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セラノスティクスとは―診断・治療が同時に行える、効率的ながん治療

    • インタビュー
    • 公開日:2015/10/06
    • 更新日:2016/12/05
    セラノスティクスとは―診断・治療が同時に行える、効率的ながん治療

    「セラノスティクス」という言葉をご存知でしょうか。がん診療において、診断と治療をあわせて行うこの方法には、大きなメリットがあります。今回の記事では、このセラノスティクスについて、横浜市立大学放射線医学教授・横浜市立大学付属市民総合医療センター病院長であり日本核医学会理事長を務められている井上登美夫先生にお話をうかがいました。

    セラノスティクスとは?

    がんの治療では、治療を始める前に様々な検査・診断を行い、治療法を決定していきます。セラノスティクス(Theranostics=治療Therapeutics+診断Diagnostics)とは、この診断と治療をあわせて行う考え方や、その手法のことです。例えば、検査のために薬剤を摂取してもらうことがありますが、その薬が同時に治療効果も持っているような場合です。

    従来のがん診療に比べ、セラノスティクスには様々なメリットがあります。第1回として、まずはその仕組みについて簡単にご説明します。

    分子イメージングとは?

    セラノスティクスには、「分子イメージング」という検査の技術が欠かせません。
    私たち人間が活動するために、身体の中では絶えず化学反応が起こり、物質が移動し、変化し続けています。がんをはじめ、体内に病気ができると、身体の中の物質が特徴的な動きをすることがあります。たとえばCTなどでは見つけづらいがんがある場合にも、そういった特徴的な流れを検知することでその場所を突き止めたり、進行度を把握したりすることができます。

    分子イメージングは、体内に摂取した物質(分子)が体内でどう動いているか、その流れを映像化して把握し、そこから診断に役立つ情報を得る技術です。例えば超音波、CT、MRI、SPECT、PETなど、よく知られている画像検査を用いて行うことができます。とりわけ、最も簡単に実際の診療で応用することができるのはPET-CTです。

    この10年間にも、分子イメージングのための多くのPETの検査薬が開発されてきました。残念ながら保険診療の適用となっていて、実際の診療で広く使われているのはFDGという薬剤を使ったPET検査(FDG-PET)だけですが、米国でも我が国でも、国をあげてこの分野の研究が強化されているので、今後も多くの有用な検査薬が開発され、実際の医療現場でも使用されるようになると期待されます。

    RI内用療法とは?

    セラノスティクスのためにもう一つ欠かせない治療の技術があります。それは「RI内用療法」とよばれる方法で、RI(放射性同位元素Radio Isotope)、またはRIと薬剤を組み合わせた放射性医薬品を体内に投与して行う放射線治療です。RI内用療法の歴史はかなり古く、たとえば放射性ヨウ素を用いた甲状腺疾患の治療がはじまったのは70年以上前にもさかのぼります。

    現在でも、甲状腺機能亢進症や甲状腺がんの転移の治療には欠かすことのできない治療として、保険診療のなかで行われているこの治療は、甲状腺がんのがん細胞の多くが甲状腺ホルモンをつくる機能をもっていることを利用したものです。ヨウ素は甲状腺ホルモンの原材料となる物質です。ホルモンを生産するときの原材料として、がん細胞がヨウ素を細胞に取り込む性質があることを利用し、放射性を帯びたヨウ素を薬剤として投与すれば、甲状腺がんの病巣に直接アプローチすることができるのです。

    日本では1951年から放射線ヨウ素(131I)が入手できるようになり、その翌年には甲状腺機能亢進症(グレープス病またはバセドウ病)に対して131Iを投与する治療が始まりました。その後、分化型甲状腺がんの転移がんの治療にもこの方法が応用されるようになり、現在に至っています。

    当時、セラノスティクスという言葉はありませんでしたが、この治療法はまさにセラノスティクスを体現するものであったといえます。

    RI内用療法とセラノスティクス

    先ほどもお話ししたとおり、分子イメージングでは、体内の物質の流れを把握することで病気の情報を得ていきます。そのために欠かせないのが、PET-CTなど放射性物質を使った検査です。例えばがんAがBという物質を取り込む性質があるとき、Bが多く集まっている場所にはがんAがある可能性があります。そこで体外から位置を特定するために、Bに放射性物質を組み合わせたもの(C)を患者さんの体内に摂取してもらうのです。Cが体内から発する放射線を検出すれば、がんAのありそうな場所を突き止めることができます。

    RI内用療法で使う薬剤には放射性物質が使われています。そこで、RI内用療法に用いる薬剤を、分子イメージングの検査にも使ってしまおうというのがセラノスティクスの考え方です。検査のための薬剤で、同時に治療も行うことができる。あるいは、治療のための薬剤を投与すれば検査も行うことができる。簡単に言うとそのようなことになります。

    早期から治療できる、治療しながら常に病気の最新情報が把握できる、治療の効果がどの程度出ているかを随時把握できる、患者さんの身体への負担を減らせるなど、従来の診療の方法に比べ、様々なメリットがある方法です。

    今回はセラノスティクスの考え方と仕組みについて大まかにご説明しました。次回は、セラノスティクスの要となるRI内用療法の最新情報について、より詳しくお伝えしたいと思います。

    井上 登美夫

    井上 登美夫先生

    横浜市立大学付属市民総合医療センター病院長 放射線医学教授 日本核医学会理事長

    群馬大学を卒業後、アメリカにおけるがん治療の名門、テキサス大学MDアンダーソンがんセンターを経て現在では横浜市立大学放射線医学教授、横浜市立大学付属市民総合医療センター病院長を務める。放射線医学、特に核医学における日本の第一人者であり、核医学のアウトリーチ活動も積極的に行なう中で、日本核医学会理事長を務める。

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