「赤ちゃんが小さいですね」と言われると、不安になると同時にその原因が気になることでしょう。胎児発育不全(FGR)の原因について、国立成育医療研究センター 周産期センター産科の梅原永能先生にご説明していただきました。
胎児発育不全(FGR)の原因は大きく分けて5つあります。①体質(個性)、②胎児因子、③母体因子、④胎盤・臍帯因子、そして⑤環境因子です。原因はひとつ、あるいは複数が重なって胎児発育不全(FGR)を引き起こすと言われています。
いわゆる「特に原因のない、正常な小柄な子」のことです。妊娠中あるいは赤ちゃんが生まれてから診察・検査をしても異常が見当たらず、この赤ちゃんが小さい理由は生まれ持った体質(個性)であると結論づけられます。
このような体質的な胎児発育不全(FGR)の場合、妊娠中の経過や出生後の発達にも何ら問題ないことがほとんどです。ただし、個性としての胎児発育不全(FGR)の診断は慎重にする必要があります。それは誤診(本当は何らかの原因があって小さいのに、体質的なものととらえてしまうこと)を防ぐためです。そのため、後述する胎児発育不全(FGR)の原因を除外してから、「特に明らかな原因がないため、この子の小ささは体質的な可能性が高い」と判断します。
胎児因子とは、赤ちゃん自体に何らかの病気があり大きくなれないことです。頻度としては決して多くはありませんが、胎児染色体異常や形態異常、先天性ウイルス感染などが挙げられます。
代表的な染色体異常として、18トリソミーや13トリソミーは胎児発育不全(FGR)を引き起こす原因とされています。この染色体異常症では、赤ちゃんが小さい以外にも身体的な特徴があります。また、ダウン症は21トリソミーによって起こる病気で、体が小さくなることもありますが、13、18トリソミーほど体が小さくなることは少ないとされています。
赤ちゃんの体の形に大きな異常がある場合(胎児形態異常)、赤ちゃん自身の成長が妨げられることがあり、先天性心疾患や奇形症候群などが挙げられます。これらは、詳細な超音波検査を行うことで疑いを持つことが可能です。妊婦健診では超音波検査を行っているため、胎児発育遅延を診断した場合には、胎児形態異常の有無を検索し原因を推定することが重要となります。
それ以外にも、妊娠中の母体ウイルス感染の一部では、赤ちゃんにも感染が波及することで赤ちゃんの成長が妨げられることがあります。これは胎児先天性ウイルス感染といわれ、胎児発育遅延の原因となります。母体ウイルス感染は血液検査によって感染の可能性を推定することができますし、赤ちゃんに特徴的な超音波異常が出現することもあります。
母体の様々な合併症も胎児発育遅延の原因となることが知られています。高血圧や糖尿病・腎臓病・甲状腺疾患・膠原病などの基礎疾患が母体にあること、子宮に生まれつきの形態異常があったり、筋腫・腺筋症があることも胎児発育遅延の原因になることがあります。
また、妊娠中にお母さんの血圧が上昇する妊娠高血圧症候群では、母体の血圧が上昇するより前に胎児発育不全(FGR)が出現することが知られています。
胎盤は酸素と栄養を母体の血液から受け取る働きをしています。胎盤の腫瘍や出血、胎盤の出来る位置の異常によりこの働きが妨げられると、胎児発育不全(FGR)が起こります。
臍帯は胎盤から赤ちゃんへ血液を運ぶ働きをしていますが、へその緒が極端にねじ曲がっていて血液の流れが妨げられたり(臍帯過捻転)、通常2本ある臍帯の動脈が1本になってしまっていたり、胎盤の極端に端からへその緒が出ている場合、赤ちゃんへ運ばれる血液の流れが減少して胎児発育不全(FGR)をおこすことがあります。
また、胎盤そのものの機能が低下していることもあり、これは胎盤機能不全と呼ばれています。胎児発育不全(FGR)の原因で最も多いとされていますが、出生前の検査では明らかな原因が特定できず、出生後の胎盤の顕微鏡検査で初めて診断されることが多いといわれています。
環境要因として大きく上げられるのは、コカインなどの薬物、タバコ、飲酒です。これらを常用しているお母さんが妊娠すると、胎児発育不全(FGR)を発症しやすいといわれています。
アルコールは催奇形性(奇形を誘導する可能性が増えること)や成長障害を引き起こすことが判明しています。一日のアルコール摂取量が15ml未満であれば、胎児への影響は少ないともいわれていますが、リスクが伴うことは間違いありません。
また、喫煙は母体の血管収縮作用を誘発するため、赤ちゃんに十分な酸素や栄養を供給することが難しくなります。胎児発育不全(FGR)と喫煙の関係は明らかであり、妊婦さんが喫煙をしていると赤ちゃんは約200g体重が軽くなり、ヘビースモーカーの場合は約450g軽くなるともいわれています。
これらは禁酒と禁煙により予防が可能なので、妊娠を考えている女性は妊娠前から健康管理に留意する必要があるでしょう。
研究開発法人 国立成育医療研究センター 周産期・母性診療センター 産科診療部長
研究開発法人 国立成育医療研究センター 周産期・母性診療センター 産科診療部長
日本産科婦人科学会 産婦人科専門医・指導医日本周産期・新生児医学会 周産期専門医(母体・胎児)・指導医・評議員日本超音波医学会 超音波専門医・超音波指導医・代議員日本人類遺伝学会 臨床遺伝専門医
東京慈恵会医科大学を卒業後、独立行政法人国立成育医療研究センター病院周産期・母性診療センター産科医員。胎児発育不全(FGR)などを対象とした、周産期医療の専門家。「胎児が無事に産まれ健康に育つために産婦人科医ができることは何か」を考え、胎児発育不全(FGR)管理指針作成のための多施設共同研究にも参画。母児ともに健康であるための医療を提供し続けている。
梅原 永能 先生の所属医療機関
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