もしも胎児発育不全(FGR)と医師から告げられたら、ショックは計り知れないものでしょう。しかし、胎児発育不全(FGR)がそのまま赤ちゃんの死につながるわけではありません。胎児発育不全(FGR)の赤ちゃんの管理について、国立成育医療研究センター 周産期センター産科の梅原永能先生にご説明していただきました。
胎児発育不全(FGR)と診断されたお母さんは、病院に来てもらう頻度を上げて診察を受けていただくようになります。医師は母体の血圧や尿の状態にも注意しながら、赤ちゃんの詳細な超音波検査や母体の血液検査を行い、胎児発育不全(FGR)の原因を推定します。原因が明らかとなり、原因が除去可能なものであれば、原因除去が治療に結びつくことがあります。
しかし、詳細な検査にも関わらず原因が特定できない場合も多いです。その場合には「赤ちゃんが元気かどうか」「大きくなっているか(育っているか)」を経時的に確認するため、頻回の妊婦健診を行うことや、場合によっては入院して管理を行うこともあります。具体的には、超音波で赤ちゃんの大きさの確認をしたり、赤ちゃんの体のさまざまな部分の血流を測定したり、胎児心拍モニターのパターンを解析して判断しています。
胎児発育不全(FGR)の原因がはっきりしている場合、その原因を除去することが胎児発育不全(FGR)の改善につながることもあります。しかし、一度起こってしまった胎児発育不全(FGR)を、正常な大きさまで大きくする方法はみつかっていません。
現在、私たち産婦人科医にできることは、①赤ちゃんが元気な限りお母さんのおなかの中で育ててあげる、②赤ちゃんの状態が本当に悪くなる前に赤ちゃんを産ませてあげる・またそのタイミングを間違えないように厳重に管理する、のふたつです。
お母さんにはなるべくストレスのない生活を送ってもらうため、のんびりと横になっている時間を増やしてもらい、心身ともに安静にすることをお勧めしています。これらが医学的に胎児発育不全(FGR)に効果があるのかについては明らかではありませんが、母児にとって大切なことだと考えています。
「赤ちゃんに元気がない」と判断した場合、早急に赤ちゃんを産んであげないとおなかの中で赤ちゃんが死亡(子宮内胎児死亡)してしまう可能性があります。一方、「赤ちゃんが元気である」と判断した場合、もともと胎児発育不全(FGR)で小さい赤ちゃんを早い時期に娩出する必要はありません。一日でも分娩時期を先に延ばすことにより、少しでも成熟した大きな赤ちゃんを産んでもらうことを目標としています。
最近では、「赤ちゃんが元気である」から「赤ちゃんの元気がない」へ赤ちゃんの状態が悪化する過程で、赤ちゃんの様々な部分の血流が徐々に変化する過程がわかるようになってきました。つまり、超音波検査によりどのくらい「赤ちゃんの元気がない」かがわかるようになってきたのです。
今後は、このような超音波血流測定による赤ちゃんの元気さの評価方法が確立し、それをもとに、個々の赤ちゃんの状態に合わせた分娩時期の決定について管理方針が決定されることが望まれています。
胎児発育不全(FGR)の赤ちゃんの分娩方法を帝王切開とするのか経腟分娩(通常分娩)とするのかについては、赤ちゃんの週数、赤ちゃんの大きさ、赤ちゃんの元気さなどを総合的に考えて判断するために一概には述べられません。この判断は、それぞれの施設で独自に決定しています。
お母さんにとって負担が大きい帝王切開を最初から考える必要はありませんが、そこは赤ちゃんの週数・大きさ・元気さのバランスによって異なってきます。一般的な傾向としては、胎児発育不全(FGR)の程度が著しいほど、帝王切開による分娩が必要になることが多いです。
早く産まれた赤ちゃんや小さく産まれた赤ちゃんの新生児管理は、最近めざましく進歩しています。
赤ちゃんが無事に産まれ後遺症を残さず健康に育つために、我々産婦人科医ができることは、最適な分娩のタイミングを見極め、小児科の先生に管理をお願いすることだと考えています。そのためには赤ちゃんの状態を詳細に把握する方法の確立と、それにもとづく胎児発育不全(FGR)の管理基準を個々の赤ちゃんの状態に応じて作成することが必要となるでしょう。
昨年より日本において、胎児発育不全(FGR)管理指針作成のための多施設共同研究をスタートさせました。この研究が、胎児発育不全(FGR)と診断された赤ちゃんとお母さんを含めた家族の幸せにつながるものと信じて、日々努力していきたいと思っています。
研究開発法人 国立成育医療研究センター 周産期・母性診療センター 産科診療部長
研究開発法人 国立成育医療研究センター 周産期・母性診療センター 産科診療部長
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医・指導医日本周産期・新生児医学会 周産期専門医(母体・胎児)・指導医・評議員日本超音波医学会 超音波専門医・超音波指導医・代議員日本人類遺伝学会 臨床遺伝専門医
東京慈恵会医科大学を卒業後、独立行政法人国立成育医療研究センター病院周産期・母性診療センター産科医員。胎児発育不全(FGR)などを対象とした、周産期医療の専門家。「胎児が無事に産まれ健康に育つために産婦人科医ができることは何か」を考え、胎児発育不全(FGR)管理指針作成のための多施設共同研究にも参画。母児ともに健康であるための医療を提供し続けている。
梅原 永能 先生の所属医療機関
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