PETの検査件数は年々増加しています。その理由としては、保険の適用が拡大されてきたことが大きいでしょう。当初は非常に限られたがんと心筋梗塞が適用でしたが、現在、早期胃がんを除く悪性腫瘍が全て対象になっています。今回は、PETでがんのどういった特徴をとらえることができるのかについてご説明します。
横浜市立大学放射線医学教授・横浜市立大学付属市民総合医療センター病院長であり日本核医学会理事長を務められている井上登美夫先生に引き続き伺いました。
FDG-PET検査全体の95%以上はがんの診療のために使われています。全体の1/4強が肺がんに対する検査で、次に頭頸部がん、悪性リンパ腫、大腸がん、乳がんがそれぞれ1割くらいずつになります。また、原発不明がん(転移しているが、原発がどこだかわからないがん)を探すためにも使われます。
まずは治療前に進行度を診断するため、それから二段階治療を行う場合に、最初の治療が完了したあと、その次の治療の前にがんの進行度を調べるために使用されます。さらに、転移や再発が疑われる証拠がある場合の精密検査として使われます。また、手術や放射線治療でその部分が変形していたり、瘢痕(治療でできた傷)があったりするとCTやMRIでは検査を行うのが大変なことがあります。そういう場合にもPETの検査が非常に役立つことがあります。
まず、原発巣がどこにあるかをPET-CT(PETとCTを同時に撮影する装置)で調べることがあります。CTとオーバーラップさせることによって、単にPETで得られる情報だけでなく、形態学的な情報(がんの形や大きさ、位置など)ともあわせて判断をすることができる時代なのです。
がんはリンパを通じて転移するため、がんの診療ではそのがんが身体のどのリンパ節に所属しているかを調べることが重要となります。この所属を調べる際にPETは有用です。
たとえば、10ミリ以下の小さなリンパ節転移だと、他の画像検査だけでは異常なしと判断しかねませんが、PETでブドウ糖の代謝の活発さが確認され、転移ありと診断されることもあります。また、必ず全身像を撮るというPET-CTの特性を利用して、全身への転移を調べるのにも役立ちます。
がんの悪性度をはかる指標として「SUV(standardized uptake value)」という値があります。「FDGの集まり方の強さ」を示したもので、がんのある部位には、正常な部分の何倍の濃度のFDGが集まっているのかを表します。装置の違いによって、また血糖値の変動によっても数値がぶれるため、SUVを調べるときは、基本的には同じ施設で経過をみていくことになります。
従来、PETは早期発見や初期診断のために利用されることが主でしたが、最近では治療方針を決定したり、変更したりする際にもFDG-PETが有効活用されています。例えば5クールの抗がん剤の投与を行うときに、最初の1クールの投与が済んだ段階でPET検査を行うのです。そうして治療効果を早く予測することで、効果が期待できない不必要な治療を避けることが狙いです。がん治療の中でのこのようなPETの使い方は、残念ながら保険診療の適用ではありませんが、悪性リンパ腫についてのみ認められています。
また、がんに対しては近年、分子標的薬という薬剤が普及しつつありますが、この薬を使った治療では、腫瘍の大きさ(腫瘍径)が小さくなったかどうかが判断しづらい面があります。そこで、特に悪性リンパ腫の診療では、PETによって代謝の度合いをみることで、その効果を判断することが試みられています。
さらに、我が国は世界でも珍しくPETを使った検診も盛んな国で、検診で毎年500人のがんが見つかっています。特に多いのが甲状腺がん、大腸がん、肺がん、乳がんで、毎年同じような順位です。感度は基本的に1%前後で、効率としては決して悪くありません。
見つかりやすいがんと見つけにくいがんがあるのも事実で、特に胃がんや前立腺がん、腎がん、膀胱がんは非常に見つけづらいといわれています。ほかの画像診断などと組み合わせて診断すること、また、PETで陽性であってもがんではない場合があることにも注意が必要です。
ただし、定期的に受診して検査をすることで、正常時の画像データが蓄積されます。もしがんが発生して異常があらわれた場合、これが比較対象として重要な情報となることは言うまでもありません。
今回は特にがんの診療で、PETがどう活用されているのかをご説明しました。次回はさらに踏み込んで、PETでの診断が有効ながんや、逆に有効でないがんについて、部位ごとに見ていきたいと思います。
医療法人 沖縄徳洲会 湘南鎌倉総合病院 先端医療センター センター長
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