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インタビュー

高齢者における精神医療の課題

高齢者における精神医療の課題
和田 秀樹 先生

国際医療福祉大学 大学院教授、和田秀樹こころと体のクリニック 院長

和田 秀樹 先生

『高齢化社会のなかで―高齢者医療とは?』で、日本は急速に高齢化が進んでいるものの、高齢者専門の総合病院や専門医が極めて少ない状態にあることを述べました。また、高齢者は若年層と違い、心と体のバランスが健康状態に与える影響が大きいため、心と体の状態を意識しながら治療を行うことが重要だということにも触れました。本記事では、高齢者における精神医療の課題について、国際医療福祉大学・大学院教授の和田秀樹先生に解説していただきます。

高齢の方は若年層の方に比べて心と体のバランスが健康状態に影響を与えやすくなっていることがほとんどです。したがって、精神科の治療を受けていない方でも、ちょっとした気持ちの変調から介護拒否を起こしたりして、ご家族や医療従事者が対応に苦慮するケースがままみられます。

また、幻覚・妄想・興奮・暴力・徘徊・不潔行為などといった精神科医の治療が必要な精神症状が見られる方は精神科の受診を拒否することが多く、ご家族や地域社会との関係の中で摩擦を生んでしまうことが珍しくありません。

このような患者さんに必要な医療を受けていただくために、東京都立精神保健福祉センターをはじめ、各自治体は専門機関を設け、相談体制を提供しています。また、患者さんご本人の同意が得られない場合、法令に基づいて入院治療を受けていただく「医療保護入院」という制度も用意されています。

ですが、『高齢化社会のなかで―高齢者医療とは?』で述べたように、高齢者を専門に受け入れている総合病院はごく少数です。したがって、高齢の方が最良の精神科医療を受けられる体制が整っているかといわれれば、疑問が残ります。極端な例になりますが、結核などのように法令で指定された感染症を合併症として併発している精神科領域の患者さんは、受け入れ先の病院が極めて限られてしまいます。生活圏から離れた病院に入院しなければならなくなることも多く、患者さんだけでなく、介護にあたるご家族にも相当な負担が生じることも珍しくありません。

入院が必要な患者さんだけでなく、通院治療を受ける方にも同じことがいえます。

特に精神科医療においては、薬物療法について議論がなされるものの、エビデンス(医学的な根拠)に基づいた意見ばかりではないのが現状です。

たとえば認知症の問題が問われていますが、うつ病を認知症と誤診されるリスクがあります。また、うつ病の生物学的な要因を明確に把握し認知症以外の精神症状を治療できる専門医が少なすぎるため、患者さんご本人のみならず、介護にあたるご家族にも負担が強いられる現状があります。

これに対して行政と医療者が現実を認識し、制度上の問題も含めて改善を図らなければなりません。医療従事者においては、大学病院以外に老年医学の専門医を養成する研修施設を増やすなどといった施策が必要です。行政においては先述の長期入院の上で治療を行える拠点病院を増やし、他の疾患(たとえばがんなど)の終末期医療を行えるホスピスなどの施設とも連携をとった医療制度を考える必要があるでしょう。

また、行政においては、精神保健の観点から老年世代の方が集まれる場所を意識して用意することも重要です。よく「病院の待合室が年配の方のたまり場になる」ということがいわれます。しかしながら、仕事をリタイアされた方が集まれるコミュニティがないために、このような状態になる実態があるのは間違いありません。

精神科医療において「グループ療法」というものがあります。医師、看護師、臨床心理士などといった専門家がサポートした上で、同じ病気の治療を受ける方が悩みなどを話し、心理的な負担を軽減するものです。

かつてはグループ療法の機能を担っていたコミュニティが多数存在しました。『高齢化社会のなかで―高齢者医療とは?』で、高齢者の方は心身のバランスが若い方よりもデリケートになっていると述べましたが、高齢の方が同年代の方や若い方と交流できるコミュニティを用意することで心の負担を軽減し、結果として心身の健康増進を図ることができるのではないでしょうか。