インタビュー

高齢者における精神医療のこれから

高齢者における精神医療のこれから
和田 秀樹 先生

国際医療福祉大学 大学院教授、和田秀樹こころと体のクリニック 院長

和田 秀樹 先生

この記事の最終更新は2015年10月28日です。

『高齢者における精神医療の課題』で、精神科医療が必要な高齢者の方は、若年の方に比べて心身のバランスによって症状が悪化しやすい傾向が強いことを述べました。また、現時点では高齢者を専門に受け入れる病院が少数であり、場合によってはご本人だけでなく介護にあたるご家族にも負担が生じるケースがあることをご説明しました。本記事では、高齢の方にこれから必要となる精神科医療について国際医療福祉大学・大学院教授の和田秀樹先生に解説していただきます。

『高齢者における精神医療の課題』で、精神科に限らず高齢の方の医療については医療体制が万全とは言い難い状態があることについて触れました。また、高齢の方が医療を受ける場合、ご家族の介助が必要不可欠になるケースがほとんどです。

しかし、ご家族であるがゆえに、精神科医療が必要になったご高齢の家族に対して複雑な感情が交錯することは少なくありません。精神疾患によって以前のような会話や交流ができなくなったりすると、家族を想う気持ちから通院・治療を勧めることへの葛藤が生じ、適切な受診機会を妨げてしまうこともあります。

また、あってはならないことですが、ご家族の虐待により精神科医療を受ける機会を逸する場合もありえます。我が国には、「高齢者虐待防止法」という法令がありますが、地域の実情を考慮した上で虐待を受けている高齢の方を保護し、適切な受診機会を設ける仕組みを構築する必要があるでしょう。また、独居の患者さんの中には、認知症などの理由により受診を拒否される方がいますが、法的な面も含めて適切な受診機会を得られる仕組みの構築が必要だといえます。

これらは、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律の一部を改正する法律(平成25年法律第四十七号)の施行により、医療従事者を中心に改善と拡充が図られています。

その上で重要になることは以下のことだと考えています。

長期入院も含めた治療を行える拠点病院を増やすのと同時に、精神科に限らず高齢者全体の健康を考えられる医療を実践できる専門医の養成と増員を図ることが必要です。また薬物療法においては、医学的なデータを論拠にした適切な治療を行うことも重要となります。

高齢者の方は、身体状態の変化で感情も大きく乱れるようなケースが珍しくありません。心と体のバランスが、若い人に比べてデリケートになっている方が非常に多いと考えています。

精神科においては、適切な薬物療法は欠かせません。しかしながら、カウンセリングによって心理的負担を軽減することで、健康状態を維持することも重要です。

特定の精神疾患に罹患すると、医療機関を受診するのを極端に嫌がるケースが多々あります。すると、ご家族の方が受診を促すのが極めて困難になります。このような場合に適切な受診を促す仕組みを構築することが重要です。まして独居の方の場合は、受診を促す以前に生活自体を維持することが困難になってきますので、自立支援を含めたサポート制度を考える必要があります。

最近、高齢の方が感情をあらわにさせる症状について指摘される機会が増えました。これらは医学的な問題もありますが、長年日本が培ってきた「年配の方を敬う」という社会的な考えが希薄になってきたことも、一つの要因になっていると考えています。

高齢の方に限らず若い方でも、自分を軽んじられる発言や扱いは耐えがたいものです。加えて、高齢の方が社会生活を営むうえで、他の方と交流を図る機会が限定されがちな社会構造になっています。さらに高齢者の場合は感情のコントロールを司る前頭葉の機能が落ちています。精神保健を図る意味においても、かつて生活の場に多数存在した、高齢の方が交流できるコミュニティづくりを図ることが重要です。

これらについては、医療従事者が全てをカバーできるわけではありません。しかしながら、高齢者の精神科医療だけでなく、多くの方が心の健康を保つために必要な要素だといえます。

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