和できる薬剤はあっても生存期間を延ばすことができる薬剤は存在しなかったため、世界中から注目され、日本でもこの物質を利用可能にするための治験が進行しているところです。
223Raはα線を発する物質ですが、従来α線による放射線治療は、法令上の制限があったことや、内部被ばくが大きいと考えられてきた経緯があり、漠然と回避されていました。その点、この治療結果はインパクトが大きく、α線を発する物質を用いた治療の研究は今後も盛り上がる分野だと言えそうです。
NETは腫瘍の細胞の表面から「ソマトスタチン」という物質を取り込む性質があります。この性質を利用し、ソマトスタチンに放射性物質を組み合わせた薬剤(オクトレオチド)を用いた検査が行われています。
欧米では古くから、SPECTという画像検査に使う薬剤としてオクトレオチドを使うことが認可されていました。現在ヨーロッパを中心に、PET-CTのための薬剤として、68Gaという放射性物質とオクトレオチドを組み合わせた物質についても実用化のための臨床試験がはじまっています。この物質についてはアメリカでも臨床試験が始まりましたが、残念ながら日本ではまだ治験は始まっていません。
オクトレオチドのRI内用療法への利用は、1990年代からヨーロッパを中心に行われ始めました。当初は、画像診断に使う薬をそのまま大量に使用し、治療の効果を期待するという方法でしたが、あまり効果がありませんでした。そこで、2010年ごろからβ線を放出する放射性物質を加えた新たな薬剤が使われ始め、今では腫瘍を縮小させたり生存期間を延長させる効果が得られています。
NETは日本でも患者さんの数が増加しています。長期の治療が必要となる腫瘍ですが、この治療は、オクトレオチドに組み合わせる放射性物質の種類を変えることによって、SPECTやPETなど異なる切り口で分子イメージングをすることができ、とても応用性の高いものです。検査結果に応じて薬剤の放射性の強さを調節することもでき、従来以上に科学的な根拠に基いて治療を進めることができます。筆者の施設では、患者さんの要望もあり、スイスのバーゼル大学など、海外でこの治療を受けられる施設を紹介しています。
ヒトの体内にあるB細胞は、体内で抗体をつくることができる唯一の細胞です。風邪を引いた時などは、B細胞がそれぞれの細菌やウイルスにピンポイントで対応する抗体をつくって対抗し、病原菌をやっつけて体外に放出するのです。この人体の免疫の仕組みをがん治療にも応用したのがモノクローナル抗体による治療で、B細胞で特定のがん細胞に対応した抗体をつくり、それを複製(クローン化)して大量に投与することでがんに対処する方法です。
このモノクローナル抗体と放射性物質を組み合わせてRI内用療法を行おうという試みがあり、それを「放射免疫療法」と呼んでいます。この治療の研究は1980年代に特に活発でしたが、当時はモノクローナル抗体そのものの実用化がまだ進んでいなかったこともあり、あまり広く普及しませんでした。しかし、現在では保険診療の対象となり、日常の治療で使われるようになりました。
こうした動向に伴って、放射免疫療法と分子イメージングの組み合わせ(抗体イメージング)が再び重要視されるようになってきました。日本でも、特にPETでの診断に適した放射性物質を用いた薬剤の研究開発がすすめられつつあります。
次回も引き続き、RI内用療法の現状と今後についてお伝えします。
医療法人 沖縄徳洲会 湘南鎌倉総合病院 先端医療センター センター長
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