インタビュー

補助人工心臓の種類―植込み型と体外設置型

補助人工心臓の種類―植込み型と体外設置型
小野 稔 先生

東京大学医学部附属病院 心臓外科 教授、東京大学医学部附属病院 医工連携部 部長

小野 稔 先生

目次
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この記事の最終更新は2015年08月04日です。

大きく分けて2種類存在する人工心臓のうち、日本で主に使用されているのは「補助人工心臓」です。日本で最も多く補助人工心臓を扱われている、東京大学医学部附属病院心臓外科教授・小野稔先生にお話をお聞きしました。

まず、補助人工心臓を使うためには、左心室から血液を引く必要があります。血液を引くためには、左心室の先端(心尖部といいます)に「カニューレ」という管を入れます。そこから血液を抜いて(脱血といいます)、補助人工心臓に血液を回します。血液を抜いたら、体に戻さなくてはなりません。具体的には、「上行大動脈」という部分に戻します。そこで、上行大動脈に血液を戻す(送血といいます)ための人工血管を縫い付けていきます。つまり、心臓から脱血し、上行大動脈から送血します。その間に補助人工心臓が入るのです。

体外設置型補助人工心臓の仕組み
体外設置型補助人工心臓の仕組み
植込み型補助人工心臓の仕組み
植込み型補助人工心臓の仕組み

補助人工心臓にタイプは2つのタイプがあります。ひとつは体の外にポンプをおく「体外設置型」、もうひとつは体の中にポンプをおく「植込み型」です。現在、主に普及しているのは「植込み型」の補助人工心臓です。この場合、ポンプそのものを体内に植えこみます。

もともと、「体外設置型」の補助人工心臓は20年以上前から使われていました。この場合は、腹壁を貫く脱血用のカニューレ(管)・同様に腹壁を貫く送血用のカニューレ(管)という2本の管を通す必要があります。

また、体外設置型は通常「空気圧駆動式」と言われるシステムです。これは、ポンプの中の空気室の圧力を陰圧・陽圧と何回も変化させることにより、血液を送り出すシステムです。これを70~80回変化させれば、通常の心拍数と同じ70~80回、血液が全身に送り出されることになります。日本で使用されている代表的な体外設置型の補助人工心臓は「ニプロVAD」といわれるものです。

「植込み型」の補助人工心臓の場合は、ポンプ本体を体内に植え込んでいきます。これは電気駆動型で、電気で動かすものです。「植え込み式なので外に管を通す必要はないのでは?」と思われるかもしれませんが、人工心臓にはポンプを動かすための動力(バッテリー)が必要です。また、植込み型補助人工心臓においても駆動状態の制御を外から行わなくてはなりません。そして制御信号を送るためにはコントローラーが必要です。そのため、外にあるバッテリーとコントローラーをつなぐためのケーブルが必要であり、それが体外に向かって出ているのです。

ケーブルはコントローラーにつながれ、コントローラーにはバッテリーがつながれます。バッテリーはリチウムイオンバッテリーです。これは電気自動車に用いられるものと同じ種類のものです。

日本では植込み型補助人工心臓として4機種使用されています。「Heart Mate2®」「Jarvik 2000®」の2つは、軸流ポンプと言われるもので、船のスクリューと同様の原理で血液を送り出していきます。「Dura Heart®」「EVAHEART®」の2つは、遠心力を利用したポンプにより血液を送り出していく仕組みとなっています。

植込み型補助人工心臓が使える施設は、東京大学医学部附属病院をはじめ日本で40施設程度あります。

子ども用の補助人工心臓は、世界で1種類しかありません。「EXCOR®」(エクスコア)というベルリンハート社が販売しているものです。これは、体外設置型の補助人工心臓です。日本では最近になって製造販売承認が降りました。

植込み型の補助人工心臓には、子ども用のものはまだありません。体格的にも植え込んでいくことが難しいからです。しかし植込み型である「Jervik2000®」を子どもに対して用いた例があります。東京大学医学部附属病院でも、小学校高学年の男の子に「Jervik2000®」を入れたことがあります。