インタビュー

RI内用療法を取り巻く壁―今後の普及のために

RI内用療法を取り巻く壁―今後の普及のために
井上 登美夫 先生

医療法人 沖縄徳洲会 湘南鎌倉総合病院 先端医療センター センター長

井上 登美夫 先生

この記事の最終更新は2015年10月08日です。

前回の「RI内用療法の最新事情―保険適用、様々な治療薬との組み合わせ」に引き続き、RI内用療法をめぐる最新の動向についてお伝えします。今回はとくに、RI内用療法を行う場合の障壁となっている問題と、今後どう解消されていくかについてお話ししたいと思います。

日本での放射線の取り扱いに関する法的規制は厳しく、そのため、RIを扱う医療施設では時間や手間、人件費がかかり高コストの治療だとみなされています。入院患者の回転が悪く、非効率であることから、病院の経営上も不採算部門とされることが多く、専用の病床の数が減少しつつあるという事情があります。

進行した分化型の甲状腺がんの患者さんが医療機関に紹介されてから、RI内用治療を行うために入院できるまで、全国平均で5.2か月も待たされているという調査結果があります。この治療が適切な時期に行われず、180日以上待たされた場合、その後の治療中・治療後の死亡の可能性が4.2倍上昇するというデータもあり、患者さんの生死にかかわる深刻な問題だということができます。

131IとMIBGという物質を組み合わせた131IMIBGという薬剤によるRI内用療法は、褐色細胞腫、神経芽細胞腫、カルチノイドなどの交感神経に関連した腫瘍のイメージングに1980年代初頭から利用されてきました。現在では保険診療の対象となっています。

上に挙げた神経内分泌腫瘍に対しては、原則としてまずは外科手術による切除が第一の治療法として選択されることが一般的ですが、局所浸潤(がんの原発巣で、組織に食い込む広がり方をしてしまっていること)や遠隔転移(がんが原発巣以外の場所へも転移してしまっていること)がある場合には切除できなかったり、切除しても再発することが少なくなく、有効な治療法が確立していません。

また、神経芽腫という小児に特有の腫瘍について、残念ながらその半数は長期間生存できる確率が30~40%とかなり低いのですが、特に初期の治療で効果が上がらなかった場合、また再発した場合には有効な治療法がない状況です。

こうした腫瘍に対する131IMIBGのRI内用療法への利用が、欧米では診断への利用と同時に始められましたが、日本ではいまだ保険診療として認められていません。しかし上記のようにどうしても他に有効な治療法がない場合、藁をもつかむ思いで、患者さん自身で個人輸入を行い、いくつかの大学病院を中心として検討が行われているという実態が1980年代から続いています。

前にも述べた通り、RI内用療法で放射性物質を服用するためには病棟そのものの厳重な管理が必要です。当然ながらこうしたケースでもRI専用の病棟が必要となり、それはほかのRIの薬剤を利用する場合と同様に不足しています。また、病棟の不足や放射線に関わる法的規制は、保険診療として薬剤が承認されるまでの臨床試験をすすめる上でも大きな障壁となっています。

以上のような現状がありますが、政府は、「がん対策推進基本計画(平成24年6月閣議決定)」に基いて、平成26年からの「がん研究10カ年計画」を定めました。その中で、重点的に推進すべき分野のひとつとして、「患者にやさしい新規医療技術開発」が挙げられています。具体的には、分子イメージング技術などによるがんの早期発見と診断、分子標的治療、抗がん剤DDS(Drug Delivery System)、革新的な放射線治療の技術などが含まれるとのことですが、これまでお話ししてきた分子イメージングとRI内用療法はまさにこの中に含まれる技術です。

最新の分子イメージング技術でがんに特有の体内の分子の動きをとらえ、その検査に利用する薬剤をRI内用療法とする。この一連の流れを現在以上に積極的に行えるようになれば、重粒子線治療にも匹敵する効果が得られるでしょう。さらにRI内用療法は、手術などの外科治療に比べて身体へのダメージが小さい治療法です。また、化学療法と比べ、薬剤への耐性があらわれる確率も低いというデータがあります。そして、転移が多発した場合や、検出することが難しい微小な転移に対しても効果が発揮できると考えられています。

化学療法や外部から放射線を照射する治療(重粒子線治療など)に匹敵する治療効果が期待できるのみでなく、それぞれが持つ弱点をカバーすることで、他の治療と組み合わせた相乗効果が期待されているのです。

繰り返しお伝えするとおり、法的規制の厳しさや、RI専用病床の不足、治療者の絶対的な不足などの問題が依然としてありますが、効率的に、かつ国をあげて急いでこの課題に対応するべく、2014年3月末に日本学術会議から「緊急被ばく医療に対応できるRI内用療法拠点の整備」と題した提言が行われました。

そもそも、これまで日本では普及度が低く、がん診療の専門家の間でさえRI内用治療の潜在的な可能性が認識されていない現状があります。がんで苦しむ患者さんたちの希望の光となるべく、今後ますます研究・開発、そして普及が進むことを期待しています。

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