妊婦さんにとって、おなかの中の赤ちゃんの成長はとても気になるものです。そんな中で「少し小さめです」「小さいですね」などの一言を医師から聞くととても不安になるでしょう。おなかの赤ちゃんが小さいこと=胎児発育不全(FGR)について、国立成育医療研究センター 周産期センター産科の梅原永能先生にご説明いただきました。
お母さんとおなかの赤ちゃんの健康を守り、妊娠が順調かどうかをチェックするための妊婦健診では、血圧・体重測定や尿検査以外に、超音波を使って赤ちゃんの推定体重を算出します。
この推定体重は週数ごとに平均・上限・下限が定められており、赤ちゃんの推定体重がこの下限以下であることを「週数の割に赤ちゃんが育っていない状態」として、胎児発育不全(FGR)といいます。胎児発育不全(FGR)の赤ちゃんは体が小さいだけでなく、さまざまな臓器の機能が未熟なことが多いです。また、最悪の場合、妊娠中に赤ちゃんの状態が急に悪化して子宮内で亡くなってしまうこともあります。そのため、正常に育っている赤ちゃんより、慎重に管理をすることが必要です。
赤ちゃんの小ささの度合いは標準偏差(SD : standard deviation)を用いて表現します。胎児発育不全(FGR)と診断されるのは胎児推定体重が-1.5SD以下のときです。これを言い換えると「同じ週数の赤ちゃんを体重の小さい順に並べたとき、100人中で7番目以下」が胎児発育不全(FGR)の診断を受けることになります。
なお、SDとは統計学的な用語で、日本では-1.5SDという数値を基準にしていますが、欧米ではパーセンタイルという数値が基準となり、10パーセンタイル未満の赤ちゃんを胎児発育不全(FGR)と診断します。このように、欧米と日本とは少し胎児発育不全(FGR)の診断基準が異なります。
100人中の7番目以下が胎児発育不全(FGR)であれば、多くの赤ちゃん(おおよそ7%の赤ちゃん)が胎児発育不全(FGR)の診断を受けることとなります。しかし、小さいほうから7番目に入っていても、健康で病気のない赤ちゃんもたくさん含まれているのです。
胎児発育不全(FGR)は、病気ではない体質的に小さな正常な赤ちゃんと、何らかの理由により大きくなれない赤ちゃんのふたつを含んだ診断となります。このことから、赤ちゃんが小さい原因をしっかり見極めることが重要といえます。
また、一般に経産婦さんの赤ちゃんは初産婦さんより大きい・おなかの赤ちゃんが男児であれば女児より大きいことが知られていますが、現在の日本の胎児推定体重の基準には、それらの差異は考慮されていません。本来ならば、初産婦なのか経産婦なのか、生まれてくる赤ちゃんの性別がどちらなのか、さらには母体の体格についても考慮した個別の基準が必要であると考えられています。
研究開発法人 国立成育医療研究センター 周産期・母性診療センター 産科診療部長
研究開発法人 国立成育医療研究センター 周産期・母性診療センター 産科診療部長
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医・指導医日本周産期・新生児医学会 周産期専門医(母体・胎児)・指導医・評議員日本超音波医学会 超音波専門医・超音波指導医・代議員日本人類遺伝学会 臨床遺伝専門医
東京慈恵会医科大学を卒業後、独立行政法人国立成育医療研究センター病院周産期・母性診療センター産科医員。胎児発育不全(FGR)などを対象とした、周産期医療の専門家。「胎児が無事に産まれ健康に育つために産婦人科医ができることは何か」を考え、胎児発育不全(FGR)管理指針作成のための多施設共同研究にも参画。母児ともに健康であるための医療を提供し続けている。
梅原 永能 先生の所属医療機関
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