「人工心臓」という名前を聞いたことがある方は多いかもしれません。しかし、実際にどのようなものなのかを知っている方はそこまで多くはないのでしょうか。
日本で最も多くの人工心臓を使用しており、心臓移植にも力を入れているのが東京大学医学部附属病院心臓外科です。世界のデータと比較しても遜色のない成績を挙げ、国際学会でも発表されている、東京大学医学部附属病院心臓外科教授の小野稔先生にお話をお聞きしました。
まず、心臓の機能について説明します。
心臓は全身に血液を送るポンプとしての役割を果たしています。図のように左の心臓と右に心臓に分かれており、右の心臓には全身から血液が戻ってきます。全身から戻ってきた血液は肺に送られます。肺では酸素が取り込まれます。酸素が取り込まれたあと、血液は左の心臓に戻ってきます。酸素が取り込まれた血液は左の心臓から全身に向かって送り出されます。つまり、心臓は全身に血液を送り出すための非常に重要な役割を果たしており、なくてはならない臓器なのです。
心臓のポンプ機能が損なわれてしまうことを「心不全」と言います。心筋梗塞など、さまざまな病気により心不全が引き起こされます。また、生まれつき心臓の病気を持っている(先天性心疾患といいます)子どももいます。病気の種類によっては非常に早い段階から心不全になってしまうこともあります。人工心臓は、この弱ってしまった心臓のポンプ機能を補っていくための人工的な心臓です。
人工心臓とは「心臓を取り出して、代わりに胸に植え込むもの」だと想像されるかもしれません。このような人工心臓を「置換型人工心臓」と言います。置換型人工心臓を植え込む際には、まず心臓を切り出す必要があります。その後、切り出した心臓がなくなったところに置換型人工心臓を植え込みます。この置換型人工心臓はあまりメジャーなものではなく、欧米においてごく限られた人にだけ用いられています。
日本で現在使われている人工心臓は「補助人工心臓」のみです。補助人工心臓の場合、自分の心臓は残した状態で使用します。その状態で、全身の循環を補助していく装置が補助人工心臓です。心臓は右側と左側に分かれていますが、現在、補助人工心臓の95%近くが心臓の左側の機能を補助するための人工心臓です。
人工心臓には3大合併症といわれるものがあり、以下の通りです。
置換型人工心臓と補助人工心臓で比較してみると、どちらでも起こる可能性のある合併症の種類はほぼ同じなのですが、置換型のほうがより合併症が起こりやすくなります。
このような合併症に加え、技術的な問題もあって、置換型人工心臓よりも補助人工心臓の方が多く用いられています。「補助人工心臓の種類―植込み型と体外設置型」からは補助人工心臓についてお話ししていきます。
東京大学医学部附属病院 医工連携部 部長、東京大学医学部附属病院 心臓外科 教授
日本心臓血管外科学会 心臓血管外科専門医・心臓血管外科修練指導者日本外科学会 外科専門医・指導医日本循環器学会 循環器専門医日本胸部外科学会 指導医
東京大学医学部、米国オハイオ州オハイオ州立大学心臓胸部外科臨床フェローを経て東京大学医学部附属病院心臓外科で教授を務める。心臓外科の中でも特に重症心不全の治療を専門とし、補助人工心臓、心臓移植を含めた治療を行っている。それらにおいて日本有数の症例数と成績を誇り、国際学会においても高い評価を受ける。東京大学医学部附属病院心臓外科の治療を求め日本全国から集まる患者さんたちのため、日々治療に力を尽くしている。
小野 稔 先生の所属医療機関