大きく分けて2種類存在する人工心臓のうち、日本で主に使用されているのは「補助人工心臓」です。この補助人工心臓は、どのような方を対象に用いられるのでしょうか? 日本でもっとも多く補助人工心臓を扱われている、東京大学医学部附属病院心臓外科教授・小野稔先生にお話をお聞きしました。
まずは植込み型心臓についてですが、現時点で対象となるのは心臓移植が必要だと判定された患者さんだけです。つまり、心臓移植が必要なほど心不全が重い患者さんが適応になります。日本の心臓移植の登録待機期間は3年近くかかってしまいます。しかしもともとの機能が悪い以上、なかなか3年は待てません。そこで、入院をしなくても使うことができる植込み型の補助人工心臓を用います。長期の間安全に心臓のポンプ機能の補助をして、自宅で心臓移植を待てるようにするためのものです。
実は、欧米では植込み型の補助人工心臓は心臓移植の代替治療としてもスタートしています。高齢のため手術に耐えることができず、心臓移植を受けることができなかったり、心臓以外の臓器も傷んでしまっていて、心臓移植だけではどうしても治療ができなかったりすることがあります。その場合、植込み型の補助人工心臓を使うのがよいという意見もあり、実践されています。
この場合「デスティネーションセラピー」といわれる永久の植え込み治療を行います。しかし現在、日本においてはこのような補助人工心臓の使い方は認められていません。日本でも数年以内に臨床試験を行っていき、植込み型補助人工心臓を半永久的に使えるようになる時がくるかもしれません。
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次に体外設置型の補助人工心臓ですが、これは植込み型の人工心臓が使えない場合に使用されます。どういう場合が使えないのでしょうか。たとえば、重い「急性心筋梗塞」や「劇症型心筋炎」のときです。劇症型心筋炎はウイルスによる心筋(心臓の筋肉)の感染症です(ただし、発症の頻度は高くありません)。
急性心筋梗塞や劇症型心筋炎のときには何が問題になるのでしょうか。それは、心臓移植に本当にふさわしいのかを判定する検査の時間すらとれないということです。そのため、救命のために心臓の機能を補助するしかない患者さんや、急激に循環状態が悪化してしまったような患者さんには必ず体外設置型補助人工心臓が使われます。
このことが何を意味するかというと、心臓移植を行うのが適切かどうかを判定する時間の猶予を持てる状態の方には植込み型を設置する余裕がありますが、急激に心不全が悪化してしまった方に対しては体外設置型の補助人工心臓を使わざるを得ないということです。
また、これは大人の場合に限定されます。子どもの場合については、次項に詳しく述べます。
小児の場合の選択肢は、「体外設置型」しかありません。その種類は補助人工心臓の種類―植込み型と体外設置型で述べたように、ベルリンハート社の「EXCOR®」(エクスコア)のみという状況です。小児の場合は、大人の植込み型と同様に心臓移植が必要と判定されるような重い心不全の患者さんが主な対象となります。または、重い心不全であるものの自分の心臓の機能が回復する可能性が高いと考えられる場合には、自分の心臓が回復するまでの循環補助として使用されることがあります。
体外式の補助人工心臓を使用する際は、大人も子どもも入院して行います。自分の心臓機能が回復した場合や心臓移植を受けられる場合には退院が可能になりますが、長期の入院が必要な場合も少なくはありません。
東京大学医学部附属病院 医工連携部 部長、東京大学医学部附属病院 心臓外科 教授
日本心臓血管外科学会 心臓血管外科専門医・心臓血管外科修練指導者日本外科学会 外科専門医・指導医日本循環器学会 循環器専門医日本胸部外科学会 指導医
東京大学医学部、米国オハイオ州オハイオ州立大学心臓胸部外科臨床フェローを経て東京大学医学部附属病院心臓外科で教授を務める。心臓外科の中でも特に重症心不全の治療を専門とし、補助人工心臓、心臓移植を含めた治療を行っている。それらにおいて日本有数の症例数と成績を誇り、国際学会においても高い評価を受ける。東京大学医学部附属病院心臓外科の治療を求め日本全国から集まる患者さんたちのため、日々治療に力を尽くしている。
小野 稔 先生の所属医療機関