『アンチエイジングの重要性―高齢者医療を考える』で、精神科医療も含め、高齢の方が健康を保つためには、心身ともに診療が可能な専門医と医療機関の整備が必要だということを述べました。また、疾患の発症が見られた場合は、早期に治療を開始することはいうまでもありませんが、健康なうちから老化を防ぐ方法を実践することによって、精神科領域も含めて健康を維持しやすくなることを説明しました。今回は医師が行うアンチエイジング医療について、国際医療福祉大学・大学院教授の和田秀樹先生に解説していただきます。
老化という言葉を聞くと、シミやシワ、体重増加、視力や聴力などの低下、記憶力の低下、性欲の減退など、様々な症状が思い浮かぶでしょう。老化によってシミやシワが気になられた方のうち、大多数の人は、シミやシワを消す治療を検討されるようです。
しかしながら、クロード・ショーシャ博士が提唱する抗加齢医学では、私たちの身体の全ての細胞が健全で若い頃と同じような機能を保っていれば、老化現象は発生しないと考えます。したがって、老化現象は細胞の機能不全が根本的な原因だという考えに至ります。抽象的に聞こえるかもしれませんが、ここでいう細胞の機能不全とは、大別して以下のとおりです。
1の酸化については、食物によってアレルギーが起こることはよく知られています。また、長期間摂取すると腸管内で慢性的なアレルギーを起こす食物があると抗加齢医学では考えています。腸管内にアレルギーが起こると免疫機能の変化などが起き、結果として老化を早めることになります。そのため、栄養状態はもちろん、食事の内容や食事をする時間についても管理を行うことを基本にしています。必要に応じてサプリメントを利用することもあります。
3の性ホルモンの減少については、医師に直接治療を受けていただくことになりますが、具体的には検査を含めて以下の治療を実施します。(ショーシャメソッドと呼ばれています)
ホルモン補充が老化を防ぐというと、イメージしにくいかもしれません。しかし、ホルモンの補充によって代謝機能を若い頃まで高め、ふつうに食事を摂っても太りにくい体になると、様々な社会的活動に対しても意欲を持てるようにできることが分かっています。
その好例の一つが男性ホルモンの補充だと考えられます。男性の脱毛は、テストステロン(男性ホルモンの一種)が関与しているといわれていますが、もっとも男性ホルモンの分泌が盛んになる思春期に髪の毛が薄くなる人はまれです。したがって、男性ホルモンの分泌が盛んになれば髪の毛が薄くなるというのは正確ではありません。
壮年期の男性の髪の毛が薄くなるのはジヒドロテストステロンの影響のためだということがわかっています。また、単に中高年以降では、テストステロンを補充してもジヒドロテストステロンがある一定の割合で変わってしまうこともわかっていますので、抗加齢医学においては、テストステロンの補充療法においても、これらのことを意識した上で慎重な投与を行います。
私は精神分析・森田療法を学んだことから、これを患者さんの治療プログラムに取り入れています。これは、中高年以降は心と体の結びつきが強まり、心の不調が体の不調につながるだけでなく、老化が進行する原因となることがわかっているためです。